放射線被曝による健康影響 パート1(2021年3月27日のtwitterより転載)
さて、実際の放射線の測定についてと、その時に表示される単位(cpm/cps、μSv/hr)の問題についてお話してきました。特に「内部被曝」を扱う際には、この単位の問題(シーベルトの“嘘”)が非常に重要になってきます。この単位の問題について深掘りしようと思えばいくらでもできるのですが、あまりにも専門的になってしまうので、止めておきます。
今回からはいよいよ放射線被曝による健康影響について詳しくみていきたいと思います。まず高線量の放射線が人体に深刻な影響を与えることは、1895年にレントゲンが開発してX線の発見と、その1年後のベクレルの放射能の発見後、すぐに広く知られることとなりました。X線を医療診断や治療に用いた先人たちによって、不可逆的な(難治性の)皮膚の熱傷とそれに続く皮膚ガンが多数報告され、初期の医療従事者の多くが若くして白血病やガンで死亡したことが明らかになったのです。
ところで、受胎前の生殖細胞の放射線被曝による後々の世代に対する遺伝障害は、1927年にミュラーがショウジョウバエの研究を行うまで発見されませんでした。ちなみにミュラーは、日本の原爆投下直後から「被曝には安全な“しきい値”など存在しない」と訴えていた人でした。ミュラーの実験によれば、自然発生の突然変異を倍加するのに必要な線量は、自然(環境)放射線による年間1mSvの何千倍というほど、極めて高いことが示されました。例えば植物の品種改良のために放射線照射し、突然変異を誘導しますが、そのためにはかなり高線量な放射線照射が必要となります。このように、20世紀初頭までは、環境放射線と同程度の線量しかない診断用X線では、新生児に検知可能な影響やガンの優位な増加をもたらすということはほとんど心配されていませんでした。ガンの誘発は、ミュラーの実験のような極めて高線量の放射線被曝の際に起こると信じられていたのです。
実際に医療現場でも、腫瘍細胞を殺すために、何十Gy(グレイ)という高線量を直接ガン細胞に照射する治療からは、近くの健康な組織がそのような高線量に耐えて回復する驚くべき能力があることが証明されました。こうして低線量被曝に対しては(医療被曝においても)全く考慮されなくなっていきました。その後、広島・長崎の原爆被曝調査などから、放射線障害は100mSv(ミリシーベルト)以上になると、被曝量に応じて発ガン率が上がることが明らかになりましたが、原爆開発に携わった科学者たちは、それら放射線の影響は環境放射線と比べても十分に低いレベルであると信じていました。
核実験が人の健康被害を生み出すとする確固たる根拠がまだなかったために、爆心地から遠く離れた地域には生物学的障害が起こる可能性など全く考慮されないまま続けられました。この問題の全容は1957年に初めて米国議会が“死の灰”に対する避難所の必要性について議論されるまでは軍の極秘扱いでした。
また、環境放射線からの線量と同レベルの非常に低い放射線量では、健康被害などないと期待されていたために、酸性雨や大気汚染の原因となることが問題視され始めた火力発電所に代わって、大規模な原発建設が推進されてきました。原発は放射性物質を環境中に放出しない、したとしても安全だと広く信じられてきたからです