「必須脂肪酸を切る」シリーズ パート8(facebookより転載 2020-1-10)

さて、当院のこのページ上で年末から記事テーマとして連投している「必須脂肪酸を切る」シリーズはまだまだ続きます。

今回のテーマは、「油脂の有害な(自動)酸化について」です。

● 油脂の有害な自動酸化

 油脂(特に不飽和油脂)は、貯蔵しておくと空気中の酸素・湿気・熱・日光・酵素(微生物由来)などの作用により、不快な臭いを生じ、変色していきますが、これらの油脂の劣化現象を、“酸敗”と呼びます。これはほとんどが、油脂の構成成分である不飽和脂肪酸(特にプーファ)の自動酸化により大量に生成されたアルデヒドやケトンなどによって引き起こされる“酸化型”酸敗であることがわかっています。

 油脂の自動酸化により生じた過酸化脂質(LOOH)は、熱や鉄イオン(Fe2+、Fe3+)などの遷移金属イオンによって、容易にアルコキシラジカル(LO・)や、ペルオキシラジカル(LOO・)を生じます。そして、これらの脂質ラジカルがさらなるフリーラジカルや活性酸素種を生み出し、ラジカル連鎖反応やフリーラジカルの分解反応・重合反応を引き起こします。その結果、様々なアルデヒド・カルボニル・炭化水素・低級脂肪酸などの化合物を生み出します。

 油脂の酸化(=酸敗)は、日常生活では天ぷらや揚げ物などに使用される調理油で皆さんもよく経験されていると思います。このような調理油は、高温・酸素下で使用されるため、当然のことながら余計に酸化を受けやすいのです。最初は透明でさらっとしている油でも、調理時間が長くなるにつれて色が濃く、粘っこくなり、揚げ物の油切れも悪くなってきます。そのうち泡立ちも見られるようになります。普通調理油には消泡剤(多くはシリコーン系)が含まれていますが、それでも泡立ちが見られるようになった場合、それ以上の使用は絶対に控えるべきです。この時の油は、含有されている不飽和脂肪酸(特にプーファ)が極度に酸化されており、先述したような極めて有害な脂質ヒドロペルオキシドが大量に含まれているばかりではなく、発がん性のあるアルデヒドなども大量に生成されており、さらには酸化重合により生成した二量体や三量体などが含まれています。実際に、油脂(植物油)の酸化劣化に関する実験では、高温条件下や日光の存在により、1週間を超えた時点で安全性の目安ラインをはるかに超えるレベルまで酸化劣化が進んだという結果が出ています(人間発達科学部紀要.2008;3:39-47)。

 このような油脂の有害な自動酸化を食い止めるために、我々が日常的に使用する植物油は熱・光・酸素を遮断するために密閉容器に入れられており、発生したラジカルを捕捉するためにビタミンEなどのフェノール系連鎖停止剤が加えられています。しかしながら、抽出・加工され製品化されている間にすでに酸化してしまっている可能性は否定できません。ですから、このような有害な酸化リスクの高い植物油(菜種油・ごま油・コーン油・大豆油など)は出来るだけ使用を避けた方が良いと考えられます。

● 過酸化脂質摂取の影響(生体毒性)

 酸化油脂を投与した動物では、小腸粘膜の変性壊死、肝臓や肺などに壊死等の明らかな臓器障害が起こることなどは、かなり昔から経験的にも知られていました(Acta Physiol Scand.1960;49:97, Naturwissenschaften.1961;48:625)。また、摂取された過酸化脂質が生体毒性を示すことは、半世紀近くも前から示唆されていました(Lipids.1972;7:715)。その毒性発生メカニズムについては、今でもまだ完全には解明されていません。しかしながら、脂質の過酸化反応によって生み出される過酸化脂質やその二次生成物の人体に対する有害性については、様々な研究からもすでに明らかになっています。

 歴史的に遡ってみてみると、1950年代には既に酸化油脂中の有毒成分として脂質ヒドロペルオキシドの存在が認められていました(J.Biochem.1955;42:561, J.Biochem.1954;41:481)。それ以来、過酸化脂質の生体毒性に関しては多くの研究が蓄積されてきましたが、食物中の過酸化脂質摂取後の消化と吸収に関しては古くから多くの議論がされてきました(”Lipids and Their Oxidation”Westport.1962:p.360)。現在では、腸管から脂質ヒドロペルオキシドが吸収されるか、腸壁で分解され、二次生成物となってから吸収されるかの2通りがあると考えられています(J Biochem.1955;42:561, Br J Nutr.1968;22:97, Stein J Nutr.1960;70:199, Lipids.1970;5:976, Lipids.1985;20:412, Biochem Biophys.1986;879:36, Lipids.1986;21:150)。

 脂質ヒドロペルオキシド(脂質ラジカル)の生体毒性に関しては、1979年に初めて、リノール酸過酸化物に変異原性があることが実験的に明らかにされました(Agric Biol Chem.1979;43:2225)。それ以前にラットやマウスを使用して行われた実験でも、脂質過酸化物の食物からの摂取と発がんの強い関係性が示唆されています(Cosmet Toxicol.1973;11:443)。また、高度不飽和脂肪酸(プーファ)リッチな魚油で飼育したラットでは、不飽和脂肪酸含量の低いヤシ油やラードで飼育したラットに比べて、肝ミクロソーム内での過酸化脂質量および過酸化脂質生成速度が有意に高くなることが示されています(Biochem J.1978;174:585)。さらに、トウモロコシ油の摂取量の多いラットほど血中や肝ミトコンドリアやミクロソーム画分の過酸化脂質量が増加することもわかっています(J Nutr.1980;110:924)。そして、脂質過酸化産物を多く摂取すると、直接的な臓器障害・発がん作用のみならず、間接的に発がん物質生成を促進する場合があることも示唆されています(Int J Radiat Biol.1986;49:471, Cancer Res.1984;44:4924)。ただし、これらの古い実験での生体内過酸化脂質測定方法は、ほとんどがTBA(チオバルビツール酸)法であり、この方法で測定した過酸化脂質量の正確性には多くの疑問も呈されています。

しかしながら、上記のような多くの実験から、酸化した油脂が人体にも悪影響を与えるということは、すでに明らかになっていると考えて良いでしょう。当院では、このような酸化した油脂の有害な作用を危険視しており、患者には極力酸化しやすい油脂(不飽和脂肪酸リッチな油)の使用・摂取を控えるように指導しています。

以上、酸化した油脂の生体毒性についてでした。
次回は「カルボニルストレス」について書いてみたいと思います。

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