「漢方医学」の考え方について1(facebookより転載 2019-6-23)

さて、当院は漢方煎じ薬(生薬を混ぜ合わせて煎じたもの)をベースに治療を組み立てておりますが、本日から何度かに分けて、この「漢方医学」の大まかな考え方についてお伝えしていこうと思います。

まず、最も大事なこととして、漢方医学では人間の身体は「陰」と「陽」の調和が取れていれば生理的に健康であり、逆にその過不足があると平衡状態が保てず、病的状態(陽虚、あるいは陰虚)に陥る、と考えます。
その陰・陽のバランス(虚実)をとるための生薬を混ぜ合わせて(組み合わせて)、体内のホメオスタシス(平衡状態)を保つ・回復させることを目的とするのが漢方医学の基本的な治療体系です。

次に大事なことは「気・血・水」という概念です。
今日はその中でも「気」という概念のみお伝えすることにしましょう。

私は「気」=「エネルギー」と考えると非常にわかりやすいと思っています。

例えば、江戸時代の学者・医者であった後藤昆山という人が、「病気とは”気”を病むことから始まる」ということを初めて唱えた説(これを”一気流帯説”という)がありますが、この説に従えば、「病気にならないためには常に気を全身にくまなく巡らすことが大切」であるということになります。すなわち、「エネルギーが全身の細胞に満ちていれば、病気にはならない」というわけですね。

この「気」という概念には、「先天の気」と「後天の気」という2つがあります。

前者は簡単に言えば、各人が産まれながらに備えているエネルギーの絶対量のことであり、”原気”ともいいます。これは東洋医学(漢方医学)で言うところの「腎」に蓄えられていると考えられており、これは本来的に生命が宿しているエネルギー代謝の”源(みなもと)”であるとイメージしていただければ良いと思います。

後者は主に生命活動に必要な体内でのエネルギー産生を指し示し、専ら東洋医学でいうところの「脾」と関係が深いと考えられています。この「脾」は摂取した食物の消化や吸収を行う役割を担っています。「脾」は食物中の栄養素を体内に取り込み、生命エネルギー(=ATP)を作り出すための、生命維持に必須のものと考えればわかりやすいでしょう。
また、「後天の気」は、「宗気」・「営気」・「衛気」に分類され、それぞれ「体内のエネルギー産生に必要な空気(=酸素)」・「体の成長や生命活動に必須の食物栄養」・「身体の防衛機能(=免疫)」を指すと考えれば良いでしょう。

さて、この「気」が異常になって起こる病態は、「気虚」・「気滞」・「気逆」の3つがあります。

「気虚」とはすなわち「気の不足」。
症状として、倦怠感・無気力・食欲不振・喜びの欠如・声や目に力がない、などが現れます。
「気滞」とはすなわち「気の停滞・循環不良」。
症状として、停滞した部位に苦しい感じや鈍痛が起きたり、抑うつ症状が出現します。
「気逆」とはすなわち「気の逆行・逆流」。
症状として、冷えやのぼせ・偏頭痛・動悸・しゃっくり・げっぷ・吐き気や嘔吐・下肢の冷えなどが出現します。

これらの治療に関してですが、「気虚」の気の不足を補う生薬を「補気薬」、「気滞」や「気逆」などの気の乱れや気の異常を改善する生薬を「理気薬」と言い、主に人参・黄耆(キバナオウギの根っこ)・桂枝・厚朴(ホウノキの樹皮)・竜骨(骨の化石)・紫蘇葉・牡蠣(カキの貝殻)・香附子(ハマスゲの根っこ)・柴胡・陳皮(温州みかんの皮)などが挙げられます。

ところで、先日クローン病の患者でまだ高校生の女の子がいらっしゃいました。
症状としては下痢や血便、痔瘻といった、クローン病や潰瘍性大腸炎などのIBD(炎症性腸疾患)によく認められるような典型的で派手な症状はほとんどないのですが、当院受診前から小腸の狭窄が何箇所か存在しており、おそらく通過障害によると思われる腹痛(激痛)が頻繁に起こる方でした。
診察中にも何度か激しい腹痛に見舞われ、息をこらえてうずくまっている患者の辛さと、その痛がって歯を食いしばっている娘の姿をただ見ているだけという両親のもどかしさが痛いほど伝わってきて、私も心が痛みました。

ただ、やはり腹痛が激しいせいで食事が足りていないせいか、その患者はもう高校生になったにも関わらず身体は痩せ細っており(身長は150cmほどで、体重が何と35kgしかない!)、目もうつろで抑鬱傾向、こちらの質問にもほとんどまともに答えられず、四肢の冷えもひどく、見るからに「気虚」・あるいは「気滞」があると思われる患者でした。

私はこのような「気」の異常がある患者は、もちろん病気自体による症状のせいで栄養が足りていないことも含めて、例外なく糖のエネルギー代謝がうまく回っていないことが状態をさらに悪くしていると考えています。

ですから、この患者にも漢方薬としては補気剤を処方した上で、こまめに糖質摂取(単糖類・二糖類)することを促し、ミトコンドリアでの糖のエネルギー代謝を高めるための方策を幾つかお伝えしました。
それで彼女の腸管の狭窄のある部分が完全に治るかどうかはやってみなければわかりませんが、まだ若い患者(=可塑性が高い)ですから、私は望みはあるのではないか、と思っています。

さて、次回は「血」について書いてみたいと思います。

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