被曝線量の単位・定義の問題点について(2021年3月24日のtwitterより転載)
先日シーベルト(Sv)やベクレル(Bq)といった被曝線量を示す単位・定義が、内部被曝においては実状にそぐわないものであることをお伝えいたしました。そしてそのことは専門家の間でもまだ全く正しく評価されておらず、ましてや原発政策を取り仕切ってきた「原発ムラ」の連中には無視されています。
さて、今回は被曝線量(等価線量)を示すシーベルト(Sv)という単位・定義の問題点について、もう少しだけ詳しくみておきましょう。しかし、その前にしつこいようですが、ここでもう一度だけ放射線被曝において用いられる単位の確認をしておきます。
まず「ベクレル(Bq)」。これは放射能の強さを表す単位で、「1秒間に原子核が崩壊する数」を表しているのでした。すなわち、1ベクレル(Bq)と言えば、「1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ」ということ示しています。例えば、1グラムのセシウム137は、なんと3.2兆ベクレルにもなります。
次に「グレイ(Gy)」。これは「1キログラムの物質に、1ジュールの放射線エネルギーが吸収された」場合に1グレイ(Gy)と表現するのでした。すなわち、1[Gy]=1[J/kg] と定義されているのでした。ちなみに、1ジュールはおよそ0.24カロリー(1気圧で摂氏20度の水1gを0.24度上昇させるエネルギー)に相当します。そして「シーベルト(Sv)」。これは「等価線量」や「実効線量」と言って、放射線の種類によって影響の受け方が異なることや臓器によって与えられる影響が異なることを加味した放射線量を示しています。シーベルト(Sv)は一言で言うと、「放射線が人体に与える影響の大きさ」ということになります。
また、「Sv=Q×Gy」と定義されており、Q値は放射線種(αかβかγか)に依存し、生体へのインパクトの強さを表す値でした。ちなみに、α線ではQ=20、β線とγ線ではQ=1とされていますが、このQ値が一体どのように決められているのかは明確ではなく、問題があるということはこれまで述べてきた通りです。ところで、このシーベルト(Sv)という単位は非常にややこしく、その単位・定義・概念を理解するのは少し難しいように感じます。同じ吸収線量(Gy値)でも、放射線のエネルギーや種類によって、また、どの臓器・組織に吸収されたかによって、確率的影響の発生率は異なります。そこで、確率的影響(がん・白血病の発症および子孫への遺伝的影響)の発生を合理的に減少させるための防護の指標として「実効線量」というものが定義されました。「実効線量」とは、標準人の各組織・臓器の等価線量に、組織荷重係数をかけた線量を、すべての組織・臓器について足し合わせた線量です。この時点で既にややこしいですね。理論上は、1グレイのγ線またはX線が標準人の全身に均等に吸収された(外部被曝した)場合に、実効線量として1シーベルトと定義されます。
この放射線による人への確率的影響を評価する場合には、“間接的”に実効線量を使います。なぜ“間接的”かというと、実効線量は「その場所に標準人がいたら受ける線量」に相当するので、人種・性別・年齢・体格が違う人がいたら、受ける線量が全く違ってくるからです。つまり、実効線量は個人の受けた放射線の量を厳密には表さないので、その個人の確率的影響の発生も厳密には表さないのです。つまり実効線量は、直接的には「放射線防護の方法を比較するための予測評価」、「放射線防護の基準値」、「現在の放射線防護の方法が基準値に適合しているか否かの評価」に使う指標だということです。とてもややこしい話ですね。でもこのあたりは大事な話なので是非確認しておいて欲しいと思います。
ちなみに、有害な組織反応が発生するほどの大量被曝(例えば10Sv以上)や、医療被曝のように特定の部位だけの「外部被曝」の確率的影響は、組織の吸収線量(Gy値)で評価します。ただし、等価線量も実効線量も実測はできず、その代わりに「1cm線量当量」や「70μm線量当量」が実測されています。実効線量も、等価線量も、線量当量も、単位はすべてシーベルト(Sv)ですが、それぞれの数値を単純に比較はできません。また、同一の放射線に対しては、1cm線量当量のほうが実効線量より大きくなるので、個人の被ばくを1cm線量当量で評価すれば、過大評価となる可能性があります。
さて、放射線被曝について考える際に用いられている単位(Bq、Gy、Sv)について再度詳細にみてきました。これらの単位はただでさえその概念がややこしく、完全に理解することは、物理学を勉強しないと難しいでしょう(私もまだまだわからないことだらけです)。
ところで、Bq・Gy・Sv以外にも、実際に放射線検出器(線量計)を用いて放射線量を計測する際に、「cpm(count per minutes)」や「cps(count per seconds)」という単位が用いられています。線量計は様々な物理現象を利用して、線量計に放射線が入射した回数をカウントすることができるものです。しかし、線量計では放射性物質から放出された放射線すべてがカウントできるわけではなく、あくまでも線量計に当たった放射線をカウントしているに過ぎません。ですから、カウントのための原理や線量計の検出効率、線量計の個体差によっても異なりますが、かなり間引かれてカウントされます。そして、「cpm(count per minutes)」や「cps(count per seconds)」という単位は、線量計が1分間あるいは1秒間に何回放射線をカウントできたかを表す単位です。すなわちこれらは線量計の放射線カウント数を示しており、「cpm」が1分間の放射線カウント数、「cps」が1秒間の放射線カウント数です。先述した通り「cpm」や「cps」というものは線量計が当たった放射線のカウント数を示す一つの“単位”ではありますが、線量計の種類ごとに同じ場所で測ってもこれらの値はそれぞれ異なってきます。ですから、異なる機種でその数値を比較しても全く意味がありません。線量計ごとにカウント数(cpmやcps)の違いが出る理由としては、「計測方法の違い」、「センサの大きさ」、「エネルギー感度」などいくつかの要因がありますが、いずれにせよそのような機種によって異なる値(cpmやcps)で放射線量を比較することはできません。そこで、このような線量計の放射線カウント数の違いを考慮して変換式をつくり、最終的に同じ毎時マイクロシーベルト(μSv/hr)表示になるように設定しているというわけです。それでは次回から少し測定器の話をもう少し詳しくしていきましょう。