性能の悪い家が不健康を招く!?住宅後進国日本の現状について 2023年2月27日のX(旧twitter)より転載
先日は住宅内で命や健康を損なう「ヒートショック」についてと、住宅の断熱性と健康について少しかじって解説しました。
https://matsumotoclinic.com/about-heat-shock-response/
今回は、室温(特に寒さ)と健康との関係性、そして我が国の現状について深掘りしてみていこうと思います。
まず大前提として、例えばWHOが公表している2018年度版の「住宅と健康に関するガイドライン(WHO Housing and health guidelines)」では、室温は18℃以上に保つことを推奨しています(A higher minimum indoor temperature than 18 °C may be necessary)
ちなみに低い室温により健康が害される可能性については、だいぶ前から様々な研究で示唆されてきました
『Cold comfort: The social and environmental determinants of excess winter deaths in England, 1986-1996』 https://www.jrf.org.uk/housing/cold-comfort-the-social-and-environmental-determinants-of-excess-winter-deaths-in-england
また、低気温によって虚血性心疾患や脳卒中、気管支喘息やCOPDなどの呼吸器疾患が増悪することも著名な医学雑誌であるランセット誌に過去に報告されています。
『Cold exposure and winter mortality from ischaemic heart disease, cerebrovascular disease, respiratory disease, and all causes in warm and cold regions of Europe』 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(96)12338-2/abstract
興味深いことに、このランセット論文でもそうですが、寒冷地域よりも比較的温暖な地域の方が、冬の死亡率が高まることが知られています。これは、外気温によるものというよりも、寒冷地域に比べて温暖な地域の住宅の方が、住宅の断熱性に劣るためであると考えられます。
『住宅の断熱リフォームと健康の関係 〜国⼟交通省スマートウェルネス住宅等推進事業調査から〜』 https://web.archive.org/web/20230125131721/https://www.j-reform.com/web-seminars/pdf/reform_swh.pdf
この比較的温暖な地域の方が寒冷地域に比べて冬に死亡率が高まることに関しては、日本国内でも同様の傾向が認められることがわかっています。
実際に、国内の「住まいの断熱」に関する意識調査でも、比較的温暖な地域の西日本エリアに住む人の方が、住宅の断熱に対する意識(認知)が低かったという結果が出ています。
また、冬季の在宅中平均居間室温の調査では、北海道が19.8℃であるのに対し、最も寒かったのが香川県の13℃、大阪府でも16.7℃と、温暖地ほど冬の室温が寒い都道府県が多いという結果が出ており、断熱性の低い家では室温が低く、住宅性能と冬の死亡率との間に相関があることは間違いありません。
しかし、先に挙げたWHOのガイドラインの勧告である最低室温18℃を保つことができる住宅は、日本国内にはなんと1割程度しかない(!?)ことが論文報告されています。最低室温10℃でさえ、なんと約4割の住宅しか満たせないのです(スマートウェルネス住宅全国調査より)。
そもそも日本ではこれまで「建築物省エネ法」にて、平成28年基準(断熱等級4)を最高とする断熱性能・省エネ基準を設けてきたものの、明確には義務化されていませんでした。ちなみにこれまでの最高等級4も全く良い性能とは言えず、ドイツでは20年以上前から省エネ法違反で建てられないほどの性能です。
また日本では、現在5000 万件の住宅ストック(既存住宅)があるとされていますが、そのうちおよそ約4 割(多い!)が昭和55年に定められた基準も満たない無断熱住宅だと推計されており、これまでの最高等級4ですら10%もないという、本当に酷い有様です。
『我が国の住宅ストックをめぐる状況について』 https://www.mlit.go.jp/common/001318639.pdf
昨年2022年に「建築物省エネ法」が改正され、やっと住宅性能が義務化されるとはいえ、それでも先進国中最低基準でしかない等級4が、2年後の2025年に適合義務化される予定だというに過ぎず、ここでも日本の「住宅後進国」としての実力が遺憾無く発揮されています。
このように、人の健康に密接に関わる住宅の断熱性能を疎かにしてきた国だからこそ、日本では住宅内の温熱環境にこだわる人は少なく、例えば大手ハウスメーカーの中でも断熱気密にこだわった家づくりをしている業者は、一条工務店のみという悲惨な状況です(そもそも大手ハウスメーカーは勧めません)。
ちなみに、これは南アフリカの話ですが、より低コストで建てられた家は、室温環境や室内空気環境が不安定になりやすく、健康に悪影響を与える可能性が示唆されています。
『Indoor Temperatures in Low Cost Housing in Johannesburg, South Africa』 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5708049/pdf/ijerph-14-01410.pdf
これは日本のローコスト住宅にも言えることだと考えられます。そもそも「安かろう悪かろう」住宅の室内環境が良いはずはなく、当院では院長自ら患者に新築戸建のアドバイスをすることもあるのですが、ローコスト住宅メーカーや「高かろう悪かろう」の大手ハウスメーカーは全く勧めていません。
さて、住宅性能と健康との関係性や日本の住宅の現状についてつらつらと書いてきましたが、ここまで読んでみていかがでしょう?もちろん温熱環境だけが住宅に求められる全てだとは言いませんが、自分達の住宅の温熱環境がまさかこんな酷いものだとは認識していなかった人が多いのではないでしょうか?
最後に、興味深い話で締めようと思います。 イヌイットが雪で作る伝統住居「イグルー」は、室内側の雪が溶けて自然断熱・気密材となり、外気温がマイナス20℃〜マイナス50℃の極寒でも、居住空間は10℃以上という状態を保てるそうです (アスカ工務店HPより拝借)
つまり、日本の住宅の多くは、この極寒の地でイヌイットたちが暮らすイグルーの温熱環境すらも満足に保てないということなのです! このような現状を知った上で、ではその温熱環境を改善するためにできることは何なのか?? 次回は、そのことについて具体的に述べてみたいと思います。