福島原発の汚染水問題について 2023年8月29日のX(旧twitter)より転載
最近話題になっている「汚染水(“処理水”と呼ぶのは不適当と感じています)」問題についての見解をここで述べておきたいと思います。 良い機会ですので、福島原発事故の教訓も含めて、各項目に分けて書いてみました。 かなり長くなりますが、時間の許す方はぜひご一読ください。時間のない方は、最後の「汚染水について」という項目のみ読んでみてください。
原発事故を起こしても、責任逃れできる日本という国
まず、汚染水問題の原点とも言える福島第一原発事故は、周知の通り、2011年3月11日に引き起こされた東日本大震災に引き続いて起こされたものです。 これはまさに人類が経験したことのない未曾有の大災害であり、今でも原発事故後の処理は全くできていない状況です。 民間のシンクタンクである日本経済研究センターの試算によれば、その事故処理費用は70兆円も及ぶことが報告されており、汚染水増加も加味すれば最終的には80兆円まで膨らむ可能性があるとされています。
『事故処理費用、40年間に35兆~80兆円に』 https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/2019037.html
2016年12月に政府(経産省)により発表された試算では21.5兆円となり、これでもそれまで言われていた11兆円と比べると倍増したということが問題視されていました。
『福島廃炉・賠償費21.5兆円に倍増 経産省が公表』 https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H0H_Z01C16A2000000/
実際の事故処理費用はその4倍近くにまで膨らむ可能性があるということなのです。これだけでもいかに政府の試算が甘いものであるかがうかがい知れるでしょう。
また、国会事故調査委員会の調査では、原発事故は地震および津波に起因することは間違いないが、純粋な自然災害とは言えないと結論しています。報告書では「これは明らかに人災であり、予測し防ぐことはできたはず」だと述べられているにも関わらず、原発事故を引き起こした張本人である東電は、原発事故の責任をとっていないどころか、未だに政府の手助けの下で存在し続けているというのは、一体どういうことなのでしょうか。
『国会事故調報告書』 https://www.morihamada.com/system/files/people/pdf/naiic_honpen2_0.pdf
汚染水問題に話を戻すと、その諸悪の根源とも言える東京電力の発表では、2022年頃には汚染水を貯めておくタンク(約1000基)が満タンになるということで、原田前環境相が辞任前に「海洋放出しかない」と発言し、福島の地元から厳しい批判を受けていたことを覚えている人も多いと思います。
『原田環境相、原発処理水「海洋放出しかない」』 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49622460Q9A910C1CR8000/
その後、新たに環境相に就任した小泉進次郎氏(ジャパン・ハンドラーズの巣窟=CSISの息のかかった政治家)は、汚染水に関しては経産省が所管していることであり、まるで環境相に責任はないかのような発言をしていましたが、これは単なる批判逃れ・責任逃れの発言に過ぎず、これは国家が国の将来に関わる重大な事柄に関して責任を持たなくても許されるという現政権の体制が如実に反映されている発言であったと私は思います(米国に依存する政治体制では誰も責任を取らなくて良い)。
「外部被曝」と「内部被曝」
さて、福島原発事故後の放射能汚染で最も問題になるのは、「内部被曝」です。 例えば、レントゲンやCT検査などによる医療被曝は全て「外部被曝」です。宇宙放射線被曝も全て「外部被曝」です。 しかし、食べるものが放射能汚染されていた場合にそれを食べたり、空間が放射能で汚染されていた場合にその空気を吸ったりすると「内部被曝」することになります。 この「外部被曝」と「内部被曝」の違いは決定的に重要です。 「外部被曝」は、あくまでも放射線を浴びた時の影響しかなく、被曝放射線の量が少なければ少ないほど、そしてその時間が短ければ短いほど影響は少なくなります。一方で、「内部被曝」は放射能を体内に取り込んでしまった場合に起こり得る放射線被曝であり、これは体内に取り込んだ放射能がなくならない限り被曝し続けます。
放射能の単位「ベクレル」と放射能の半減期
放射能の単位は「ベクレル」を用います。一秒間に1回放射線を出す物質が“1ベクレル”ということになります。 また、放射能はその「半減期」が重要です。例えば、ラドン222の半減期は3.8日、セシウム137の半減期は30年、プルトニウム239の半減期は2.41万年(!)です。
同じ質量であれば、プルトニウムは少量の放射線しか出さないのですが、同じベクレルであれば、そこには大量のプルトニウムが存在していることになります。例えば、1ベクレルのラドンの重さを“1”とすると、重量比はラドン:セシウム:プルトニウム=1:1000:100万になります。 つまり、プルトニウムのように半減期の長い(2.41万年)放射性物質を体内に取り込んだ場合、同じベクレル数であっても、半減期の短い放射性物質と比較して、体内積算被曝量は桁違いになることがあるということです。
これはすなわち、「『ベクレル数が少ないから被曝しても大丈夫』ということにはなり得ない」ということです。 この「ベクレル」と「半減期」の理解は「内部被曝」を理解するために絶対に必要なことです。
「シーベルト」と実効線量係数
ところで、原発事故後に人気を博した(?)山下俊一は、「うつくしまゆめだより」で、「“シーベルト”の数値が同じであれば、外部被曝でも内部被曝でも人体の影響は同じ」だと発言しました。
『山下俊一氏インタビュー「放射線と私たちの健康」』 https://besobernow-yuima.blogspot.com/2012/11/blog-post_8.html
この山下氏の見解は、現在の日本政府や御用学者らのスタンダードな考え方だと言っても良いでしょう。 ちなみに「シーベルト」とは「線量当量」のことで、人体が放射線を受けたとき、その影響の度合いを表す目安となる放射線量のことです。
また、内部被曝を外部被曝に換算する「実効線量係数」というものがあります。ICRPでは、線量係数(Dose Coefficient)という数値が提案されています。線量係数とは、1ベクレルを摂取したときの預託等価線量又は預託実効線量のことで、核種、化学形、摂取経路(経口あるいは吸入)、年齢ごとに具体的な値が与えられています。 これは、1ベクレルを経口あるいは吸入により摂取した人の預託実効線量であり、単位はシーベルト/ベクレルで、微積分で人体の代謝を計算し、評価しようという試みです。これは、まるで科学的に思える数値(線量換算係数)をでっち上げて、放射能を持つありとあらゆる核種の人体に対する影響が数値化でき、その数値を元に評価できると強弁しているに過ぎません(実際にはそんなことは不可能です)。
また、核分裂反応で生成される放射性物質はヨウ素、セシウム、ストロンチウム、テルル、キセノンなどなど、たくさんの核種が知られています。しかし、この中で人間が研究できているのはヨウ素、セシウム、ストロンチウムのみであり、それ以外の放射性物質はまともに研究すらされていません。すなわち、全ての元素の内部被曝を「シーベルト」という線量単位で評価するということ自体がそもそも不可能なのです。これまでも原発推進派の人たちは、熱量の単位であるはずのシーベルトを複雑系である人体に当てはめてその被曝影響を評価しようということをしてきたようですが、それ自体が誤った考え方であるという風には思わないのでしょうか。
内部被曝の実害
原発事故後の放射線被曝の実害に関しては、2015年に岡山大学公衆衛生教授の津田先生のグループによって、原発事故後に小児甲状腺癌が増加していたことが、超一流の疫学専門雑誌である“Epidemiology”に報告(いわゆる「津田論文」)されました。
『Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014』 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4820668/
また、原発事故後の周辺県において、周産期死亡率の増加が認められたことが、日本の医療問題研究会所属の研究者(林啓至医師)とドイツのシュワブ氏らによって発表されました。
『Increases in perinatal mortality in prefectures contaminated by the Fukushima nuclear power plant accident in Japan』 http://ebm-jp.com/wp-content/uploads/media-2016002-medicine.pdf
これらは、やはり原発事故後の放射線内部被曝によって起こってきたものである可能性が高いと考えられます。
しかし当然のことながら、経産省を中心に原発推進政策を推し進めたい思惑のある日本政府は、これらの内部被曝の影響と思われる健康被害をほとんど無視しているどころか、スクリーニング効果・過剰診断だとして小児甲状腺癌の増加を否定したり、原発推進派の御用学者らを用いてそのような論文に根拠のないいちゃもんをつけたり、それに反する結果を発表したりと躍起になっています。原発推進派が放射線の影響(特に内部被曝の影響)を否定している根拠は、はっきり言って曖昧です。逆に、放射線被曝の影響があることを示す根拠はたくさんあります。 それどころか、福島に限って言えば、原発推進派が放射線被曝の影響を闇に葬り去っているとしか思えない事例さえ認められています。
闇に葬り去られる内部被曝の実態
例えば、これは大阪大学保険学科放射線生物学教授である本行忠志先生も指摘されていることですが、「チェルノブイリと福島では被曝データ量が違いすぎる」ということがあります。
『放射線の人体影響-低線量被ばくは大丈夫か』 https://seisan.server-shared.com/664/664-68.pdf
どういうことかというと、チェルノブイリでは原発事故後のウクライナで13万人の子供の甲状腺被曝が直接計測されており、正確なデータが取られているのに対し、福島ではたった1088人のみの検査で、かつ空間線量用の簡易サーベイメーターでの計測でしかなかったというのです。これでは本行先生の言う通り、福島のデータが少な過ぎて逆に比較にならないお粗末なレベルです。しかも、甲状腺被曝の直接計測を増やそうとした弘前大学に対して、なんと政府が中止するよう要請しており、正確なデータ収集を政府自らが妨害していたというのです。
すなわち、原発事故後、ヨウ素131の半減期が短い(約8日)ために、本来ならできるだけ早期に直接計測が必要なはずの甲状腺被曝量が、他ならぬ日本政府によって永遠に計測不可能な状態にさせられ、正確なヨウ素の被曝線量と甲状腺癌発症の関係性が完全に闇に葬られることになったわけです。 これはまさに日本政府の横暴であり、「愚の骨頂」としか言えません。
また、ICRPという組織は、1950年代に設立された原子力産業(原発含む)を強力に推進するための組織であり、設立当初から内部被曝の影響を一貫して否定する立場をとっています。このICRPが作成しているリスクモデルにおいては、広島・長崎の線量推定基準を元に線量基準が定められていますが、それ自体に問題があることは専門家からも指摘されていますし、さらにICRPの疾患調査にも大きな問題があることも指摘されています。
結局のところ、低線量被曝による健康への影響を調べるための疫学調査は時間がかかる上に複雑で、しかも日本政府やICRPなどの原発推進勢力の介入によって、より困難な状況にさせられていることは疑いようのない事実です。先ほど名前を挙げた阪大の本行先生は、小児甲状腺がん以外にも、チェルノブイリ原発事故後の調査などからわかったこととして、白血病・乳がん・その他の発がんについても自分の研究成果からも増加する可能性はあると仰っていますし、またがんだけでなく、細胞レベル・遺伝子レベルで障害が起こることによる健康被害(脳血管系・呼吸器系・消化器系・代謝内分泌系・泌尿生殖器系・筋骨格系・皮膚の障害)は免れられないと仰っています。放射線の影響は一人一人個人差が激しく、一概にリスクを数値化して決められるものではありません(年齢・人種・集団・性別・遺伝子によって感受性が異なるし、特に内部被曝に関してはその影響は100倍もの差が出ると言われている。)
また、生体は複雑系であり、一人一人の環境因子によっても放射線の影響は強く左右されます(例えば一定量放射線照射したマウスにストレスを加えると、副腎を介したストレス反応がより強まるなど)。放射線の線量制限は最も感受性の高い子供たちを基準にすべきです。
しかしながら、福島原発事故後の日本政府の対応はあまりにもお粗末で、福島に住む人たちや日本の未来を担うはずの子供たちを見捨てるような計画し立てられていない。やはり基本的には安全な放射線量などないことを肝に銘じ、一人一人が放射能汚染に対する意識を高め、政府に頼れないのであれば、それぞれに応じた対策を講じていくしかないと考えています。
「汚染水」についての見解
福一原発から出た汚染処理水は、多核種除去設備(ALPS)で処理した水であり、62種類の放射性核種を基準値以下にすることになっていました。 しかし実際には、そのうちヨウ素129やルテニウム106、テクネチウム99といった放射性物質を含む、84%もの放射性物質が基準値以下になっていないことが昨年(2018年)9月に明らかになり、東電もこれを認めています。
『汚染水、浄化後も基準2万倍の放射性物質 福島第一原発』 https://web.archive.org/web/20230905052922/https://asahi.com/articles/ASL9X6HQ3L9XULBJ014.html
また、ALPSをもってしても、トリチウムという水素原子とよく似た放射性元素も全く取り除けないことも明らかになっており、これによる内部被曝が人体にどう影響するかということに関しても、政府が主張する健康影響はないとするエビデンスはありません。 トリチウムの半減期は12.3年であり、自然界に存在するものでも、体内に取り込まれたトリチウムの半減期は10日程度かかるとされています。 汚染水に含まれるトリチウムの量は自然界に含まれるトリチウムの量よりはるかに多く、この間に内部被曝する恐れがあります。そして、体内で有機結合型トリチウムに変化した場合、半減期が長くなることも報告されています。しかもトリチウムに関しては、トリチウム水89万トンのうち、8割強である約75万トンについて、基準値を超えていたことを東電自身が明らかにしています。
こんなものを海洋放出して良いはずがありません。もし、ALPSやその他の処理方法により、国の定める基準値(これもそもそもなんの科学的根拠もなくデタラメです)未満になったとしても、このような汚染水が海洋放出された場合、残存している放射性物質の生物濃縮により、食物連鎖のヒエラルキーで頂点に君臨する我々の体内に、濃縮された形で放射性物質が侵入し、より一層の内部被曝をもたらし、甚大な健康被害が出る可能性も指摘されています。すなわち、「基準値以下だから健康被害は出ない」などとは決して言えないのです。 汚染水処理問題は未曾有の大災害を招いた我々からすれば、非常に困難な問題ですが、これは後世に遺して良い問題ではありません。今現在日本で生活する日本人全員が真剣に考えるべき問題であると思います。
しかし、内部被曝する恐れのあるような処理済汚染水を今すぐ海洋放出するのではなく、出来るだけ陸上で保管し、その間に汚染水中の様々な放射性核種を分離・除去できる技術を向上させ、もうこれ以上陸上保管できないという状況になってから考えても遅くはないと考えます。私は内部被曝のリスクを一切考えない(意図的に無視している)政府の原発(推進)政策には真っ向から反対します。 汚染水の海洋放出が続けられた場合、もはやその地域の海産物は全て放射性物質で汚染されることになりかねません。皆さんはそのような海産物を口に入れたいと思われるでしょうかか。自分の子供達にそのような内部被曝のリスクのあることをさせたいと思われるでしょうか。マスコミの言うことに流され、政府発表を真に受けているだけでは何も真実を知ることはできません。ぜひ一人一人が真剣に考え、少しでも疑問に感じられたら積極的に自分で調べ、真実を知ってほしいと思います。以上、参考になれば幸いです。