「漢方医学」の考え方について2(facebookより転載 2019-6-26)

さて、先日漢方医学において重要な概念である「気・血・水」のうち、「気」についての記事を投稿いたしましたが、本日は「血」について書いてみたいと思います。

皆さんもご存知の通り、我々は血液という運搬媒体によって、水分・塩類(ミネラル)・糖質・アミノ酸・脂質・尿素といった栄養素や酸素・二酸化炭素といった血液ガスなどを全身に循環させ、組織で産生された老廃物を肝臓・腎臓などの臓器に運んで処理・排泄するということをしています。
つまり、血液の流れ(=血流)は生命維持のために必須のものであり、この血液の流れが滞れば病気になる、ということは想像に難くないでしょう。
例えば、もし脳でたった2〜3分程度でも血流不足が起こり、脳組織でのエネルギー産生に必要な栄養(=グルコース)が提供できない状況になれば、脳細胞は死滅し始め、生命維持ができない状況に陥り始めます。

漢方医学ではこのような生命維持に必須の血流のことを「血の道」と呼び、血流障害のことを「血の道症」と呼んでいます。「血の道症」には、以下の3種類の病態概念が存在しています。

・「血虚」=血液量の不足
・「瘀血(おけつ)」=血流障害、うっ血、微小血管不全
・「血滞」=血液の流れが悪くなり、体の一部に停滞した状態

この「血」は「気」と裏と表(すなわち陰と陽)の関係にあり、「気が動けば血が動く」とされています。つまり、身体の「気(=エネルギー代謝)」がうまく回っていさえすれば、「血(=血流)」もうまく全身を循環できるようになる、ということです。

ちなみに「血の道症」は、漢方医学においては最も重要な病理(病因)とされており、「血の道症」に関わるとされる上記の3つの病態概念の中でも最も臨床的に頻度が高く、重要視されているのが「瘀血(=血流障害)」です。この「瘀血」の症状を古血(毒に近い)が停滞したものと考え、多血症のようなものを「血実」、貧血状のものを「血虚」と分類します。

この「瘀血」の代表的症状には、

皮膚・粘膜・爪が暗赤色になる、出血班(あざ)ができやすくなる、月経異常(月経困難症、月経過多)、頭痛・肩こり・不眠(or 傾眠)・健忘・めまい、冷え・のぼせ・ほてり・動悸・気の変調(自律神経失調)、食欲不振・腹部膨満・便秘
などがあります。

これらの症状・病気に共通することとして、背景に「瘀血」の兆候が顕著に認められ、「駆瘀血剤」で改善されることが多いという特徴があります。

では、「瘀血」はどのようなことが原因で起こるのか??

1つ目は静脈血の鬱滞・血流障害です。全身の血流がスムーズに流れていても、静脈側は静脈圧が低い(12mmHg以下)ために、血液が滞りやすくなっており、瘀血が極めて起こりやすい状態になっていると言えます。
2つ目は肝臓の働きが悪くなっていることが挙げられます。肝臓が門脈を通じて消化管の血液を吸い上げることができなくなることにより、消化管の動きも悪くなって起こる諸症状は、漢方医学では「瘀血」の証と考えます。
3つ目は心臓の働きが悪くなっても血液の血流障害が全身に起こり、特に脚の浮腫みなどが起こりやすくなります。これも「瘀血」の証であると考えます。

「瘀血」を解消する効果のある生薬としては、
桃仁(モモの種子)、牡丹皮、芍薬(シャクヤクの肥大根)、当帰(トウキの根)、川芎(センキュウの根茎)、地黄(アカヤジオウの根)、阿膠(ゼラチン)、酸棗仁(サネブトナツメの種子)などがあります。

先日、下肢静脈血栓症の患者が来院されました。
このような患者は、上記の通り漢方医学的には下肢の静脈鬱滞による瘀血があると判断します。
所見としては静脈実証(陽証)の患者だったので、桂枝茯苓丸で経過を見てもらうことにしました。
また、私は「血」は「気」と密接な関係があることから、いわゆる「瘀血」のある患者は確実にエネルギー代謝異常があると考えています。
ですからこの患者にも糖代謝を高める方策をお伝えし、経過をみてもらうことにしました。

「気」・「血」・「水」のバランスを保ち、自己治癒力を高める漢方治療と、糖のエネルギー代謝を高めるためのライフスタイルを整える治療戦略によって、より確実な根本治療を目指せるのではないかと私は考えています。

これからもそのための情報提供をしていけるクリニックとして発展していければ、と考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!!

 

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