自然農への取り組み(第二弾) 2023年6月25日のX(旧twitter)より転載

先日、当院の「自然農への取り組み(第一弾)」と称して、自然農を丹波篠山にて広めていく計画があることを示しました。 今回はその第二弾として、個人的に今後取り組んでいきたいことをさらにお話ししたいと思います。

まず、皆さんに知っておいてほしいこととして、農業従事者は2020年時点で約136万人、そのうち65歳以上が70%(約95万人)、49歳以下の若年層の割合はたった11%(約15万人)であり、高齢者が日本の農業を支えているという危機的状況になっているとされています。そして、そのうち有機農家数は約1万2千戸程度とされており、全農家戸数の1%未満であるとされています。また、2018年時点における日本全国で行われている有機農業の作付面積は約2万3700ヘクタールであり、なんと全体のたった0.5%程度でしかありません。

ちなみに、日本における『有機農業の推進に関する法律』によれば、有機農業の定義は以下のとおりです。

1. 化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない

2. 遺伝子組換え技術を利用しない

3. 農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減するまた、悪名高い国際機関であるコーデックス委員会が作成したガイドラインにおいて規定されている『生産の原則』によれば、「有機農業は、生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健全性を促進し強化する全体的な生産管理システムである」とされています。

ただし、このような定義を一見すると良いように思われる有機農業も、収量を上げるために自然をコントロールしようとする農法に近いものであり、突き詰めて考えれば自然に“抗う”耕作法だと言えるでしょう。 これは、当院が支援していきたいと考えている自然農の「自然と調和する」という考え方・哲学・思想とは相対するものです。

自然農では、土壌に住む微生物や虫たち、そこに生えてくる雑草やその他の植物、そして人を含めた動物でさえも、それら全てが自然の一部であり、調和して生きているものであると考えます。そして、その中で自然農家が植えた種からできてくる農作物(=自然の恵み)を、我々人間が「分け与えてもらっている」という考えで収穫します。

つまり、自然農を真剣にやりたいと思うのであれば、“自然農”を生業にした上での「金儲け」や「収穫量」などは、まずは気にせず取り組むべきだと思います。 “自然農”を行う上で必要なマインドは、自分自身も自然の一部であることを自覚し、ただ自然と調和し溶け込むような存在であることを心がけることです。 「自然のあるがまま」を受け入れ、その自然から農作物を収穫できたことを感謝し、それを収穫できた分量のみありがたくいただくという考え方にシフトすべきなのです。 だからこそ自然農は、“農”を生業として暮らすことを前提にした専業農家には向かない農法であり、“農業”として考えるべきではないとすら私は考えています。

さて、このような考え方で自然農に従事している人は、一体この日本に何人おられるでしょうか。1935年に世界救世教創始者でもある岡田茂吉氏が無肥料・無農薬の自然農法を提唱し、1950年代には福岡正信氏が「不耕起」・「無肥料」・「無農薬」・「無除草」の原則で、種まきと収穫以外はほとんど自然に任せる究極の自然農法を提唱するに至り、彼の代表作「自然農法 わら一本の革命」は20カ国以上に翻訳され、世界的なベストセラーになりました。

また、それに続いて1970年代後半から川口由一氏が本格的に自然農を開始し、「不耕起」・「無肥料」・「無農薬」・「無除草」という福岡流自然農の原則は踏襲しつつ、適切な時期に適切な処置を施すという独自の自然農法を編み出し、自ら指導を行い、全国から自然農を志す人々が集まる学びの場として「赤目自然農塾」を奈良県に開設しました。 以降も自然農は知る人ぞ知る農法として発展し、「奇跡のリンゴ」で有名になった木村秋則氏、「天然農法」で知られる藤井平司氏、「循環農法」で知られる赤峰勝人氏、そして今回当院としても支援し広めていきたいと考えている自然農を提唱されている岡本よりたか氏などなど・・・。 様々な人が独自の哲学・思想の下に、日本全国で自然農を広める活動をされています。とはいえ、先述した通り、「有機農業」をしている人ですら、全農業人口のたった1%未満に過ぎません。これが「自然農」ということになると、おそらくその1/5〜1/10未満(0.2〜0.1%未満)なのではないかと個人的には推定しています。 この仮定で考えると、本格的に自然農に従事している人は、多くても全国で数千人程度なのではないでしょうか。

また、日本の農業従事者の経営耕地面積が平均1.8ヘクタール(北海道で11.1ヘクタール)程度と言われており、自然農では一人当たり大体30〜40アールくらいが耕せる限界と言われているようです。 つまり、作付面積で考えた場合、全国で自然農に数千人が従事していると考えた場合でも、その耕地面積は全て合わせても多く見積もっても1,000ヘクタール未満ということになるでしょうか?? 1年に国民一人が必要な食料を得るのに必要な農地が約100坪(330平方メートル)と言われているので、最大1,000ヘクタールの耕作地があったとしても、自然農だけで養える最大人口は3万人程度ということになると推定できます。

さて皆さん、ここまで読まれた段階で、自然農によって産生された農作物がいかに希少価値の高いものであるかがわかっていただけましたでしょうか。私は、そのような希少価値の高い農作物を耕し提供することのできる自然農法家の方々は、(自然農をやっているというだけで)非常に価値があり尊い存在であると考えています。 だからこそ、自然農を実際にやっている人たち、あるいはこれからやりたいと志している人たちとできるだけ多く知り合い、リアルに出会い、できれば直接的・間接的に支援していきたいと思っているわけです。そして、もちろん私としてはできるだけ多くの方々がこの自然農の農作物を手に入れられるようになれば良いと考えてはいますが、現実問題として限られた自然農の耕作地から得られる資源を、その資源以上に求める人たちに供給するということは不可能です。ですから、自然農の農作物など希少価値の高いものは、やはりその価値を真に理解した上で「どれだけ高くても手に入れたい」と思う消費者にこそ供給されるべきであると考えています。

こういう話をすると、必ず「では金持ちだけが良いものを買える世の中で良いと思っているのか」というような文句を言ってくる人が出現してくるものですが、勘違いしてもらいたくないのは、これは「選民思想」とか「今だけ、カネだけ、自分だけ」などという浅はかな考えの下で述べているわけではもちろんなく、ただ単に「本当に価値あるものを、価値あるものだと理解できる人が手に入れる」というのは当然の摂理であると考えているだけです。 例えお金がなくても、その価値を本当に理解できていれば、例えば今回丹波篠山で自然農をやりたいという殊勝な方のように、本気になって自ら行動し、自らが自然農の農産物を生み出す「生産者」になることだってできるわけです。 本当に価値あるものを生み出すわけではなく、むしろその「消費者」であることに甘んじている限りは(私も含めて)、それを得ようとしたときに高くつくのは当たり前ですよ、ということは肝に銘じておくべきだと思います。

さて、そこで今後手がけていきたいと思っていることについてですが、本当に価値あるもの(自然農の農作物など)を生み出すことのできる「生産者」と、それを価値あるものと認識した上で欲しがる「消費者」とをマッチングさせることのできる「場」を、独自の視点で創っていきたいと思っています。 とりあえず今考えているのは、ある程度の価値観を共有している人たちが集まるコミュニティを作り、そこに所属している人たちを中心とした「オンラインショップ」を開設したいと思っています。 もちろんコミュニティ限定オンラインショップというような、狭い形にするつもりはないですが、ただ単にものを売るための場にするつもりは一切ありません。 本当に価値あるものを求める「消費者」と、本当に価値あるものを提供できる「生産者」が互いに結びつくことができる場として機能するようなプラットフォーム(コミュニティ型オンラインショップ)を創っていきたいと思っています。そのようなオンラインショップを活用することで、生産者としては本当に価値あるものを欲しがる消費者に購入してもらうことができるという安心感に繋がり、消費者からすれば本当に価値あるものを顔や人となりのわかる生産者から購入できるという安心感に繋がるはずです。 こうして「消費者」と「生産者」との間で互いに信頼関係が築けるような場としてもオンラインショップが機能するようになれば、素晴らしいのになあと常々思っています。

この構想はまだスタート地点に立ったばかりですが、なんとか数年後にはある程度形にできれば良いなあと思っています。 焦る必要はないのですが、“食”のリセットも進行しつつある昨今、できるだけ早くオンラインショップを作りたいと思っています。 そのためにも、今後さらに自然農(や自然酪農)を実践している人たちや、それを志す人たちと直接的に繋がり、なんらかの形で彼らを支援していけたら良いなと考えています。 以上、長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。 引き続き、当院の活動をフォローしていただければ幸いです。 自利即利他の精神の下に

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