放射能汚染水処理問題に関するお願い(facebookより転載 2019-11-9)
さて、当院ではこの半年で様々な取り組みをしており、その度に患者の協力をお願いしてまいりましたが、今回は院長である私、松本有史が2011年の3月11日の東日本大震災後に起こった原発事故以来、ずっと継続して関心を寄せていた、放射能汚染水処理問題に関してのお願いです。
現在の日本では、放射能の「内部被曝」に関しては、これだけ研究され、人体に対する健康影響のエビデンスがあるにも関わらず、政府の姿勢としてそれを「健康影響に関しては不明である」という立場をとっており、意図的に無視されています。もちろん原発推進政策を取っている(取らされている)からなのですが、マスコミも大手スポンサー(大企業)とグルになって、真実の報道をしない状況に実際になっています。この状況こそが、科学を捻じ曲げており、医学会においても、まともな議論すらされていないという現実にもつながっていると私は考えています。
原発事故後に放射能は日本全国にばらまかれてしまいました。
この状況を変えることは、時間を巻き戻せない限りできません。もはや我々日本人(だけではなく、世界中の人々)は、少なからず不要な内部被曝をしているのです。ですから、原発事故は全く何も終わってなどいません。先行きが見えない状況でもあり、極めて困難な状況があるのです。
そのことを日本人の大半が知りません(知らされていません)。しかもここにきて、放射能汚染水を海洋放出するという話が再浮上してきています。ぜひ以下の記事を読み、処理済み汚染水が安全ではないということ、少しでも多くの方にその真実を知ってもらいたいと思います。
● 福島原発事故後の汚染水を海洋放出する!?
大阪にお住まいの方であれば、ご存知の方も多いと思いますが、福島第一原発で蓄積し続けている処理済み汚染水について、大阪市の松井一郎市長(日本維新の会代表)は、2019年9月17日の記者会見で、「政府が科学的根拠を示した上で、海洋放出する決断をすべきだ」という見解を示し、汚染水処理に関して協力する可能性があるのか記者団から質問された際に、「(大阪湾まで)持ってきて流すなら、(協力の余地は)ある」と答えました。
現在福島第一原発では、2011年の事故後も核燃料を冷やすための注水で汚染水が溜まり続けており、処理済み汚染水はすでに110万トンを超え、1日に平均約150トンずつ増え続けています。東京電力が公式に発表しているところによると、2022年頃には汚染水を貯めておくタンク(約1000基)が満タンになるということで、原田前環境相が辞任前に「海洋放出しかない」と発言し、福島の地元から厳しい批判を受けていたことは記憶に新しいことと思います。9月11日に新たに環境相に就任した小泉進次郎氏(米国の息のかかった政治家)は、汚染水に関しては経産省が所管していることであり、まるで環境相に責任はないかのような発言をしていましたが、これは単なる批判のがれに過ぎず、これは国家が国の将来に関わる重大な事柄に関して責任を持たなくても許されるという現政権の体制が如実に反映されている発言であると思います(米国に依存する政治体制では誰も責任を取らなくて良い)。
● 低線量内部被曝に関して科学的な議論を!
当院は、福島原発事故後に日本全国だけではなく、海洋などを通じて世界中にばらまかれた大量の放射性物質が人体に与える影響(健康被害)を強く懸念しており、特に原発事故後の健康被害に関して、低線量放射線の内部被曝に関する研究者や有識者たちの言動を注視してみて参りました。その結果、例えば2015年に“Epidemiology”という疫学界において最も権威ある科学雑誌に投稿された、いわゆる「津田論文」(Tsuda et al.2015)中に示された、福島原発事故後の福島県内での小児の甲状腺癌が増加していることや、原発事故後の内部被曝の影響であると考えられる原発周辺県内での周産期死亡率の増加(医療問題研究会メンバー森氏とドイツ在住疫学者シュワブ氏の研究)など、実際に原発事故後の内部被曝の健康被害が明らかになっていることなどが次々にわかってきました。しかし、日本政府はそれを意図的に無視しており(むしろ資金提供して反対の結果を論文報告させている)、大手のマスコミもそのような情報を表に大々的には全く出さずじまいです。医学会からも事態を重くみるような発言は聞こえてきません。これでは低線量内部被曝に関して、科学的な議論ができません。当院では、何事においても科学的な議論が必要だと強く感じています。それができない今の日本の原発推進政策には、当院としても真っ向から反対の意思を示していかなければならない、と強く感じておる次第です。
● (処理済み)汚染水は安全ではない!!
汚染水の話に戻りますが、現在福一原発から出た汚染処理水は、多核種除去設備(ALPS)で処理した水であり、62種類の放射性核種を基準値以下にすることになっていました。しかし実際には、そのうちヨウ素129やルテニウム106、テクネチウム99といった放射性物質を含む、84%もの放射性物質が基準値以下になっていないことが昨年(2018年)9月に明らかになり、東電もこれを認めています。また、ALPSをもってしても、トリチウムという水素原子とよく似た放射性元素も全く取り除けないことも明らかになっており、これによる内部被曝が人体にどう影響するか、ということに関しても、政府が主張する健康影響はないとするエビデンスは皆無です(逆に影響するとするエビデンスはある)。トリチウムの半減期は12.3年であり、自然界に存在するものでも、体内に取り込まれたトリチウムの半減期は10日程度かかるとされています。汚染水に含まれるトリチウムの量は自然界に含まれるトリチウムの量よりはるかに多く、この間に内部被曝する恐れがあります。また、有機結合型トリチウムに体内で変化した場合、半減期が長くなることも報告されています。しかもトリチウムに関しては、トリチウム水89万トンのうち、8割強である約75万トンについて、基準値を超えていたことを東電自身が明らかにしています。こんなものを海洋放出して良いはずがありません。もし、ALPSやその他の処理方法により、国の定める基準値(これもそもそもなんの科学的根拠もなくデタラメです)未満になったとしても、このような汚染水が海洋放出された場合、残存している放射性物質の生物濃縮により、食物連鎖のヒエラルキーで頂点に君臨する我々の体内に、濃縮された形で放射性物質が侵入し、より一層の内部被曝をもたらし、甚大な健康被害が出る可能性も指摘されています。すなわち、「基準値以下だから健康被害は出ない」などとは決して言えないのです。汚染水処理問題は未曾有の大災害を招いた我々からすれば、非常に困難な問題ですが、これは後世に遺して良い問題ではありません。今現在日本で生活する日本人全員が真剣に考えるべき問題であると思います。しかし、内部被曝する恐れのあるような処理済み汚染水をいますぐ海洋放出するのではなく、出来るだけ陸上で保管し、その間に汚染水中の様々な放射性核種を分離・除去できる技術を向上させ、もうこれ以上陸上保管できない、という状況になってから考えても遅くはないと考えます。
当院では、内部被曝のリスクを一切考えない(意図的に無視している)政府の原発(推進)政策には真っ向から反対します。もちろん、実際にはまだ汚染水を海洋放出することが決まったわけではありませんが、もし汚染水を海洋放出することが政策として決定されるようなことがあれば、もはやその地域の海産物は全て放射性物質で汚染されることになります。皆さんはそのような海産物を口に入れたいと思われるでしょうか?自分の子供達にそのような内部被曝のリスクのあることをさせたいと思われるでしょうか?
当院に通院しておられる患者さんがたには、このような問題に関して、少しでも考えていただきたいと感じ、この文書を書くに至りました。マスコミの言うことに流され、政府発表を真に受けているだけでは、何も真実を知ることはできません。ぜひ一人一人が真剣に考え、少しでも疑問に感じられたら、積極的に自分で調べ、真実を知ってほしいと思います。
以上です。