抗体構造について

 抗体は英語で“Antibody”といいます。抗体はどんな成分でできているのでしょう?糖とタンパクからできています。抗体はイムノグロブリン(Immunoglobulin)という名がつけられた糖タンパク質の一種であるのです。イムノグロブリン(Immunoglobulin)のイムノは「免疫に関する」という意味であり、グロブリンが「血液の血漿に溶けているタンパクの総称」です。実際はイムノグロブリンは「免疫に関わる抗体が存在する血清分画に溶けているタンパク」ですが。生化学的にはこの糖タンパクの一つでありますが、免疫学では抗体を呼んでいるのです。この抗体は、抗原と(Antigen)と結合する能力があります。抗原とは生体外に由来するタンパク質や糖鎖などのいわゆる異物で、抗体は抗原に結合することによって、その異物を排除したり不活化します。一種類の抗体が結合する抗原は一種類のみであり、特異的であることはご存知ですね。



抗体はYの字に似ているのも知っていますね。Yというのはイメージであって、正確な抗体の形ではないのです。もうちょっと正確に、左下に抗体構造を図示しておきましょう。Fabは“Fragment antigen binding”の略語で、日本語では「抗体と結びつく部分」という意味です。Fcは、“fragment crystallizable”の略語で、「結晶化できる部分」という意味です。H鎖は“Heavy chain”の略で重鎖の意味です。L鎖は“Light chain”の略で軽鎖の意味です。糖タンパクであるイムノグロブリンの分子は、2本の重鎖(Heavy chain)と 2 本の軽鎖(Light Chain)がジスルフィド結合(S-S結合)によって結合し、形作られる Y 字型が基本単位です。ジスルフィドの英語は“disulfide”と書き日本語では二硫化物の意味です。ジスルフィド結合は、2つの硫黄が結びついているという意味です。Y 字の上端 2 箇所に相当する部分は抗原結合部位(Antigen binding site)と呼ばれ、文字通り抗原に結合します。結合する抗原が異なればこの抗原結合部位のアミノ酸配列および構造は異なり、その違いが抗体の違いであり、抗体の特異性を示すのです。イムノグロブリンには IgA、IgD、IgE、IgG、IgM の 5 種類のクラスがあります。  まず抗体は長い2本のH鎖と短い2本のL鎖で成り立っていることはご存知ですね。さらに抗体には5種類あることも述べました。IgD、IgM、IgG、IgA、IgEの5種類の抗体ですね。この5種類ともH鎖は可変領域(Variable region)と定常領域(Constant region)に分けられます。定常領域は IgDはδ、IgMはμ、IgGはγ、IgAはα、IgEはεの 5 種類あります。一方、L鎖はκ鎖(カッパ鎖)とλ鎖(ラムダ鎖)の2種類です。  さて、多発性骨髄腫の患者の診断がどのようにつけられるかについて、上の図を見ながら説明しましょう。まず抗体がどのようにして作られるかから話を始める必要があります。まず重鎖が作られ、その後軽鎖が作られます。このようなタンパクがどのような遺伝子によって順序良く作られていくかについては次回、詳しく述べる予定です。乞うご期待。

2018/08/30

いつ動物に高等免疫、つまり抗体を作るという免疫が生じたか、皆さんご存知ですか?動物の免疫は細菌やウイルスなどの病原体に対して、まず自然免疫が芽生えました。ところが細菌やウイルスは、この自然免疫から逃れるために、様々な突然変異を起こしながら進化してきました。動物は病原体と生きるか死ぬかの長い戦いの末に、時間をかけて最後に動物がこれらの病原体を確実に打ち負かす免疫の進化を遂げました。これが私たち人間も所有している高等免疫であり、適応免疫とか獲得免疫と呼ばれる免疫のシステムであります。 高等免疫とはなんでしょうか?一言で言うと、高等免疫とは、自然免疫のように漠然と敵を見つけて殺すのではなくて、明確に見つけ確実にやっつける究極の防衛手段であります。今私が論じている抗体そのものあります。この抗体が異常になって生じる病気のひとつが多発性骨髄腫であります。それではこの抗体を最初に作ったのは誰でしょうか?2億年前に魚類が作ったのであります。それがひとつひとつの病原体を確実に殺すことができる特異的な究極の防衛手段となる抗体であります。この抗体を作り出すのはBリンパ球であります。 Bリンパ球は、骨髄で生まれます。骨髄にある多能性造血幹細胞から作られるのであります。毎日10億以上のBリンパ球を一生涯人間は死ぬまで作り続けるのであります。血管の中には30億個のBリンパ球が毎日毎日巡回しています。Bリンパ球は膜の表面にB細胞受容体と呼ばれる2種類のタンパクである2本の重鎖(Heavy chain)と2本の軽鎖(Light Chain)から成り立っているB細胞受容体を持っています。“Heavy chain”は“Hc”、“Light Chain”は“Lc”と縮めて表記します。このB細胞受容体と抗体はほとんど同じものであります。言い換えると、B細胞受容体が剥がれたものが抗体と考えてください。 ちなみに、日本で1987年に初めてノーベル生理医学書を受賞したのは利根川進先生です。その当時、無限の病原体に対しては100億以上の異なった抗体を作る必要があるのに、人間が持っている遺伝子は数万〜1億ほどしかないことが知られていました。(現在では人間の遺伝子は23000個とわかっています。)にもかかわらず、どうして100億以上の違った抗体が作れるのかという疑問に対しての答えを出したのです。利根川進先生は、「抗体の多様性は、生まれ持った抗体の遺伝子が特別な組み替えによって作られる」ことを明らかにしたのです。その当時は、生まれた時に与えられたいかなる遺伝子も永遠に変わらないという考え方が定説でありました。この定説は、抗体の遺伝子に関して、つまり重鎖と軽鎖の遺伝子については間違いであるということを世界で初めて正しく証明したためにノーベル生理医学賞を受賞したのはご存知ですね。 さて、B細胞受容体はHcもLcもタンパクでありますから、必ずこのタンパクを発現する遺伝子があります。Hcの遺伝子は14番目の染色体にあります。Bリンパ球は、お母さんとお父さんからもらった2本の14番にHcの遺伝子を持っています。このように同じようなタンパクを作る遺伝子を対立遺伝子といいます。それではお父さんとお母さんのどちらのHcの対立遺伝子のひとつがどのように発現するのでしょうか?とにかくどちらが早く作るかの競争をするのです。いち早くHc遺伝子を発現してHcタンパクを作った方のタンパクが重鎖となり、遅れた方は使われることがないのです。このように一方の遺伝子だけが発現される現象を対立遺伝子排除といいます。
2018/09/6