動脈硬化の予防と「コレステロール仮説」について9(facebookより転載 2019-11-21)
さて、いよいよ今回は「コレステロール仮説を切る」シリーズの最終回としまして、「飽和脂肪酸」の安全性・有益性について書いていきたいと思います。最終回ですのでかなり長くなりましたが、ぜひ最後までお読みください。
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飽和脂肪酸の安全性・有効性
● 心血管疾患・脳卒中に対して示された飽和脂肪酸の安全性
日本脂質栄養学会の初代会長であった奥山治美先生や他の専門家・識者の方も述べておられることですが、「食事変化に対する身体の応答は、短期と長期とでは全く異なる」のです。短期間の調査でしか得られていない結果を、動脈硬化のような慢性疾患の予防に当てはめようとしたこと自体が、そもそも大きな過ちであったということです。実は、先述した「コレステロール仮説」の提唱者であるキーズでさえも、「摂取脂肪酸のコレステロール値への影響は1週間以内には大きな差となって現れるが、1ヶ月経つと差がなくなる」ということを自身の初期の論文中で示しています(Science.1950;112:79-81)。また、動物性脂肪(=飽和脂肪酸)やコレステロール摂取を抑えても、飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・コレステロールは体内でも生合成されますが、それらが原因で心臓病が増加するとはまず考えられません。したがって、飽和脂肪酸を減らしたのに心臓病や総死亡率が上がったのは、リノール酸(=多価不飽和脂肪酸:プーファ)を増やしたことが主因であると考えられるわけです(Mayo.Clin.Proc.2014;89:451-453)。つまり、心血管疾患に対する影響を調べた長期間の臨床試験からは、いずれも「飽和脂肪酸は安全で、むしろ多価不飽和脂肪酸の方が危険である」という結論しか導き出せない、ということです。
さらに、飽和脂肪酸は心疾患のみならず、脳卒中(虚血性)も抑制することがフラミンガム市の男性の長期にわたる観察研究からも明らかになりました(JAMA.1997;278:2145-50)。この論文では、総脂肪・飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸の摂取量が多い群ほど虚血性脳疾患の死亡率が低かったということが示されたのです。逆に多価不飽和脂肪酸の摂取量と脳卒中の間には相関がありませんでした。このことからも、飽和脂肪酸は従来考えられてきたような”悪玉“などでは全くなく、積極的に摂っても良い”安全な“脂肪酸であると考えられます。
● 大量の飽和脂肪酸を摂取する人たち 〜プカプカ島とトケラウ島の人々〜
さて、ここからは実際に飽和脂肪酸がリッチな食生活を送る人々の実態についてみていきましょう。この話は先日ココナッツオイルの記事でも触れましたが、より詳しくまとめておきたいと思います。
実は、食事に飽和脂肪酸(ココナッツオイル)を多く含む太平洋諸島とアジア地域の人々の間に、循環器疾患(心臓血管疾患)やがん、その他変性疾患や炎症性疾患が極めて少ないということは、昔からよく知られていた事実でした。主に飽和脂肪酸を日常的に使用している人々に対して行われた調査の一つに、プカプカ島(Pukapuka island)とトケラウ島(Tokelau island)で行われたものがあります(Am.J.Cl.Nutr.1981;34:1552-61)。これは長期にわたる学際的な調査であり、これらの島に住む人々の健康状態と、彼らのうちニュージーランドに移住して西洋式の食事と文化に接した人の健康状態を評価した研究でした。ちなみに両島ともにニュージーランド領で、南太平洋の赤道に近いポリネシアン諸島の一つです。この研究は1960年代初期から始まり、両島の住民全員=約2500人が対象となりました。両島ともに、日常的な食事はココナッツから採れた脂肪(=飽和脂肪酸)を豊富に含んでいましたが、コレステロールの多い食事は少なかったようです。研究者の報告によると、飽和脂肪酸リッチな食生活であるにも関わらず、高コレステロール血症は認められませんでした(試算によれば170〜210mg/dl。高コレステロール血症の基準値は220mg/dl以上)。また、島民は飽和脂肪酸リッチな油(ココナッツオイル)を多く食べていたにも関わらず、皆引き締まった体をしていて見るからに健康であったということです(実際にBMIでも体重と身長の比率が理想的だった)。実際に、島民の全体的な健康状態は、西洋の基準と比べて非常に良く、便秘や虫垂炎を含めた消化器疾患・動脈硬化・心血管疾患・がん・腎臓病・甲状腺機能低下症などもほとんど認められませんでした。
米国心臓協会(AHA)は、脂肪摂取量が総カロリー量の30%未満にするよう勧告しており、飽和脂肪酸は、総カロリー量の10%を超えない食事を推奨しています。しかし実際には、我々日本人を含む典型的な欧米型の食生活を送る人たちは、総カロリーの35%前後を脂肪から摂っています。一方で、トケラウ島の住民は平均して総カロリーのなんと63%を脂肪から摂っており、プカプカ島の住民でも、トケラウ島民よりはかなり少なかったとは言え、総カロリー量に占める脂肪の割合は35%でした。それにも関わらず、トケラウやプカプカの島民は、我々が日々苛まされている慢性疾患や肥満とは無縁の生活を送っていたのです。総脂肪摂取量が同等かそれ以上なのに、なぜトケラウやプカプカの島民は健康で、我々は不健康なのでしょうか?
ここまで読んでいただいた方はもうお分かりと思いますが、その答えは「脂肪酸の種類」にあると考えられます。実際に、西欧型の食生活を送る我々が摂っている脂肪は、そのほとんどが多価不飽和脂肪酸(プーファ)を多く含む植物油脂です。一方で、プカプカやトケラウの島民が摂っていた脂肪は、ほとんどが飽和脂肪酸を豊富に含むココナッツ由来でした。つまり、飽和脂肪酸が、プカプカやトケラウの島民の健康維持に欠かせない栄養素であった可能性が高いのです。その証拠に、ニュージーランドに移住したトケラウ島民たちは、脂肪摂取量が10%以上も減少したにも関わらず、血中総コレステロールの増加、LDLコレステロールとトリグリセリドの増加、HDLコレステロールの減少が認められ、さらにアテローム性動脈硬化症のリスクの増大が認められました。この原因は砂糖、精白パン、米、肉類の摂取量増加などが寄与している面もあるかもしれませんが、総カロリー中の飽和脂肪酸の割合が激減(10%以上)し、植物油脂由来の多価不飽和脂肪酸の摂取量が増加したことが大きな要因と考えられます。実際にこの調査を主導した研究者(プライアー博士)は、「プカプカ・トケラウの両島ともに心血管疾患はほとんどなく、飽和脂肪酸摂取が健康にとって害となる証拠はない」と述べています。
● ココナッツオイルは健康に良い!? 〜キタバ研究〜
プカプカ島とトケラウ島の調査以外にも、飽和脂肪酸を日常的に大量に摂っている人の健康状態を観察した調査が存在します。それは通称「キタバ研究(Kitava Study)」としてよく知られた調査で、パプアニューギニアに近いキタバ島の住民の間で行われました。この研究では、スウェーデンのランド大学家庭医学准教授であったスタファン・リンドバーグ博士が、キタバ島で約12000人の住民の食と健康の関係を調査しました(J.Intern.Med.1993;233:269-75)。ちなみにリンドバーグ博士は、「原始人食=パレオダイエット(The Paleo Diet)」の提唱者の一人としても、世界的に有名です。彼の研究によれば、キタバ島民はもれなく全員が、ココナッツやココナッツオイルを日常的に摂る食生活をしており、総カロリーの約17%をココナッツから摂っていました。しかしながら、彼らの間には、高血圧・アテローム性動脈硬化症・糖尿病・認知症・その他西洋で一般的な慢性疾患は全く存在していませんでした。キタバ島で100歳まで生きた最高齢者でさえ、心血管疾患や認知症は認められず、身体を活発に動かせるほど健康でした。つまり、彼らは生まれてから死ぬまで毎日ココナッツ由来の飽和脂肪酸を食べ続けていたにも関わらず、総じて島民は健康と言える状態だったのです。もちろん、このような疫学研究からは因果関係は言えませんし、島に住む人々が健康であったのは、西欧諸国から隔絶された島独特の環境や文化がストレスフリーであることや、添加物や農薬、遺伝子組み換え食品が全くなく、穀物や加工された肉類や乳製品の少ない食生活などが良かった可能性もあります。しかしながら、ココナッツオイルを常食する人々の疫学的・臨床的研究を俯瞰してみると、ココナッツオイルが血中コレステロール値を異常に高め、心血管疾患を増加させるような証拠は全くありません。それどころか、ココナッツオイルを大量に摂取する人々は、総じて心血管系に問題がないのです。西欧諸国ではポピュラーな心臓発作や脳卒中やがんなどの病気もほとんど存在しません。逆に歴史的にココナッツオイルを常食していた国の人々が、摂取する脂肪(油)を植物油脂に替えたことで心臓病の発生率・死亡率が増加したという事例は、スリランカやインドなどの調査からも明らかになっています。これらのことからも、自身の健康を守るためにも、日頃の精製植物油脂をココナッツオイルに替えるべきだと言えるかもしれません。
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以上、「コレステロール仮説を切る」シリーズを、「スタチンの危険性」について述べた記事も合わせれば、計10回に分けて書いてきましたが、いかがだったでしょうか?
ここまで詳細に「コレステロール仮説」や「飽和脂肪酸悪玉説」について論じた内容の記事はなかなか誰しもが書けることではないと自負しておりますので、ぜひ何度も読み返していただきたいと思います。また、疑問点や反論などがあれば何でも投稿内に書き込んでいただくか、当院まで問い合わせていただきたいと思います。
ところで、私がなぜこれほどまでに「コレステロール仮説」について、その誤りをここまで(執念深く!?)詳しく書いてきたかというと、もちろん当院の脂質異常症と診断されている患者向けに、誤った食事栄養指導や治療を受けないよう促すことが大きな目的の一つです。
また、以前から現代医療の過ちを指摘し、少しでも多くの方々に正しい情報を知ってもらいたい、という思いが強かったことも大きな理由の一つです。
しかしそれ以上に、私のような浅学非才な人間でも、ネット情報や、専門家や識者が書いた数多くの著作や、あるいは原著論文を批判的な目を持って丹念に調べあげれば、ある程度専門的な情報を得た上で正誤を判断することができるのだ、ということをお示ししたかったから、ということが最大の理由です。
所詮私などは医師の中でも落ちこぼれで、特別頭が良いというわけではありません。また、臨床も初期研修しか終えておらず、より専門性の高いとされる専門医資格や、高度な医療技術を習得しているわけでは全くありません。ですから、そのような専門医資格をお持ちの医師たちからすれば、私などは(臨床的には)三流の外道な医師とみなされて当然です。
ですが、これは本当に残念なことなのですが、医師に限らず、”専門家”とされる人々が常に正しい情報を持ち合わせているとは限りません。むしろ、”専門家”とされる人たちの方が、業界の意向を汲んだ方向へと洗脳されやすく、誤った情報を頑なに信じ込んでいることが多いのです。
そして、医学の専門家とされる医師たちでさえも、結局医薬業界の意向には逆らえず、鵜飼の鵜になり下がっています。その結果、人間の線形思考から生み出された「コレステロール仮説」のような、完全に神話と化している誤った理論を学会ぐるみで信じ込んでいるのです。自分たちがエビデンスを無視し、科学を捻じ曲げているとも気づかずに・・・。
そのような状況を変えることは、はっきり申し上げて不可能です。いつまで経っても政治が変わらないのと仕組みは同じことだからです。すなわち、医薬業界のヒエラルキーでいうと最下層の住人である患者は、所詮は”カモ”でしかなく、正確な情報が与えられるはずがないのです。
だからこそ、自分の健康を自分で守るためにも、医学常識・健康常識を常に疑い、批判的な目を持って接することが必要なのです。
「テレビや雑誌で言われていました」などは論外ですが、
「医者に言われたから正しいと思っていました」
「医学的には素人で専門知識がないからわかりません」
などという言い訳はもはや当院では通用しません。
なぜなら、批判的な目を持って調べていけば、私などのような浅学非才な三流アウトロー医師でさえもが、過ちに気づけるのですから!!
それでも自分で調べようとしない人には何度でも言いましょう。
「だまされたと言って平気でいられる国民なら、何度でもだまされる」
「だまされた方にも罪はある」
(by 伊丹万作)
以上です。