ヘルペスウイルス感染症の抑制(予防)療法について

 まずはじめに、私は抗ヘルペス剤は治療薬ではなくて、ワクチンと同じように、予防薬として使用しています。つまり絶対にヘルペスウイルスを殺すという治療薬にはなり得ないのです。だからこそ、保険で使える抗ヘルペス剤は2つの病気だけに限られています。それは骨髄幹細胞移植の前後と、1年以上性器ヘルペスで悩んでいる人しか保険診療では使えないのです。これを踏まえたうえで、ヘルペスについて述べます。

 人間が感染するヒトヘルペスウイルスには下記の8種類がありますが、共通するのは一旦感染すれば殺し切ることができず、生涯にわたりウイルスを潜伏感染という形で保有することになるということです。ヘルペスウイルスが健康な人に致命的な症状を起こすことはめったにありませんが、ヘルペスウイルス感染症の中には、悪性腫瘍のような致死的な疾患や、帯状疱疹、角膜ヘルペスなどのように重症化すると長期に渡って生活の質(QOL)を低下させる疾患があります。下の表に、ウイルスの番号、ウイルス名、主な潜伏感染部位、ヘルペス感染症による疾病を掲載しておきます。

 ヘルペスの症状

 現代の医学ではヘルペスウイルスを直接殺す薬はなく、ヘルペスウイルスは人間の免疫から逃れる能力を持っているため、潜伏感染から増殖感染に変わるときに生じるヘルペスウイルス感染症による症状が出現してから、なるべく早期にウイルスの増殖を抑える治療を受けると、ウイルス感染症がさらに大事に至らないのです。ところが抗ヘルペス剤は、潜伏感染している感染細胞に取り込まれても、増殖感染しているわけではないので全く効きません。ヘルペスウイルスが細胞の中で潜伏している状態から、免疫が落ちたときにヘルペスが増殖しようとするときにのみ、抗ヘルペス剤がそのような細胞に入り込み、増殖を抑えることができるのです。増殖感染は再感染ともいいます。増殖するときに(再感染するときに)上の表にあげた様々なヘルペス感染症が生ずるので、増殖を抑えてしまえば、このような病気は起こらないのです。このように抗ヘルペス剤はヘルペスを殺す薬ではなくて、ヘルペス感染症を予防するために投与することはできますが、残念なことに治療薬ではないのです。あくまでも増殖を抑える薬であって、抗生物質のように細菌を殺す治療薬にはなれないのです。

 さて、当院で治療を受けておられる患者さんの中には、自己免疫疾患やアレルギーの治療でステロイドをはじめとする、免疫を抑える治療を受けてこられたり、また現在、過去において強いストレスを受けておられる方がいらっしゃるかと思います。そのような免疫が低下している患者に関していえば、上で述べたように症状が実際に出る前の段階でヘルペスウイルスの増殖を抑える薬(抗ヘルペス剤)を予防的に投与するのが望ましいのですが、健康保険で抗ヘルペス剤の予防投与が認められているのは、造血幹細胞移植前後の患者、性器ヘルペスを1年に何回も繰り返す患者のみとされています。そのため、当院では希望者だけに自費診療で抗ヘルペス剤のヘルペスウイルス感染症の抑制(予防)療法を行なっております。

 もちろん、ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹、帯状疱疹など)を発症した場合は、健康保険の範囲内でお薬を処方します。