オプジーボの副作用について
 〜オプジーボが一番効くガンであるメラノーマやメラニン細胞について〜

 オプジーボ投与による華々しい副作用の一つ一つについて詳しく書くつもりでしたが、実はオプジーボが一番効くガンはメラノーマ(悪性黒色腫)であります。なぜでしょうか?その説明をまずしておきましょう。メラノーマが生ずるメラニン細胞というのはまず何であるか説明しましょう。

 メラニン細胞(melanocyte)は、メラニンという黒色色素を産生する細胞であります。英語でメラノサイトとも呼ばれます。“melano”は「黒い」という意味であり、“cyte”は細胞という意味ですから、黒色細胞とも呼ばれます。チロシナーゼという酵素を持っており、血液からアミノ酸の一つであるチロシンからメラニンを生成します。チロシンというアミノ酸は、芳香族の側鎖を持つアミノ酸であります。人体の毛母基、脂腺、汗腺、真皮、脈絡膜、虹彩、髄膜、子宮小丘などに出現し、遺伝子に障害を与える紫外線から、以上述べた組織の細胞の遺伝子を守っています。表皮内に存在するものを特に表皮メラノサイトといいます。メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)はメラニン細胞のチロシナーゼという酵素を活性化させ、メラニン合成を促進させます。

 それでは、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)はどのようにどこで産生されるのでしょうか?それは下垂体前葉にあるPOMC遺伝子がストレスによって副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が産生されると同時にメラニン細胞刺激ホルモン(MSH)が作られるのです。なぜ同時に作られるのでしょうか?POMCというのは、英語で“pro opio melano cortin”といい、「プロ・オピオ・メラノ・コルチン」と発音します。POMCのPはプロであり前駆体を意味し、Oはオピオであり、オピオイド(麻薬様)としてのエンドルフィンやエンケファリンを意味し、MはメラノでありMSHを、最後のCはコルチンであり、ACTHを指します。つまり体内で作られる快楽の元となる麻薬であるエンドルフィンを作らせる遺伝子と、メラニン色素を作らせるメラニン細胞刺激ホルモンの遺伝子と、ステロイドホルモンを作らせるACTHの遺伝子の合わせて3つが、一つの同じ遺伝子座に乗っているということを意味します。POMC遺伝子に含まれている上記の3つの遺伝子は、下垂体前葉のACTH産生細胞でコードされており、CRHによって発現が誘導されると、プロセシングを受けて、ACTHやMSHやエンドルフィンなどに分解されてその作用を示すのです。CRHというのは副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンで、英語で“corticotropin-releasing hormone”といい、ストレスが多い時に、そのストレスに耐えるために視床下部から放出されるホルモンであります。

 この話はものすごく面白い話になるのですが、長いストーリーになるので、ひとまずここで終わっておきます。乞うご期待。



なぜメラノコルチンの話をしたのかお分かりになりますか?それはオプジーボが最もよく効くガンがメラノーマであるからです。抗ガン剤であるオプジーボを研究している人から、たまたま「なぜオプジーボがメラノーマに著効を示すのかという研究をしているが、その答えがわからない」という話を聞いたので、その答えを私が出してあげようと思ったからです。今日はさらに、POMCとMHCとメラノサイトとオプジーボとの関係を詳しく勉強し直して、最後はなぜオプジーボがあらゆるガンの中でメラノーマに一番効果的であるかを説明しましょう。もちろんこの勉強も私自身の真実を知りたいという欲求から出てきたものです。難しいですがついてきてください。


 まず悪性黒色腫(メラノーマ)が何者であるかを勉強しましょう。太陽光に含まれている紫外線によって、表皮基底層にあるメラニン細胞の遺伝子が傷つけられて、つまりメラニンを作る遺伝子が傷つけられてガン化したものであります。(なぜ紫外線が特別にメラニン細胞の遺伝子だけにダメージを与えるのかについて機会があれば必ず書きます)言い換えると、メラニン色素細胞の遺伝子がなければメラノーマは起こらないのです。つまり、表皮基底層にあるメラニン色素のない基底細胞は、メラノーマは生じないのです。いずれにしろ、紫外線によってゲノムにあるメラニンを作る遺伝子に突然変異がおきて、癌原遺伝子が増殖し続けるという機能を獲得し、かつ、ガン抑制遺伝子もこの突然変異によって増殖を抑制する機能を失い、その結果、この2つの突然変異を起こしたメラニン色素細胞だけがガン化するのです。日本人の年間推定発生患者数は1500 〜2000人前後であり、人口10万人に約1.5〜2人の割合であります。ところが白人である欧米人の10万人に約15〜20人であり、圧倒的に白人の方が多いガンであります。いうまでもなく白人はメラニン色素が少ないので、紫外線が直接メラニン色素細胞の遺伝子を突然変異させ、ガン化させるからです。


 プロ-オピオ-メラノ-コルチン(POMC)は、プレ-プロ-オピオ-メラノ-コルチン(pre-POMC)から作られます。POMCは、pre-POMCが翻訳されてpre-POMCのタンパクが作られた後、そのタンパクがプロセッシング(加工)されPOMCとなります。このPOMCは、主に下垂体の前葉と中葉で作られます。プロセッシング(加工)によってPOMCが作られる組織の全てを列記しておきましょう。脳下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモン産生細胞、下垂体中葉のメラニン細胞刺激ホルモン産生細胞、視床下部弓状核にある約3000個の神経細胞、視床下部背内側核および脳幹にある少数の細胞、皮膚のメラニン細胞などであります。

 POMCの遺伝子をタンパクに翻訳した後、そのタンパクを切断するプロセッシング(加工)の仕方は、組織によって異なります。pre-POMCは、まずスブチリシン(サブチリシン)様プロ-ホルモン変換酵素による切断を経由して組織特異的な翻訳後(タンパクを作った後の)プロセッシング(加工)を受けます。スブチリシン(サブチリシン)様プロ-ホルモン変換酵素は、前駆ホルモンをホルモンに変換する酵素と考えておいてください。POMCのプロセッシングにはグリコシル化、アセチル化、タンパク質の切断による加工の仕方があります。ただし、タンパク質分解酵素が切断する箇所は組織特異的であります。例えば、POMCが下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモン産生細胞においてプロセッシング(加工)されて産生されると、4ヶ所切断されて副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)やβ-リポトロピンなどになります。POMC内全体としては、プロセッシング(加工)されるのはこの他に少なくとも8つの切断可能な箇所があり、組織の違いや変換酵素の違いによって、下に示す最大10の活性ペプチド(タンパク質)が産生されます。

 1)N-Terminal Peptide of Pro-opio-melano-cortin(NPPまたはpro-γ-MSH)、2)γ-メラニン細胞刺激ホルモン (γ-MSH)、3)副腎皮質刺激ホルモン (ACTH)、4)α-メラニン細胞刺激ホルモン (α-MSH)、5)Corticotropin-like Intermediate Peptide(CLIP)、6)β-リポトロピンホルモン(β-LPH)、7)γ-リポトロピンホルモン(γ-LPH)、8)β-メラニン細胞刺激ホルモン (β-MSH)、9)β-エンドルフィン、10)メチオニン-エンケファリン
 これら10種類のホルモンは、生きるために極めて大事なホルモンであります。3)と5)は戦いのホルモンであり、9)と10)は、戦った後の勝利を味わうホルモンであります。ところが、1)と2)と4)は、メラニンに関わるものですが、なぜ皮膚を黒くすることに関わるホルモンがそんなに大切なのでしょうか?それは以前述べたように、太陽の紫外線から身を守るためであります。それでは6)と7)のリポトロピンは、どんな働きが生命活動にとって重要なのでしょうか?勉強してみましょう。

 まずβリポトロピンホルモン(β-Lipotropin)についてでありますが、βリポトロピンホルモンは、はじめはメラニン(黒色色素)を産生するメラノサイト(メラニン細胞)を刺激することが知られていました。ところがその後、脂肪を分解したりステロイドを産生するために脂肪を動員する機能もあることがわかっておりますが、詳細は今のところ不明です。βリポトロピンホルモンは、さらにより小さなペプチドであるγリポトロピンホルモンとβ-MSHとβエンドルフィンに分割されます。実はβリポトロピンホルモンは、下垂体前葉で作られる主要なアヘン様物質であります。しかもβリポトロピンホルモンは代謝されてエンドルフィンになります。エンドルフィンというのは、内因性のモルヒネ様ペプチドであります。内因性というのは、人体の内で(中で)作られるという意味であります。エンドルフィンの「エンド」とは「内の」という意味です。ご存知の様に鎮痛作用や、人間の気分や挙動に大きく影響を与えるものです。

 それではγリポトロピンホルモンはなんでしょうか?先ほど述べたように、βリポトロピンホルモンの断片であります。さらにβリポトロピンホルモンは分割されて、β-melanocyte stimulating hormone (β-MSH)になります。結局のところ、6)β-リポトロピンホルモン(β-LPH)も、7)γ-リポトロピンホルモン(γ-LPH)も、メラニン色素産生に関わっているわけですから、8万年前にアフリカでホモ・サピエンスの先祖であるミトコンドリア・イブが地球全体に広がる時に、太陽の紫外線がいかに大きな悪影響を人体に与えたかがわかります。メラニンの最も重要な役割は、紫外線から皮膚やメラノサイトの遺伝子を防御することであり、日光障害や悪性腫瘍(メラノーマ)の発生を防ぎます。したがって肌の黒い人種であるほど、紫外線による皮膚癌の発生は少ないのは言うまでもないことです。逆に肌の白い欧米人にメラノーマが多いのは当然なのです。このような紫外線の悪影響から逃れるために、赤道直下の人たちはメラニン色素を大量に作ることによって環境に適応し、黒人にならざるを得なかったのです。ここでメラニン細胞について少し復習しておきましょう。

 メラニン細胞は、メラニンを産生する細胞であり、英語で“melanocyte”であり、メラノサイトと呼ばれます。チロシナーゼという酵素を持っており、血液中のアミノ酸であるチロシンからメラニンが生成されます。毛母基、脂腺、汗腺、真皮、表皮、目の脈絡膜や虹彩、神経の髄膜、子宮小丘などにメラノサイトが見られます。ちなみに子宮小丘は、英語で“caruncle”といいます。反芻類の動物の子宮内膜表面にみられる半球状の隆起物で、宮阜、小阜とも呼ばれます。この構造は反芻類に特有であり、この部分に脈絡膜絨毛が侵入して絨毛が結合し胎盤を形成します。表面には多くのメラニン細胞が存在しています。牛では子宮小丘は80~120個、羊で80~96個、山羊で160~180個存在します。なぜこんな場所にメラニン細胞があるのでしょうか?子を出産するまでに太陽の紫外線からの悪影響から逃れるためなのでしょうか?おそらく白人や羊や山羊は皮膚が白いので、紫外線が体内にまで入り込んで胎児の遺伝子に悪影響を及ぼさないために、多くのメラニン細胞を有色人種よりも体内にも持っているのです。

 皮膚の表皮内に存在するメラニン細胞のことを特に表皮メラノサイトと呼びます。表皮メラノサイトにはメラニン細胞刺激ホルモン(Melanocyte stimulating hormone、略してMSH)が多くありますが、メラニン細胞の酵素のチロシナーゼを活性化させて、メラニン合成を促進し、皮膚を紫外線から守っていることは何回も書きました。

 さて、下垂体におけるPOMC遺伝子の発現は、転写因子であるTpitとPitx1によって制御されています。視床下部ホルモンであるコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)は、下垂体ACTH産生細胞に作用し、PKA活性を増加させます。ちなみにPKAは、プロテインキナーゼA(Protein kinase A)であり、タンパク質分子にリン酸基を付ける酵素であります。キナーゼという言葉がつく酵素は全て、分子にリン酸を付着させる仕事をします。L-型電位依存性カルシウムチャネルを介して、カルシウムイオンの流入を高めることによって、POMC遺伝子の転写が促進されてPOMCタンパクが作られます。POMC遺伝子の転写は,グルココルチコイドによって抑制されます。それは、グルココルチコイド(糖質コルチコイド)が多くなると、視床下部は作る必要がないと察知し、CRHの遺伝子をOFFにしてしまうためです。CRHの働きがなくなると、糖質コルチコイドが副腎皮質で作られないことはご存知ですね。POMC遺伝子は、下垂体のみならず、脳、消化管、精巣、卵巣や皮膚などの様々な組織において発現し,産生されたPOMC分子はプロセッシングによりメラノコルチン分子に加工されることは既に述べました。

 色々書いてきましたが、要するにストレスが多くなればなるほど、このストレスを感知した脳の視床下部は、ステロイドホルモンを作らせてストレスに耐えさせます。そのためにまず視床下部はCRHを作り、下垂体にACTHを作らせます。ACTHを作らせるということは、POMCというメラノコルチンというタンパクをどんどん作らせます。つまりACTHを作ることと、MSHを作るということは同義語ですね。上で説明したことは、まさにストレスがMSHをどんどん作らせて、メラニン色素をメラノサイトに大量に作らせることになりますね。と同時に、ACTHによって副腎皮質ホルモンがますます作られ続けます。

 いうまでもなく、免疫がACTHの命令によって副腎で作らせる副腎皮質ホルモンによって抑制され続け、誰もが既に感染しているあの憎きヘルペス8種類が潜伏感染から増殖感染に変わり、真皮の細胞から細胞へとどんどん感染していきます。真皮には大量のメラノサイトが存在しているので、ますますMSHによってメラノサイトはメラニンを作り続けます。既に悪性黒色腫になっている細胞も同時に大量にメラニン色素を作り続け感染していきます。悪性黒色腫になってしまうということは、メラニン色素を作る遺伝子がガン化し、どんどん多くのメラニン色素を作るのみならず、メラノーマになった細胞がさらに増えるということを意味します。言い換えると、悪性化したメラノサイトは増殖することが仕事ですから、否が応でもどんどん増えると同時に、ACTHによって免疫が落ちれば落ちるほどヘルペスウイルスも負けじとばかりそれ以上に増えていき、隣接する増えた悪性メラノサイトに好きなだけ感染していくのです。

 元来、いかなるガンでもストレスが極めて大きなファクターになっていることは知られていることです。ましてやガンになった人は、人生の中で最も大きなストレスにさらされている人たちであります。このストレスに耐えるために、どんどんACTHを作ると同時に、MSHを作り続けます。ステロイドホルモンを作る時には、ストレスを感知した脳の視床下部は、CRHが刺激されてACTHを作ると同時に、MSHも作られます。悪性黒色種(メラノーマ)のようなガンになる人は全て、元来ストレスが強い人がなるものなので、免疫が既に十分すぎるほどに落ちすぎているので、ヘルペスウイルスもあらゆる細胞に既に入り込んでいることもご理解できますね。

 メラノーマになって、ガン治療が始まります。色々な免疫を抑える抗ガン剤を始め、化学療法、放射線療法が効かないということで、最後の手段としてオプジーボの登場となります。既に書いたようにオプジーボは、単にPDL-1を持ったガン細胞がキラーT細胞が持っているPD-1にひっつかせないようにするのみならず、ヘルペスとの平和条約の証拠であるPD-1の働きを殺しにかかる仕事をも知らぬ間にしてしまいます。このメカニズムについては既に上に書き終わったので読み返してください。すると、オプジーボはPD-1を持っているあらゆる免疫細胞にもひっついてしまい、免疫の働きもなくなってしまいます。PD-1の働きがない間、ヘルペスウイルスがメラノーマの細胞のみならず、あらゆる細胞で増殖し続けます。オプジーボは高価な薬なので、ガン病巣が小さくなってオプジーボ投与をやめてしまうと、俄然免疫細胞の働きが戻ってきます。その結果、皆さんご存知の既に書いたあの一生治らないようなオプジーボの副作用が出現してくるのです。このメカニズムは極めて難しいので、既に書いた上の理論を何回も繰り返して読んでください。

 ところがガン細胞を殺すのはガン細胞の抗原を認識したキラーT細胞ですから、オプジーボを使っている間は、確かにメラノーマの特異的な抗原を認識したメラノーマを殺すと同時にヘルペスウイルスが増殖したメラノーマも殺していることになるのです。オプジーボをやめると、免疫を抑えられたPD-1のレセプターを持っている様々な免疫細胞が復活しだします。しかもヘルペスに対する免疫抑制剤であるオプジーボがなくなると、これらの免疫細胞がオプジーボ離脱のために、ちょうどステロイドを離脱した時と同じように、激しい免疫のリバウンド現象が起き、今度はヘルペスウイルス感染細胞であるメラノーマの残りの細胞を、免疫の力を回復した様々な免疫細胞が殺しにかかります。この時の免疫の敵はガン細胞ではなくて、ヘルペスウイルス感染悪性細胞なのです。その結果、二重の効果を発揮することによって、オプジーボが見かけ上はメラノーマに著効という結果を生み出すのです。この理屈がわかりますか???

 次回ですが、オプジーボを投与することによって、逆の現象が起こすことがあります。それは結核にかかったマウスがオプジーボを投与することによって即死することがあるという現象です。結核やライ病などの治りにくい病気も人間の免疫を回避するシステムを持っているのです。しかしながら、その回避システムはヘルペスウイルスとは全く異なるのです。この問題についても次回は考察するつもりです。乞うご期待。

2019/02/21