「アトピーの遠距離治療」 川崎萌菜 1歳

20023月上旬

1ヶ月検診が終わり、新生児黄疸もやっと消えてきたころ、目尻のあたりにプツプツと吹き出物を発見。何日かすると頬に湿疹が出来始める。耳がざらついて黄色の汁がしみ出るようになり、これが乾いて黄色いかさぶたとなる。また眉や額の生え際にフケのようなものがこびりつくようになる。

 1週間ほど様子を見るが良くなる気配がないので、検診を受けた病院へ行くと「赤ちゃん湿疹」と言われ、非ステロイドの軟膏を渡され、「3、4日経っても良くならないようだったら、また来てね。」と言われる。

 また1週間ほど経っても全く改善しないので再診しようとすると、看護婦さんに皮膚科に行った方がいいと言われ、皮膚科を受診。ここでは「乳児脂漏性皮膚炎」と診断される。「胎内の水中生活から空気中の生活に適応する過程で起きるもので、心配ないから石鹸でよく洗って保湿すればよい。」と言われ、保湿クリームをもらう。

 当時はまだ、かゆそうな素振りは見せないと思っていたが、風呂上りでもなかなか寝付かず、とにかくよく泣いていたので、やはりかゆくて不機嫌だったのだろう。

2002年4月中旬

 1ヶ月ほど言われたとおりスキンケアをすると、耳の黄色いかさぶたと眉や額の生え際のフケはなくなったが、両頬の湿疹はむしろ増え、首にも湿疹がでてジュクジュクするようになり、ひじから先や向こう脛がざらざらするようになる。

 どうもこのままではだめだと思い、最初の小児科を受診すると、弱いステロイドを処方され、「数日して良くならなかったら、また来てね。」と言われる。母に電話で話すと「ステロイドは良くない」と言われ心配になる。しかし他にいい方法も見つからず、少し塗ってみたところ、首の湿疹はきれいに治まったが両頬は全く変化なし。病院に行けば、もっと強い薬を渡されるだけなんだろうなと、不安になっていたところ、京都に住む義母から「デパートで知り合った人が、漢方のお風呂で赤ちゃん湿疹が治ったと教えてくれたから、行ってみたら?」と電話があり、松本医院のことを教えてもらう。とりあえずホームページを読んで「悪くはなさそうだし、ステロイドじゃないからいいかな」と思い、私達は関東に住んでいるので、ゴールデンウィークに帰省して受診することにする。

 このころは夜遅くなると、きちんと寝てくれるようになったが、昼間はあまり寝ないし、風呂上りも30分か1時間おきに起きて泣くという状態。かゆみが強くなってきていたのだろう。

2002年ゴールデンウィーク

 連休初日に、松本医院受診。漢方浴剤と漢方軟膏、消毒薬、抗生物質(軟膏、飲み薬)を処方される。早速その日の夕方から漢方入浴開始。3ヶ月の赤ちゃんに長風呂させるのは心配で、最初は15分程度にする。気持ちよさそうに湯船で寝てしまった。

 連休で帰省している間中、風呂上りにも熟睡できずよく泣いていた。漢方入浴を始めてすぐに湿疹は悪化。顔や手足は湿疹で真っ赤に腫れ上がってしまった。連休が終わる頃には、頬のジュクジュクがピークに達し、何度着替えてもすぐにベトベトになってしまった。

2002年5月

 連休終了後も、20分から30分の漢方入浴を1日1回続ける。

 日によってかゆみやジュクジュクが多少良くなったり悪くなったりを繰り返すが、ほとんど毎日頬は真っ赤。頬だけでなく顔面全体に湿疹とその化膿したおできが出来、手足はジュクジュクに汁が出ている状態。お腹や背中も赤くなって、何も出来ていないところは手足の裏とオムツをしているところだけ。このころからかゆみがとても強くなってきたようで、夕方になると金切り声をあげてかきむしることが多くなった。夕方、風呂上りに寝付く前、夜中の授乳後の寝付く前は、とくによく泣いてかきむしっていた。何もしてやれず、夫婦で「かゆいね、可哀想にね。」と言いながら交代でだっこしてあげ、塗り薬を塗ることしか出来ないことがつらい。

 中旬に、3・4ヶ月検診で体重を量ると、連休前より160グラムも減っていて愕然とする。小児科の医師には、「ひどいわー、こんな状態にして。口では言えないけど、ものすごくかゆいんですよ。かわいそうだわー。」と言われ心が痛む。「漢方で良くなっているの?良くなってないでしょ。まず西洋医学があっての漢方でしょ。ステロイドと保湿剤で気長にやっていけばいいんですよ。」と強く言われ不安になり、とりあえず保健所のアレルギー相談を予約する。全身湿疹だらけで当日はBCGの予防接種をする場所もないほどだった。

 松本医師に「赤ちゃんのアトピーで一番心配なのは、熱が出ることと、体重が増えないこと。ごくまれなケースだが、熱が出たり体重が減って、脳の発達に必要な栄養が足りなくなって脳に障害が残ることもあるので、その時はこの治療を中止しなければならない。」と言われていたのが頭をよぎる。とりあえず体重のことだけでも何とかしなければと、松本医師に電話で相談する。開口一番、松本医師に「ステロイドを塗ったら、表面だけはきれいになります。漢方をやめてステロイドにするのも、お母さん次第。」と言われ、途方に暮れるが「母乳にたくさんタンパク質を出すために、薬局でプロテインを買って飲んで下さい。」と言われ、プロテインを採るようにする。漢方入浴は、入浴後に汁がたくさん出るので、2日に1回にしてみる。次に入った時には、一気に汁が出て悪くなった感じがするので、毎日入り時間を短く(15分)することにする。

 検診の3日後に、保健所のアレルギー相談に行くと、医師に「私ならこの状態だと入院させます。漢方で治すと言うが、ちっとも良くなってないでしょ。ステロイドの副作用が問題になったのは、非常に強いステロイドを体中に塗っていた10年前のこと。今は症状に応じて使い分けているから大丈夫。」と強く言われる。さらに「全身にとびひのようになっていて、ブドウ球菌の感染で敗血症になる危険がある。」とも言われ、抗生物質を塗っていると言うと「ステロイドでまず傷を修復するのが先決」「昔、漢方で治すと言って、粟やヒエだけの食事制限をしていた6・7ヶ月の赤ちゃんがひどい状態で病院に来たが、脳に障害が残ってしまった。」と言われる。「食事制限はしていない。」と言っても、信用していない様子。保健婦の乳児相談でも「つらいのは赤ちゃんだから、つらさを取ってあげることが大切じゃない?漢方治療の見極め(あきらめ)も大切よ。セカンドオピニオン(西洋医学、漢方とも)を聞いてみるのもいいんじゃない?」と、遠まわしながら今の方法への否定的見解を言われ、益々不安になる。とにかく体重の変化を見るために、3週間後の育児相談を予約するが、帰宅してからも、このまま漢方治療を続けて娘の体力がもつのか、発育に支障がでるのではないかと心配になる。こういう時、遠距離でなかなか受診してもらえないことは非常につらい。松本医師は「いつでも電話して下さい。」とおしゃってくださり大変有り難かったが、素人に症状の見極めは難しいし何より不安だ。やはり限界があるのも事実。今から考えると、最初の1ヶ月だけでも週に1回ぐらいは受診させたかった。

 このときは夫婦で話し合い、体重は減っているが、1日中泣いているわけでも、全然寝ないわけでも、食欲が落ちているわけでもないので、まだ大丈夫だろうという結論に。夫は松本医療のホームページで手記を読み、「だいたい最初の1か月は悪くなる。その後は一進一退を繰り返し、数ヶ月経つとかなり良くなる。じんましんが出始めるとあと少し、というパターンが多いみたいだから、とりあえず1か月は頑張ってみよう。」と言ってくれた。夫婦で意見が違うと大変だが、こういう時方針が一致しているのは助かる。

20026

 漢方浴を始めて1ヶ月を過ぎる頃、アトピーの状態に変化が見え始める。それまでは、漢方入浴以前に比べて悪化する一方だったのが、悪化が止まり、時々僅かに改善するようになる。どうのヤマは超えたらしいなと感じる。

 一方私は、育児疲れか出産後初めて熱でダウン。乳腺炎も起こしかけてしまったため、しばらく実母に来てもらい少しのんびりさせてもらう。

 育児相談で、体重が290グラム増えていたので、ほっと一安心。これで漢方治療を続けていけると密かに自信をもつ。保健婦からは「アトピーのひどいところだけでも、ステロイドを塗ったら?」とか「離乳食も始まるから、アレルギー検査を受けたら?」と言われるが、適当に聞き流してウキウキとした気分で帰宅。

 その日から漢方入浴の時間も、様子を見ながら少しずつ長くしていくことにする。20分から25分、30分。次第に顔の赤みは引いていき、湿疹も主に額だけに減っていく。化膿することはほとんどなくなる。その一方で手足は相変わらずで、ひじ、ひざの関節部分はジュクジュクで皮膚も盛り上がってゴムのように硬くなった状態。足の爪で交互にひざの裏を掻くようになり、赤ちゃんの知恵に感心する。

2002年7月

 7月に入ると、それまではいつもジュクジュクだったひじ、ひざの湿疹が時々良くなるようになる。良くなったり悪くなったりするが、悪化しても当初のころほどではなくなる。2・3日いい日が続くと、1・2日悪化するというサイクルか。風呂上りに寝る時間も少しずつ長くなり、夕方かゆくて泣く日も減ってくる。

 このころマンションのモデルルームへ行くと、頬が赤くなり、その晩から翌日にかけて湿疹が悪化するようになり、どうもシックハウス症候群のよう。低ホルムアルデヒドと言っているが、モデルルームは対策がとられていないのか、その程度では娘には不十分なのか。

中旬に保健婦、来宅。体重も増えていたし、湿疹も良くなったと言ってくれたので大満足。保健婦は、まだ湿疹の残っているところ(ジュクジュクが治ってかさぶた状態になり、私はもう大丈夫と思っているところ)を指して、「ここだけでも治してあげたら。」とか、「離乳食をスムーズに進めるためにも、アレルギー検査を受けたら?」と言ってくれるが、聞き流す。いずれアトピーが治れば何でも食べられるのだから、痛い思いをさせる必要はないだろうし、ステロイドを塗れと言われるのはたくさんだから。

2002年8月

8月に入ると、良い日と悪い日の割合が、3対1から4対1くらいになっていく。悪い日といっても頬が赤くなったり、おでこを少しかきむしっているという程度。湿疹になって出てくることも少なくなり、汁が出ることはほとんどなくなる。体力もついてきただろうからと、漢方入浴は40分にするが、元気すぎて寝ないし、じっとしていなくなったのでこれ以上は入れてられない。一緒に入るこっちも、かなり消耗する。

7月(満6か月)から離乳食を始める。最初にお粥を食べた1・2時間後に、少しかゆがるが、2・3日続けて食べさせると、もうかゆくなくなった様子。野菜(じゃがいも、かぼちゃ、にんじん)は、大丈夫。白身魚(たら、太刀魚、いさき、ひらめ)は大丈夫だが、しらすはかゆくなるので少しずつ食べさせる。

お盆に両方の実家に帰省する。私の実家の田舎は空気がいいのか、湿疹はいたって良い状態だった。帰省を兼ねて、松本医院を2度目の受診。「そろそろ手記を書いてください。」と言われる程、落ちついた状態だった。

2002年9月10日

湿疹はほとんど治り、中旬現在で、両足首がざらざらしている程度。頬はつるつるになり、ひじ、ひざの傷跡もほとんど目立たなくなった。風呂の後、寝る前に少しかゆがる日があるほかは、かゆい素振りもほとんど見られない。風呂前の消毒も簡単に終わるし、塗り薬もほとんど要らなくなった。

月初めにゆで卵の黄身を食べさせたところ、半分くらいなら大丈夫だが、3分の2だったりベビーフードの卵豆腐だと、かゆくなる。またベビーフードの「しらす粥」もかゆくなる。まだまだ完治とはいかないようで、かゆくて寝る前に泣いたりすると、翌日は以前湿疹のひどかったところにブツブツが出ており、数日すると引っ込むという時が、月に2回ほどある。少しずつ新しい食べ物に挑戦する毎日だ。

10月に入り、食べる量が増えてくると、今まで大丈夫だった卵黄やヨーグルトでも、少し頬が赤くなるようになる。2・3日続けて食べると何日かして頬が赤くなる。また今まできれいだった背中やお尻のあたりも、お風呂にはいると、まだらに赤い斑点が出るようになる。こういう時は、時々足をこすりあわせてかゆそうな仕草をしている。まだまだ完治とはいかないようだが、気長にやっていこう。

今考えると、義父母がデパートで松本医院のことを聞かなかったら、どうなっていただろうと思い、その出会いにとても感謝している。義父母は「必ず治るから。」と励ましてくれ、「アレルギーの子は、頭がいいらしいのよ。」と楽天的な話もしてくれた。実母は、私がダウンした時娘の世話をしてくれ、親族の助けに恵まれた。娘が生まれてからこれまでの日々は、アトピーとの闘いの日々であったが、その間も、娘は泣いたり笑ったりしながら確実に成長をしてきた。アトピーのことも、いずれは思い出話になるだろう。この手記を読んだ人も、アトピーの赤ちゃんを抱えて気を落とすことなく、赤ちゃんの日々の成長を喜んであげて欲しい。そして松本医院との出会いを感謝する日が来ることを、心から願っている。

平成14年10月10日