「必須脂肪酸を切る」シリーズ パート7(facebookより転載 2020-1-7)
さて、当院の患者であればご存知かと思いますが、当院では飽和脂肪酸摂取を推奨しており、オメガ3やオメガ6などの(多価)不飽和脂肪酸は推奨しておりません(ほぼ禁止に近い)。
その理由を昨年内にまとめた「飽和脂肪酸悪玉説を切る」シリーズと、昨年〜今年(いま)にかけてまとめている「必須脂肪酸を切る」シリーズで明らかにしていきたいと考えております。
今日は、多価不飽和脂肪酸(プーファ)の空気酸化(自動酸化)についての記事になります。いかにプーファが危険な物質であるかを知ってもらいたいと思いますので、よくお読みになり、基礎知識を身につけていってもらえたら、と思います。
● 空気中での脂質過酸化反応=自動酸化
今や常識となっていますが、多価不飽和脂肪酸(プーファ)が酸素の存在下で自動酸化を受け、脂質ヒドロペルオキシドが生成されることは、1942年にファーマー(Farmer)博士らによって初めて提唱されました(Trans Faraday Soc.1942;38:348)。それ以来、食用油脂の保存という観点、あるいは塗料における油脂の酸化と乾燥の関係性の観点などから、油脂や脂肪酸エステルなどの単純系において、空気中の脂質過酸化反応が詳細に調べられており、そのメカニズムもほとんど明らかにされてきました。
空気中の油脂の脂質過酸化反応は、1. フリーラジカル連鎖反応を介した自動酸化反応、2. 光増感酸化反応、3. 酵素リポキシゲナーゼによる反応の3つに大別されますが、このうち最も重要なのは1. のフリーラジカル連鎖反応を介した自動酸化です。油脂の空気中の自動酸化は、通常は熱によって引き起こされます。その結果、脂質ラジカルが形成され、ラジカル連鎖反応が引き起こされるのです。それでは次に、実際の自動酸化のプロセスをみていきましょう。
● 自動酸化のプロセス
酸素条件下では、空気中でも容易に酸化されてしまう(多価)不飽和脂肪酸ですが、実際の酸化プロセスをみていきましょう。一般的に(多価)不飽和脂肪酸の自動酸化のプロセスは、
1. 連鎖開始反応(Initiation)
2. 連鎖移動反応(Propagation)
3. 連鎖停止反応(Inhibition)
という一連の流れで引き起こされます。まず開始反応では、主に熱や日光により不飽和脂肪酸(LH)の二重結合に接する炭素鎖の水素原子が引き抜かれて、脂質(アルキル)ラジカル(Alkyl radical:L・)が生じます。それが空気中の酸素と反応して脂質ペルオキシラジカル(Peroxy radical:LOO・)となります。そして、このペルオキシラジカルが隣接する不飽和脂肪酸から水素原子を引き抜き、新たなアルキルラジカル(L・)を生成し、自身は準安定(とはいえ不安定)な過酸化脂質(Hydoroperoxide:ヒドロペルオキシド=LOOH)となります。このような反応が連鎖的に起こっていく(=ラジカル連鎖反応)ことにより、空気中での脂質過酸化反応が進行していきます。最終的には過酸化脂質が熱や光によって分解されていき、アルデヒドや低級脂肪酸などの脂質過酸化最終生成物が生成されます。そして、ビタミンEやグルタチオンペルオキシダーゼなどのようなラジカル反応停止物質(抗酸化物質)により一連の反応が収束していくことになります。
開始反応で起こる水素の引き抜き反応は、先述した通り二重結合に接する炭素鎖(メチレン)で起こります。2つの二重結合に挟まれたメチレン基(-CH2-)に結合している水素はより攻撃されやすい(引き抜かれやすい)ため、構造中に二重結合の数が多い脂肪酸ほど酸化されやすいということになります。すなわち、二重結合のない飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸、そしてその中でも、オメガ6やオメガ3などの二重結合が複数ある多価不飽和脂肪酸(=PUFA:以下プーファ)の方がより酸化されやすいということです。さらにそのプーファの中でも、炭素数も多く二重結合の数もより多いオメガ3系脂肪酸が最も空気中で自動酸化されやすい、ということなのです。実際に、植物油や食物中の油の酸化について調べられた研究でも、二重結合の数が多い方が自動酸化されやすく、劣化されやすいことが判明しています(F.Food Sci.2003;68:345-353, F.Food Sci.1993;58:270-273)。
例えばリノール酸(18:2)のように、二重結合が2つ以上存在する多価不飽和脂肪酸(プーファ)では、二重結合に挟まれた炭素鎖(メチレン鎖)での水素引き抜き反応から酸化(フリーラジカル化)が始まり、多くの酸化生成物が産生されます。一度油脂の酸化が起こると、脂質ラジカルが自触媒的に連鎖反応を引き起こし、脂質過酸化代謝産物が大量に生成されることになります。生成された脂質ヒドロペルオキシドは徐々に熱や光により開裂反応を経て分解され、マロンジアルデヒド(MDA)や4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4-HNE)などアルデヒドが生成されるようになります(Academic Press, New York.1982,p.101)。過酸化反応の終末期には他にもケトン体や低級脂肪酸なども生成され、これらの混合物を総称して、「過酸化脂質(Lipid peroxide)」と呼んでいます。実は、この脂質過酸化反応の最終生成物であるアルデヒド(MDAや4-HNEなど)こそが、多価不飽和脂肪酸(プーファ)の酸化反応によって大量に産生され蓄積していくことで、我々の“生命場”を狂わせ、慢性疾患を引き起こす元凶となるのです(詳細は後日述べます)。
以上、プーファの空気酸化についてでした。
それでは次回はプーファの過酸化反応によってできた過酸化脂質の人体への影響についてみていきたいと思います。