保湿でアトピー予防ができるのか!?
アトピーハイリスク新生児に、出生直後から毎日保湿をしてアトピー発症が抑制できるかを検討した日本国内の研究をまとめた論文があります▼
jacionline.org/article/S0091-
論文詳細は以下の通り▽
●研究デザイン
前向きランダム化比較試験(評価者ブラインド)
●対象
生後1週間以内の新生児(アトピー家族歴あり、計118名)
●介入群(n=59)
市販の保湿剤(エモリエント)を毎日、全身に塗布 →生後32週まで継続
●対照群(n=59)
乾燥があると親が判断した場合のみ保湿(完全“無保湿”ではない)
●主要アウトカム
アトピーまたは湿疹の累積発症率(32週まで)
・アトピー性皮膚炎:4週間以上持続する湿疹
・湿疹:2週間以上持続する湿疹
→結果:アトピー/湿疹発症率は介入群で32%低下 →統計学的に有意(log-rank test, p = 0.012)
●副次的アウトカム
卵白特異的IgE抗体による感作(皮膚バリア関連指標)
→結果:保湿の有無で有意差なし (ただし、湿疹を発症した児は感作率が高かった)
この論文は、日本国内で行われたランダム化比較試験で、アトピー患児に保湿を推奨する根拠として非常に重宝されているようですが、実はこの論文のみで「アトピーが保湿で予防できる」とは全く言えません。
以下でその問題点について触れておきましょう。
1.短過ぎる追跡期間
この研究が示したのは「保湿期間中は発症(診断)を減らした」ということだけです。
これは「保湿で症状を抑えていた」ということしか言えず、幼児期以降のアトピー発症が本当に減ったのかは証明できません。
つまり、保湿が「病気になる体質そのものを変えた」のではなく「見かけ上の発症を減らした」だけではないかということです。
2.対照群が「介入なし」ではない
この臨床試験の対照群は「保湿なし群」ではなく、「乾燥時に保湿群」です。
つまり「毎日全身保湿(proactive)群」 vs 「乾燥時のみ保湿(reactive)群」であり、「保湿 vs 無保湿」ではありません。
この設計は臨床的には現実に近い一方で、効果の解釈は 「“保湿を一切しない”より優れるのか」を調べているわけではないというとことに注意が必要です。
3.ブラインドの限界(親は盲検不可)
比較対照試験で重要なのは、試験の介入があることを、患者も医者も知らない(介入があるかどうか把握できない)ことです。
しかしこの試験では、患児の親は介入(=保湿)があることを知っています。 例えば「乾燥時保湿群」の親は、「毎日全身保湿群」と比べると、少しでも皮膚に症状が出現すると受診行動をしたり、スキンケア以外(入浴・洗浄剤・衣類)を改善したりしようとするかもしれません。
そうすると、症状への対応が群間で変わる可能性があり、アトピーや湿疹発症判定(診断)に間接的なバイアスが生まれることになります。
4.「アトピー」と「湿疹」の複合アウトカム
この試験の主要アウトカムは、アトピー性皮膚炎(>4週)に加え、湿疹(>2週)も合わせています。 このような複合アウトカムはイベント数(対象患者数)を増やせますが、軽い湿疹を多く拾うほど“発症”が増えてしまいます。
その分、保湿による単なる「症状抑制効果」であったとしても、それを「予防効果」と誤って捉えてしてしまう可能性が高まります。
5.感作アウトカム(副次的アウトカム)を限定し過ぎ
この論文で明確に書かれている感作は、「卵白IgE抗体」の閾値です。 ところが結果は「保湿で感作は減らない(卵白IgE抗体おの閾値は変わらない)」ということでした。
もし「保湿がアトピーや湿疹を抑えて経皮感作を防ぐ」ということが真の保湿効果のメカニズムであるなら、免疫学的アウトカムでも当然一貫した差が出るはずです。
それが認められなかったということは、やはり保湿はアトピーや湿疹の発症を予防したわけではなく、ただ単に「みかけの症状を改善しただけ」ということになると思います。
6.サンプルサイズ(患者数)が小さく、初期小規模RCTの“過大効果”の可能性あり
n数=118名(介入59名)という規模は、小規模であり効果推定が不安定になりやすいものです。
実際、その後に出たより大規模な試験・レビューでは結論が変わっています。
・BEEP trial(Lancet 2020):ハイリスク児で「生後1年の毎日保湿はアトピー予防効果なし、むしろ皮膚感染が増える可能性あり」▽
thelancet.com/journals/lance
・Cochraneレビュー(2022):「乳児期の保湿などスキンケア介入は湿疹予防におそらく有効ではない。むしろ皮膚感染や食物アレルギーが増える可能性あり」▽
cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.10
この二つの大規模レビューを踏まえて考えると、「保湿による早期介入によってアトピー発症が予防できる」とは決して言えないということになると思います。 結論をまとめると、この論文が示したのは、厳密には「出生直後からの“毎日全身”保湿は、32週までのアトピー/湿疹診断を減らした」ということだけであり、
・「アトピー体質(疾患成立)を予防した」
・「保湿をやめても発症しない」
・「免疫学的に感作まで抑えた」
ということは全く言えないということです。