動脈硬化の予防と「コレステロール仮説」について3(facebookより転載 2019-11-18)

さて、先日は飽和脂肪酸の特徴についてお話しましたが、今回は「コレステロール仮説」という現代医療における一つのパラダイムとなっている仮説が誕生した歴史(成立過程)をみていきたいと思います。

何事も歴史的な事実を知っておくことは、知的戦闘能力を高める上で重要です。特に「コレステロール仮説」のような、完全に誤ったパラダイムがなぜここまで蔓延ることになったのか、ということに関して、その歴史的な経緯を知っておけば、具体的に歴史上のどの成立過程で誤っているのかを指摘できるようになるので、とても役に立ちます。

それでは以下に「コレステロール仮説」誕生の歴史的秘話を述べてまいりますので、ぜひご一読ください!!

「コレステロール仮説」という”神話“の誕生

● アニチコフの動脈硬化症モデル

 コレステロールが心筋梗塞の原因とする「コレステロール仮説」が生まれるに至った歴史を振り返ってみましょう。実は、「コレステロール仮説」には、100年以上の歴史があります。「コレステロール仮説」にまつわるコレステロール研究の発端として、第一次世界大戦以前(20世紀初頭)のロシア人病理学者であったニコライ・アニチコフの研究がまず挙げられるでしょう。実はすでに1840年代には、動脈硬化を起こした血管にコレステロールが存在することが判明していました。1913年に、アニチコフはウサギを使って、粥状動脈硬化症(動脈の内径を細める動脈病変)の実験モデルを作成しました。このウサギはコレステロールがリッチな脂肪食を大量に与えられていました。アニチコフはこの哀れな実験動物を解剖して、動脈壁にかなりの量の脂肪が蓄積していることを証明し、同時に多くの臓器、特に肝臓に脂肪が蓄積していたことも明らかにしました。しかしながら、考えてみればすぐにわかることですが、自然な状態ではウサギは本来草食動物であり、この実験のように異常に大量の脂肪を食べることはなく、動脈壁どころか全身の臓器に脂肪が蓄積して梗塞を起こす、などということはそもそも考えられない話です。つまり、アニチコフが行なった実験は、極めて不自然な条件下での話であり、それは我々医師が日常的に診ている患者に起こっていることとは何ら関係のないことです。しかも我々はウサギではなく、人間です。ですから、「心臓病のウサギ」は人間に起こる動脈疾患を理解するにはあまりに不適切で不自然な実験モデルであり、アニチコフの観察結果だけでは、コレステロールと疾患の関係性について何も語ることはできません。その点では彼の実験は架空の世界での物語(ファンタジー)であり、現実世界に生きる我々にとっては全く無意味で、不毛な実験であったと言わざるを得ません(今でもこのように無意味な動物実験が世界中で行われている)。ですから、このアニチコフの観察結果は、当初(20世紀前半)は医学者たちにはなんの関心も引き起こしませんでした。そしてアニチコフの発見から約半世紀の間、こうしたコレステロール研究(特に動物実験での研究)は全く注目されていませんでしたが、第二次大戦後に転機が訪れます。

● アンセル・キーズの物語

 第二次大戦後の1950年頃から医学界でもコレステロールが注目され始めることになりますが、これは先のアニチコフの動物実験の結果などではなく、科学的・技術的な進歩の結果、特に人口統計学と疫学の発展の結果でした(もちろん軍事活動の副産物)。また、当時の米国は心血管疾患激増に悩まされており、「国家的大災害」と叫ばれていたため、戦後の好戦的な機運と相まって、この真犯人を突き止めることは国家的急務でした。その矢面に立たされたのがまさに”コレステロール“であったということです。さらに、1930年代には採血と簡単な検査技術が導入され、コレステロールを迅速に分析する方法が開発されたこともコレステロールを犯人とするのに重要な役割を果たしました。そして、ついにコレステロールが心血管疾患の真犯人であるという20世紀最大級の捏造工作を行なった人物こそ、米国の生理学者であったアンセル・キーズ(1904-2004)という人でした。
 キーズは1940年代からコレステロール撲滅運動を開始しましたが、彼は「血中コレステロール値を高めるのは、コレステロール自身ではなく、動物性脂肪である」という見解を持っていたため、彼の激しい攻撃はコレステロールよりも動物性脂肪(=飽和脂肪酸)に向けられていました。一方で、植物性脂肪(不飽和脂肪酸)はコレステロール値を下げるという、いわゆる「コレステロール仮説」そのままの見解をキーズは当初から持っていたわけです。そして彼は、1955年に大規模な(国際的な)疫学研究を開始しました。いわゆる「7カ国スタディ(Seven Countries Study)」と呼ばれる有名な観察研究です(Ancel Keys, Commonwealth Fund Publications.1980)。彼はこの研究を実施するにあたって、米国公衆衛生局から年間20万ドルの研究助成金を受け取ることになっていました。当時としてはかなり高額ですし、臨床試験ではない医学研究にそれだけ莫大な予算が注ぎ込まれたことも特筆すべき点です。実は彼はこの実験が実施される前に、戦時中にミネソタ大学生理学研究所の監督をしていただけではなく、1941年からは米国国務長官特別補佐官にも就任しており、陸軍と協力して「Kレーション」という戦闘中の軍隊の食糧を開発したことで一躍有名になっていました。またキーズは、ミネソタ大学で1944年に実施された「ミネソタ飢餓実験(Minnesota Starvation Experiment)」という戦争による飢餓犠牲者に対する救済援助の指針作成を目的とした著名な臨床研究の主任研究員も務めており、米国の軍事戦略と一体化する形で自身の研究を押し進めた人物でした。話が少し脇に逸れましたが、このように戦時中に軍隊と深く関係を持っていた人物や組織は戦後も重宝されるものなのです。

● 教祖となったアンセル・キーズ 

 さて、本題である「7カ国スタディ」の第一の目的は、世界7カ国(米国、フィンランド、オランダ、イタリア、ギリシャ、ユーゴスラビア、日本)で、食生活と心筋梗塞の発症を助長する可能性のある因子(特にコレステロール・血圧・体重・喫煙)を分析することでした。第二の目的は、7カ国の国民を代表する少人数のコホート(経過観察の対象となる集団)を何年もの間観察し、最初に登録されていた諸因子が心疾患を予測できるかを検証することでした。この研究の主な結果は1970年から1985年の15年間で公表され、続く20年間の経過観察が行われました(Acta Med Scand.1966;460:1-392, Circulatio-n.1970;41:1-195, Am J Clin Nutr.1989;49:889-894, Prev Med.1995;-24:308-315, Arch Intern Med.1999;159:733-740, N Engl J Med.2000;342:1-8)。
 「7カ国スタディ」の結果としては、食生活・血圧・喫煙が心臓病の主な危険因子であることが示されました。一方でコレステロールに関しては、米国とフィンランド以外はコレステロールと心疾患による死亡率の関連性が認められませんでした。コレステロールについては、このような曖昧なデータであったにも関わらず、キーズは「コレステロール値により梗塞のリスクが予測できる(高ければリスクが上がる)」、「飽和脂肪摂取によりコレステロール値が決定できる(摂取量が多ければコレステロールは上がる)」、「不飽和脂肪酸摂取により梗塞のリスクを低減できる」という結論を導き出しました。これは完全に「コレステロール仮説」に従った結論ありきだったとしか思えない暴論です。しかも、結果にバイアスがかかっていたのみならず、この研究にはもう一つさらに大きな問題がありました。それは、キーズは22カ国のデータ収集を行っていたにも関わらず、「飽和脂肪酸悪玉説」や「コレステロール仮説」に合致するような都合の良いデータが取れた7カ国のデータのみを収集していたことです。もしキーズが無作為に国を選んでいたら、結果は真逆になっていたかもしれません。しかし、結局この「7カ国スタディ」という大規模な観察研究は、当初から様々な批判の声が上がっていたにも関わらず、その後はコレステロールの有罪性を確定させた研究として引用されるようになりました。以降キーズは、「コレステロール仮説」を信じる人々にとって教祖のような存在となり、「血中コレステロール値を高める動物性脂肪(=飽和脂肪酸)は梗塞の原因となる」という”神話“=「コレステロール仮説」が誕生したわけです。

以上が「コレステロール仮説」誕生の歴史になります。

この仮説めぐる成立過程をみても、アンセル・キーズと米国による「国家ぐるみの陰謀」とまでは言いませんが、「コレステロール仮説」がいかに欺瞞に満ちたものであったかということがわかっていただけると思います。

ちなみに、コレステロール仮説が真実であると信じて疑わない人たちは、このような話をほとんど何も知りません。外来に受診した患者を診察し、検査で脂質異常症と診断し、栄養指導や投薬治療を行なっている医師や管理栄養士などの専門家たちも、そのほとんどの方々が、これまで自分たちが習ってきた「コレステロール仮説」を盲目的に信じ込んでいるだけです。そして、その「コレステロール仮説」のどこがどのように問題なのか、などを批判的に考えたこともなく、いわば思考停止しているのです。

我々は、このような神話(ファンタジー)である「コレステロール仮説」を信じる人たちを”専門家”と呼んでいるのです。

皆さんは、このような人々に治療を任せたいと思われますでしょうか?

当院では、どんな些細なことでも必ず自分で調べ、「知ろうとする努力」を怠らないことこそが、自分たちの健康を守っていく上で最重要なことと考えています。当院が発信する情報が、このような「知ろうとする努力」を怠らない方々にとって、少しでもお役に立てれば、と考えています。

それでは次回は「悪玉と善玉のコレステロール」について述べていきたいと思います。

乞うご期待!!

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