多剤投与の有害性について(facebookより転載 2019-6-12)
印象深い患者がいらっしゃったので書いてみたいと思います。
先日左手の甲の皮膚が10cm四方に渡ってめくれてしまったという方(70歳)が来院されました。聞くと整骨院で手を引っ張られた時に皮がズルリとめくれたということで、整骨院の先生にも病院に行くことを勧められたとのこと。
見るとただめくれただけではなく、軽い火傷をしたような状態で、両手の甲に紫斑(内出血の跡)があり、明らかに異常な見た目であったため、聞いてみると最近体調が優れず、何種類かサプリメントと薬を飲んでいるということ。
もちろん血液をサラサラにする薬も最近まで飲んでいたということで、後日内服薬の確認のためにサプリメントと薬手帳を持参することを指示し、皮膚病変(皮がめくれていた部分)に対して湿潤療法(なつい式湿潤療法)を施して帰宅していただきました。
そして後日来院された時にその患者が持参された薬手帳を見てみると・・・、
なんと、17種類も薬を使っておられました(;~~)
しかも抗アレルギー薬、NSAIDs、スタチン系薬、胃薬(PPI)、ウルソ等々、有益とは言えない薬ばかり。
しかもなんと、30歳からずっと継続的に飲んでいるとのこと!!
さらに最近は手指の湿疹が出現していたため、痒み・炎症を抑えるために皮膚科で出されたマイザー軟膏(ステロイド)を常用していたようでした。
皮膚病変の直接的な原因はこれだったようです。
さらにさらに、この患者は日頃からサプリメントをなんと10種類も服用しておられました。
数種類のビタミン剤、グルコサミン、鉄剤、乳酸菌等々・・・。これも必要ないものばかりです。
これらの薬剤・サプリメントを消費するのに10分ほどかかるそうで、飲んだ後はいつも少し気分が悪くなるそうです。しかも一月に医療費とサプリメント代だけで5万円以上かかっているとのこと。
そこまでしてこれらを内服している理由を聞くと、
「飲んでたら安心できる」
のだそう・・・・・(;^^)。
旦那さんからも「薬のせいで体調崩しているんだろう」とも言われていたそうですが、「医者でもないくせに」と言って取り合いもしなかったのだと。
・・・・これには流石に呆れ果てました。
今まで当院で診てきた方の中にも、多剤投与(5種類以上)を受けている高齢者の患者は数多くおられましたし、最大で33種類(!!)の薬剤投与されている方もいらっしゃいましたから、上記のような患者がいても決して驚くことではないかもしれません。実際に65-74歳では約25%、75歳以上だと約40% 近くが多剤投与(5種類以上)を受けています(厚労省 H26年度 社会医療診療行為別調査より)。
しかしながら、多剤投与されている大抵の患者は既往歴が多くあり、慢性疾患を何種類も抱えている(例えば高血圧・脂質異常症・糖尿病など)もので、さらに近年はポリファーマシーによる有害事象(副作用)も問題になっており、厚労省からも警告・注意喚起・点数制限が出ているのにも関わらず、比較的健康な方でもバンバン薬が出されるこの日本の状況は異常であると言わざるを得ません(諸外国でも多剤投与が問題になっています)。上記患者も実際には既往歴はほとんどないのにも関わらず、大量多剤投与がなされていました。
この患者にはほとんどの薬剤投与の必要性がないことをきっちり説明した上で、患者自身も「これではダメだ」という意識を強く持ったようで、本人の希望の下で即日すべての薬剤とサプリメントを中止していただき、漢方薬のみで経過をみてもらうことにしました。
薬剤の使用に関しては、我々医療従事者はもっと慎重になるべきです。特に日本の医師たちは無駄でむしろ有害な薬をよく調べもせずに容易に出しすぎるきらいがあります。
海外の調査でも、いくつかのメジャーな医薬品が救急入院を余儀なくさせられるほどの有害事象を引き起こすこと、しかもそれは高齢者に顕著に認められることが報告されています(N Engl J Med 2011; 365:2002-2012)。
こういうことを踏まえて考えれば、やはり現代医療の特に慢性疾患に対する治療薬がむしろ「有害」である可能性が高い。
医療従事者が薬剤投与に慎重になるべきなのは当然のことですが、患者にもぜひ「その薬は本当に飲むべきなのか」ということをよくよく考えてもらいたいと思います。