放射線の強さや生体への放射線の影響について(2021年3月22日のtwitterより転載)
今回は放射線の強さや生体への放射線の影響について調べる際に広く用いられているベクレル(Bq)値やシーベルト(Sv)値の問題点についてまとめていきたいと思います。
まずおさらいとして、ベクレル(Bq)とは、放射能(放射線強度)を表す単位です。具体的には毎秒何個の原子核が崩壊するかを示し、これは多くの場合、毎秒放出される放射性粒子の数に当たると考えて良いでしょう。ですから、多くの場合、Bqは放射性粒子数/秒を示すと考えます。
一方で、等価線量を示すシーベルト(Sv)は、生体への放射線の影響を調べる際に用いられる単位で、Sv=Q×Gy(グレイ)と表されるのでした。ここで、Qは放射線種(α線かβ線かγ線か)に依存し、生体へ与える影響のインパクトの強さを示すとされています。α線は2+の電荷を持っており、かつ粒子としては重たいために、生体へのインパクトは大きく、Q=20とされています。一方でβ線やγ線は粒子としては軽く、Q=1とされているのでした。すなわち、1Gyの放射線量であった場合、α線ではSv=20×1=20、β線とγ線ではSv=1×1=1となります。しかしながら、これらQ値がどのように定められたかは明確ではありません。また、内部被曝を考える場合には、例えばβ線とγ線のQ値が同じ値(Q=1)で良いのかといったことに関しては、非常に問題があるということは、専門家ではなくても知っておくべきことでしょう。
ところで、10シーベルト以上の線量の放射線被曝は、ほとんど即死を意味することは以前に触れましたが、例えばその10倍の100シーベルトという線量の放射線を浴びた場合のことについて少し深掘りして考えてみましょう。
1グレイは1[J(ジュール)/kg]と定義されており、Sv=Q×Gyでした。放射線がβ線やγ線であった場合、Q=1とされていますから、エネルギー的には100シーベルトならば、100グレイ=100[J/kg]のエネルギーが物体に与えられるということになります。ではこれは人体にはどのような影響を与えるでしょうか?
人体内における比熱を簡単に水と同じだとすると、0.024度体温を上げるということになります。しかし、この程度の体温上昇で人が即死するようなことはありません。しかし、実際には即死する放射線量である10シーベルトの10倍もの放射線が被曝した場合、間違いなく100%即死します。
このように、例えば“100シーベルト”というエネルギー的には問題ない程度と思える被ばく線量でも、実際には即死することを考えれば、被ばく線量をGyまたはSvで表すことは、放射線の生物(人体)への影響を表現する際にはかなり不適切であることがわかっていただけるでしょう。
しかし、あらゆる放射線被曝の統計や報告においては、このSvやGyという単位が用いられているのが現状です。それでは、いったいこの単位(定義)を用いることの一体何が具体的には問題なのでしょうか。次はそのことについて少し詳しく触れてみたいと思います。
さて、放射線被曝の被曝線量を示す単位として広く用いられているシーベルト(Sv)やベクレル(Bq)についての問題点について少し詳しく解説していきたいと思います。これは特に放射線の「内部被曝」を考える上で非常に重要なポイントとなりますので、しっかり理解しておく必要があります。
Sv=Q×Gyであり、Gy(グレイ)は放射線が当たった物質や人体へのインパクト(=被曝線量)を示しており、これは物体1キログラム当たりにどのくらいのエネルギーが放射線によってもたらされたかを表している単位でした。
すなわち、1グレイ=1[J/kg]と定義されているのでした。
この定義における大きな問題点は、被曝線量がkg単位で示されており、1キログラムの物体が1[J]のエネルギーを受け取るとされているところです。つまりもっと具体的に言えば、「(放射線によってもたらされた)1[J]のエネルギーの影響が、1キログラムある物体“全体”に及ぶ」と仮定されているということです。
しかし、少し考えれば小学生でもわかると思いますが、実際には「放射線の影響が物質全体にまんべんなく与えられる」などということは生体内では起こり得ません。特にα線やβ線の場合、先日説明した通り生体内では数μm〜数百μmほどしか移動できないため、実際の被曝線量はもっと大きくなると考えられます
例えば、ある放射性物質が体内に入ってきたとしましょう。その放射性物質から出されたβ線による被曝線量を、仮に2mSv=2mGy(0.002Gy)=0.002[J/kg]としてみましょう。また、β線が届く範囲を周囲10g程度の領域であったとしましょう(実際にはさらに小さい範囲かもしれませんが)。そう仮定した場合、0.002[J]のエネルギーが10グラムの範囲に及ぶのですから、0.002[J]/10[g]=0.2[J/kg]となり、実際には0.2SV=200mSvの被曝線量となり、見かけ上の被曝線量(2mSv)の100倍もの被曝をしていることになります。しかも、体内局所でのα線やβ線などの放射線の到達範囲はもっと狭いと考えられます。すなわち、上述した簡単な計算以上に、見かけ上の被曝線量と実質的な被曝線量との間には大きな乖離が生じることとなり、実質的な被曝線量の方が何百倍、あるいは何千倍も大きなものとなる可能性もある、ということになります。しかし、残念ながらそれを示す正確なデータは今のところ全く存在しません。これがシーベルト(Sv)あるいはグレイ(Gy)といった単位で示される被曝線量の最も大きな問題点です。そしてこれは、先の簡単な計算の際にみてきたように、特にα線やβ線といった僅かな距離しか到達しない放射線による「内部被曝」を評価する際には、なおさら大きな問題となるでしょう。この被曝線量の単位(定義)にまつわる問題点について、どのくらいの専門家がきちんと理解しているのでしょうか??もちろん放射線を扱う物理学者であれば知っていて当然でしょうけれども、医者や数字を扱う統計学・疫学者はほとんどの方が全くご存知ないのではないでしょうか?
つまりこの問題があるからこそ、これまで放射線(内部)被曝の影響はかなり過小評価されてきましたし、実際に広島・長崎原爆投下後やチェルノブイリ・福島原発事故後の内部被曝の影響は様々な経緯から(意図的に)無視されてきたのです。ぜひこのことをもっと多くの方に知っていただきたいと思います。