住環境について パート1(2020年9月23日のtwitterより転載)

当院では、「衣食住」を含めた生活習慣や生活環境、すなわちライフスタイル全般を整えていくことが慢性疾患の根本治療においては何より重要であるということを述べてきました。その中で、今回は「住環境」のことについて触れておきたいと思います。

住宅環境先進国であるドイツでは、「baubiology(バウビオロギー)」という学問が盛んに研究されています。この学問は「建築生態学」とでも訳されるもので、バウビオロギーのパイオニア的存在のアントン・シュナイダー氏は、バウビオロギーを「住環境と人間との全体的関係性についての学問」と定義しています。「バウビオロギー」は、人間本性と自然が交錯するなかで、健康や環境に配慮した住まいづくりを提唱しています。ですから、建築のデザイン、美学的な視点のみならず、生物学的な視点を重視しています。

バウビオロギーは、人間という生命体(肉体+魂+精神)が、住環境や地域環境(コミュニティー)といった外界によってどれほどの影響を受けているのかについて調べる学問でもあります。「バウビオロギー」の真の目的は、人間の健康に悪影響を与えるリスク要因をできる限り減少させ、健康な住まい、健康な生活環境にしていくことによって、本来あるべき健康な状態を取り戻すことです。もし住んでいる場所が病んでいれば、そこに住む人も病気になる。それは当たり前の話です。ですから、本当に根本治療をしたいと思うなら、住環境の改善は必須です。より少ないアレルゲン(ダニ・カビ・ハウスダストなど)、より少ない化学物質(VOC)、より少ない電磁波、より少ない放射能、より少ない騒音などをこころがけることが重要です。ちなみに、バウビオロギーでは、健康な住まいを考えるうえで、「温熱環境」、「湿度環境」、「空気環境」、「電磁波環境」の4つを重要視しています。これらすべてが調和して一定の環境に保たれていることが重要だとされているのです。

残念ながら今の日本の建築業界では、このような住環境の質を決める要素において重要とされている項目がほとんど考慮されておらず、我々一般の住宅ユーザーも見た目のデザインや設備にばかり目を向けていることがほとんどです。家の性能面で考えても、先進国中最低の基準でしか家づくりがされていません。例えば「温熱環境」について申しますと、WHOが2018年に発表した「住宅と健康についてのガイドライン」では「室内温度環境は常に18℃~24℃に保っておくのが良い」とされており、諸外国ではそのような基準を守る高性能な家づくりが積極的にされています。翻って日本ではどうでしょうか。実は日本では、先進諸国では当たり前の、家の性能を明確化するための「省エネ基準の義務化」すらされていません。2019年に義務化について政府内で議論されはしたものの、結局義務化は見送りになりました。つまり、日本は「20年前の基準すら満たしていない建物を建てても問題ない」と国が暗に認めているほどの住宅後進国家なのです。

しかし、大半の人がそのような性能の悪い家に住んでいるという自覚がないために、住宅業界も変わるそぶりをほとんど見せません。実際に皆さんがお住まいの家の環境はどうでしょうか?夏になるとガンガンに冷房を効かさないと室内気温は常に30℃以上、直射日光の当たる2階や3階にある部屋だと40℃近くいくことも珍しくないのではないでしょうか?

逆に冬になるとガンガンに暖房を効かせている部屋から仕切られている別の部屋に入ると、気温差が10℃以上もあり、寒くて長居していられない。真冬は寒くて風呂にも入りたくない。朝布団から一歩でも出ると寒くてなかなかベッドから起き上がれないという人が大半ではないでしょうか?
そんな犬や猫でも住むのを嫌がりそうな住環境(つまり住宅ではなく、獣宅)に住まわされているのが日本の現状なのです。さらに湿度環境も最悪、電磁波対策もされていない、防音も全くなし。そんな住環境で健康を保てる方がよほど難しいのではないかと思ってしまいます。

最近「ヒートショック」という言葉が住宅業界からよく言われるようになりました。それは冬寒い日に血管が収縮している時に暖かい風呂に入ると、収縮していた血管が急に拡張して、ショック状態になり、血流が脳にまで回らなくなって意識を失い、風呂場でそのまま倒れて帰らぬ人となる・・・というようなことを表す言葉です。実際に医学的に「ヒートショック」という病態が定義されているわけではなくそのメカニズムなどもよくわかっていないようですが、実際に室内の気温の寒暖差が健康に悪影響を及ぼすというデータが示されています。

ですからそのようなことからも、本当は住環境内の温度差はできるだけなくした方がよいのです。エアコンが効いている部屋だけが暖かい(あるいは涼しい)というような住環境で暮らしている人は、そうでない人に比べて常に不健康になるリスクを抱えているのだということを知っておいてください。

温熱環境だけでなく、湿度も重要です。先ほど述べたWHOの「住まいと健康に関するガイドライン(2018)」では、温度環境のみならず湿度環境についても言及されており、「住宅における湿度は相対湿度で40%~60%台に保つのが良い」ということが勧告されています。さて、このよう湿度環境を一定に保てている住宅が、日本全国で一体どれほど存在しているでしょうか。実際には、相対湿度で言うと、夏は80%以上になり冬は20%以下になるのが当たり前というような住環境に住んでいる人がほとんどでしょう。そんなひどい湿度環境で過ごしていること自体が不健康への第一歩なのだということをぜひ知っておいてほしいと思います。

では、電磁波環境についてはどうでしょうか。実はこれも日本の住宅ではほとんど何の対策も取られていないと言っても過言ではありません。今でこそ、水回りの周辺のコンセントはアースがされていますが、それはあくまでも感電予防のためであり、電気配線や家電製品から発生する電場の影響をシャットアウトするためではありません。そもそも、住宅内で最も我々が電磁波(電場)の影響を受けるのは、「電気配線」です。今では一般的な広さの住宅でも、1000m近い電気配線が必要になっており、家の壁内や2階床下に密に電気配線が張り巡らされています。このような、常に壁や床下の電気配線から生じる電場をもろに被爆する状態で、寝室や子供部屋で安眠することが果たしてできるでしょうか?電場は細胞レベルで影響を及ぼしますから、短期的にはその影響がわからなくても、長期的に健康被害に結びつくことが様々な研究から明らかになっています。何も考えずに壁内や床下に張り巡らされた電気配線計画のままで、寝室や子供部屋やその他長居する居室にばらまかれている電磁波の影響を受け続けている人は、そうでない人に比べて将来的に不健康になるリスクを背負っているのだ、ということをぜひ知ってほしいと思います。

また、無線LANやWi-Fi、Bluetoothなども人体に少なからず影響を及ぼすことも様々な基礎研究や動物実験などからも明らかになってきています。実際にこれら一つ一つの影響は非常に少ないかもしれませんが、現在あらゆる家庭に無線LANが設置され、あるいは個人が所持するスマホ・パソコン・テレビ・その他電化製品などからBluetoothでデータ通信が直接できるようになっており、また今後5Gも導入され100mごとに基地局が設置されることになれば、家の中にいても外にいても、どこで何をしていても常にこのような電磁波に暴露され続ける、ということになりかねません。そうなれば一つ一つの影響は微弱でも、「チリも積もれば山となる」という言葉通り、複合汚染の結果として誰もが身体を悪くしていくことになっていくのではないかと私は考えています。

最後に、住環境の重要な要素として揮発性化学汚染物質(VOC)について簡単に述べておきたいと思います。皆さんは「シックハウス症候群」という言葉を一度はどこかで聞いたことがあるでしょう。これは、住居内での室内空気汚染化学物質に由来する様々な健康障害が現れることを指す言葉です。高度経済成長期以降に、「新建材」と呼ばれる様々な化学物質を含んだ建材を多く用いたことにより、室内空気がホルムアルデヒドを代表とする化学物質などに汚染され、そこに住む人の健康に悪影響を与えてしまうということがわかってきました。ホルムアルデヒドとは沸点が低く、常温でも気化する無色の刺激臭のある水溶性液体の化学物質です。目や喉への刺激だけでなく、喘息・アレルギー・ガンとの関連も指摘されている非常に危険な物質です。そこで政府は2003年の建築基準法改正時に、いわゆる「シックハウス症候群」と呼ばれる、様々なVOC(揮発性化学物質)によって引き起こされる症状・疾患に対応するために、ホルムアルデヒドなどのVOCを代表する人体にとって有害性が証明されている化学物質の住宅建材への使用を規制し始めました。この法律に基づき、日本規格協会(JSA)が定めるJIS規格を遵守する工場(=JIS工場)で生産されるJIS製品に対して、ホルムアルデヒド等級規格が定められるようになりました。例えば「F☆☆☆☆(エフフォースターと呼ぶ)」と表示されている建材や内装材はホルムアルデヒドの使用量が最も低く、現在の建築基準法によって住宅建材としての使用量が制限されない規格となっています。

逆に、「F☆☆☆(エフスリースター)や、「F☆☆(エフツースター)になると、住宅建材として使用する際に、条件付きの使用や使用量の制限があり、「F☆(エフワンスター)」のものになると、内装材としての使用が禁止されています。ただし、「F☆☆☆☆(エフフォースター、ホルムアルデヒド濃度が5µg/㎡/h以下)」の建材・資材であったとしても、決してホルムアルデヒドの使用量がゼロではないということです。つまり、このような建築基準法で規制されている建築資材を使用したとしても、人体に有害性のあるVOC(揮発性化学物質)の使用量がゼロというわけではなく、もちろんホルムアルデヒドのような有害化学物質が一切使用されていない建築資材(無垢材など)を使用した方が安全だということは理解しておくべきでしょう(当然その分建築コストはかかる)。

ちなみに、湿度や温度が高くなればなるほど、(VOCを含有した建築資材が使用されている場合に)室内のVOC濃度が高くなることが示されており、やはり健康的な住宅を造ろうと思うならば、まずは室内の温度・湿度環境を一定に保つための住宅性能は必須だということが言えるでしょう。

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