新型コロナウイルス感染症、無症状者からの感染はありうる?(2021年9月8日のtwitterより転載)

新型コロナ感染症に関して、以前から議論のある「無症状者からの感染について」の当院の見解をお示しします。多少専門的な話にもなるので、興味ある方のみご覧ください。特に医療従事者の方には是非ともご一読いただき、再度自分なりに考えていただきたいと思います。

例えば、昨年12月にJAMMI誌に投稿された論文におけるメタアナリシス(7カ国13件のスタディ、21,708人)では、111人の無症状のPCR陽性者からの感染率は0〜2.2%、552人の有症状のPCR陽性者からの感染は0.8〜15.4%だったと報告されています。

https://jammi.utpjournals.press/doi/10.3138/jammi-2020-0030

 

昨年12月にJAMA誌に掲載された家庭内感染を調べたメタアナリシス(54件のスタディ、計77,758人)では、無症状者が家庭内感染を起こすリスク(二次感染率)は0〜4.9%と留まっていたのに対し、有症状者からの感染は18%と高かったことが報告されています。

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2774102

 

また、血清中の抗体が確認できた世帯における家庭内感染を調べた別の論文によれば、血清陽性の無症状者では、有症状者に比べて家庭内で他の世帯員に感染を広げる可能性が25%ほどしかないものの、家庭内感染の19.6%を引き起こしていたということが報告されています。

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.04.20225573v1

 

さらに、最近Lancet誌に報告された論文によると、283名の無症状のPCR陽性者が他者に感染を広げるリスクは、567名の有症状のPCR陽性者の半分でした。これは家庭内感染や濃厚接触者に対する感染を調べた際にも同様の結果でした。

https://www.thelancet.com/journals/lanepe/article/PIIS2666-7762(21)00033-8/fulltext

 

これらの「無症状者が感染拡大させる」という結果から、各国政府は無症状者からの感染拡大を防ぐためにも、ロックダウンや外出自粛・消毒やマスク着用の義務化・ソーシャルディスタンスの徹底・ワクチン予防接種の推奨、などの政策を展開しているものと思われます。

一方で、昨年ロックダウン後の中国武漢で行われた大規模研究では、「無症状者からのウイルス伝播(=感染拡大)はない」と結論づけられています。

https://www.nature.com/articles/s41467-020-19802-w

 

この研究では、昨年5月にロックダウンから明けた武漢市において、6歳以上の住人の92.9%(約990万人)に大規模PCRスクリーニング検査を行っていますが、このうちCOVID-19から回復した約3万4千人のうち、107人(10万人当たり310人)が、PCR検査で陽性判定されました。

また、この調査が行われた期間中(2020年5月14日〜6月1日まで)に、新型コロナ感染症の既往のない人の中で新たに新型コロナ感染症(COVID-19)と診断されたケースは存在せず、無症候性のPCR陽性症例が300例(10万人当たり3人)確認されたのみでした(もちろん偽陽性も含まれる)。

そして、この無症候性のPCR陽性症例の近親者(1,174人)にもPCR検査を行なったところ、全て陰性でした。ちなみに興味深いこととして、この研究では血清抗体検査も行なっており、PCR陽性者の63%は新型コロナウイルス抗体が陽性でした(つまり無症状でも既に感染していたことを示す)

ところで、これは最近Lancet誌に投稿されたコメンタリーでも指摘されていたことですが、これまで報告されてきた無症候性感染に関するほとんどの研究は、新型コロナが感染拡大する最中で行われており、ほとんどの無症状者が新型コロナ感染の初期段階にあった可能性があります。

https://www.thelancet.com/journals/lanepe/article/PIIS2666-7762(21)00059-4/fulltext

 

それとは対照的に、先に挙げた中国武漢の研究では、ロックダウンが解除されてから少なくとも5週間は市内で新規感染者の発生がなく、またPCR陽性になった無症状者に抗体検査陽性例が多かったことからも、その感染は数週間〜数ヶ月前に起こっていた可能性があると考えられます。すなわち、多くの研究における無症状陽性者は、感染初期で感染力のあるウイルスが残存していたと考えられるのに対し、武漢での研究における無症状陽性者は感染後期に当たり、除去されずに残った少量のウイルスやその死骸やウイルスRNA断片がPCR検査で拾われて陽性になったと考えられるのです。実際に、ウイルス動態を比較したメタアナリシス研究では、無症状の場合と有症状の場合の双方において、ウイルス量は感染後数日以内にピークとなり、そのウイルス量は同程度であったという研究が示されています。

https://www.thelancet.com/journals/lanmic/article/PIIS2666-5247(20)30172-5/fulltext

 

つまり、感染初期では無症状者でも有症状者でも、生存ウイルス量にはあまり差がなく、従って有症状者に比べれば程度は低いものの、無症状者からの感染力が認められる可能性があるということが示唆されているのです。以上のことが、これまでの研究から一般的に言われていることです。しかしながら、ここではもちろん「無症状者からの感染があるから危険だ!」ということを示したいからそのような文献を示したわけではありません。ここからが本題ですが、これらの研究論文において大きな問題となるのは、「PCR検査陽性者」を「新型コロナウイルス感染者」と同列に扱っている点です。これまでこのTwitter上でも何度も申し上げてきた通り、PCR検査であろうが抗原検査であろうが、ウイルスの死骸や断片などと、生きた(感染性のある)ウイルスを区別することは不可能です。

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.05.20.20108183v2

 

BMJの批判的な論説でも述べられているように、無症状の人がどの程度SARS-CoV-2を感染させるかを調べるためには、生きたウイルスの感染力を調べる必要があり、そのためには生きたウイルスの培養をするしかないのです(ただし、それでもウイルスの純粋な単離培養はできない)。

https://www.bmj.com/content/371/bmj.m4851

 

少なくともウイルス培養で感染性があることが示されなければ、どんな検査でも感染性のある生きたウイルスとウイルスの死骸や断片を区別することは現状ではできず、ほとんどの論文で示されているような「PCR検査陽性」ということをもって感染力のあるウイルスが蔓延しているとは限らないのです。多くの論文で示されているような、RT-PCR検査のサイクル閾値(Ct値)がウイルス量(viral load)の直接的な測定値とはなり得ないのだ、ということは肝に銘じておかなければなりません。

https://www.journalofinfection.com/article/S0163-4453(20)30675-7/fulltext

 

免疫力が低下している入居者が多く感染症が蔓延しやすい特定の介護施設や医療機関などでは感染力の強い新型コロナウイルスが流行して有病率が高くなるでしょうし、無症状であっても感染力の強いウイルスをエアロゾルなどで排出し感染を広げてしまう可能性はあります。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2008457

 

そのような特殊な環境の中では、PCR検査も診断補助として役に立つ可能性はありますが、その一方、市中で一般的な生活をしている健常者が、無症状にも関わらずPCR検査を行うのは無意味どころか偽陽性を生む点において有害な検査であると当院では考えています(詳細紹介済み)。ましてや生きた感染性のあるウイルスが存在しているかどうかの確認すらすることなく、PCR検査の結果だけをもって新型コロナ感染と診断し、「無症状者が感染拡大させる」というような結論を持ってくるのは、極論であり暴論であるとしか思えません。このような極論・暴論をもとに、健常者(無症状者)でもPCR陽性者は隔離が必要とか、マスク・ソーシャルディスタンス・消毒の徹底が必要とか、あるいは危険な遺伝子ワクチンが必要だ、などといった論調に対して、当院は明確に真っ向から反対意見を表明します。

根拠のない政策を展開している政府など全く必要ありません。今本当に必要なのは、必要ない無駄な政策を全て中止することであり、それによる閉塞した社会の解放です。それができないうちは、我々一般市民の自由が剥奪されることはあれども、取り戻すことはできないでしょう。そもそも元々この日本において“自由”というものが存在しているのかという議論はさておき・・・。

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