放射線の測定について(2021年3月26日のtwitterより転載)
放射線の測定について軽く触れておきます。放射線はその種類やエネルギー、どんな物質にあたるか、などによって、物質と様々な反応(相互作用)を起こします。この反応を利用して放射線量が測定されますが、どの反応を利用するかによって、測定する方法や測定する量(単位)は、様々なものがあります。すなわち、一つの放射線測定器で全ての放射線を捉えて測定することは全く不可能です(複数あれば全て測れるというわけでもない)。ですから、「どの測定器を用いて・何のために・どんな放射線を測るのか」を見極めたうえで、適切な測定器・測定法を選択しなければなりません。
たとえ一つの測定器で放射線が検出されたとしても、その測定値には「測定器の中の放射線を検出する部分と反応した放射線が環境中にあった」という意味しかありません。また、自然環境中にも放射線が存在しているので、それを何か基準となるものと比較できなければ、測定値にはあまり意味はありません。そして、測定器には大気中の放射線量用の測定器(サーベイメーターなど)と、個人の被曝線量用の測定器(個人線量計)があります。これらの測定器では、実際には測定できない「実効線量」の代わりに、「線量当量」が測定できるよう設定されています。
ちなみに「線量当量」とは、実効線量を導くための測定可能な実測シーベルト値(実用量)のことです。そしてこれには「“周辺”線量当量」と「“個人”線量当量」があり、いずれも表面から深さ1cmの部分の線量当量(1cm線量当量)を示します。
https://twitter.com/matsumotoclinic/status/1375240396196835332/photo/1
このような「1cm線量当量」を設定しているのは、実効線量が直接測定できず、放射線被曝の管理基準となる線量設定が必要だからです。この線量当量は、ICRU(国際放射線単位測定委員会)という国際組織によって提案されており、日本も含めて国際的に使用されています。
ここで、単位の問題について再度触れておきたいと思います。放射線を数えて得られた計数率(cpmまたはcps)を人体への影響を表す線量率(μ Sv/h)に変換するために、「換算係数」というものが存在します。「換算係数」とは、線量計を分解するなどして求めた値です(一般には,公表 されていません)。
https://twitter.com/matsumotoclinic/status/1375244149557927936/photo/1
各製造者が持つ独自の換算係数(製品毎に校正場で換算係数を求めているはずですが・・・)を掛けているため、各線量計が示す値(cpmやcps)が違うという話でした。1 分間に検出器に放射線が 1 本入ってきたものが1cpmですが、これに製品ごとの換算係数を掛けて「○μSv/h」と表されるようになっています。統一された正しい校正場が用いられていれば、検出器の大きさに依存した換算係数になるはずで、機種ごとの線量は同じ値になるはずですが、簡易校正を行っていたり、種類・大きさが同じ検出器でも性能が違っていたりして、同じ場所でも違う値を示す場合があるようです(つまり信頼できない)。
さらに、先述したように一つの検出器がその場にある放射線を100%測っているわけではありません(そんなことは物理的に不可能)。cpmやcpsで放射線を測れる割合(計数効率)が、放射線のエネルギーの強さと検出器の構造・精度によって違ってきます。この値は絶対量の分かっている放射能の丁寧な測定によって求められますが、距離や周辺にある物質の影響を受けます。すなわち、放射能の強さ(=ベクレル:Bq)と、そこから出ている放射線の検出された数 「カウント(cpm or cps)」と、その値に換算係数を掛けて出てくる「μSv/h」の関係は、単純に何倍すれば良いというものではありません。つまり、放射線測定器の結果はあくまでもそこにどのくらいの放射線があるかということを、測定する側が勝手に決めた計算式に基づいて表された推定値でしかないのです。