放射線・放射能について(2021年3月12日のtwitterより転載)

昨日は東日本大震災の10年目となる日でしたので、原発のことや低線量放射線被曝のことを書こうと思いましたが、私用で時間がなく全く書けませんでした。今後しばらくはそれらをテーマに徐々に書いていきたいと思います。これからしばらくの間は低線量放射線被曝、特に「内部被曝」のことについて取り上げてみたいと思いますが、その前に放射線被曝について知っておくべき基本的なことを述べていこうと思いますので、勉強するつもりでご確認ください。

まず「放射線」というのは、「運動エネルギーを持って空間を高速で飛び回っている微小な素粒子」のことで、主にα(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線、中性子線などに分けられます。

https://twitter.com/matsumotoclinic/status/1370256143960969216/photo/1

このあたりの話をするとややこしくなってしまわざるを得ないのですが、放射線は「光」と「粒子」の性質を持っています。例えば、医療用に用いられる放射線としてよく知られているγ線やX線は、「光」の性質を持っていて、電磁波の一種ですが、これらが人体などに作用するときには粒子として作用します。次に、「放射能」というのは「放射線を出す能力」という意味であり、「放射能」のある放射性元素は、不安定な原子核が放射線を出しながら崩壊して別の原子核に変わっていく性質を持っています。ですから、放射能の強さは1秒間あたり何個原子核が壊れるかで表されます(単位については後述)。

放射線がどのような影響を人体に与えるかは、放射性粒子が人体に存在する様々な物質とどのように関わるかに依存します。そして、あらゆる物質は原子からなる分子や化合物によってできています。例えば水は、水素原子2個と酸素原子1個でできた水分子により構成されています。水分子は、酸素から2つの腕が出ていて、それぞれに水素がついている形になっていますが、この腕は「化学結合」と呼ばれ、それぞれ水素から1電子、酸素から1電子が糊のような役目をして繋がっています。分子は何らかの方法でこの化学結合が切られると、崩壊してしまいます(形が崩れる)。この「分子」を構成している「原子」は、重くて非常に小さい「原子核」の周りを、「電子」という軽い小さな粒子が取り囲んで、軌道に乗って回っています。最も軽い水素原子を除いて、原子核は通常「陽子」と「中性子」という、重さがほとんど同じ粒子が密に非常に強い力で結びついています。つまり、「原子核=陽子+中性子」です。ある原子の体内での振る舞いは、原子核の中の陽子の数によって決まってきます。陽子の数が同じものは同じ元素に属するのですが、陽子の数は同じでも中性子の数が異なるものがあり、これを「同位体(アイソトープ)」と呼びます。ややこしいですね。

同位体どうしの化学的な性質・挙動は同じなのですが、その原子核は同じようには振る舞わないことがあります。例えば、セシウムで言うと、陽子数は55個と決まっていますが、中性子の数が異なる同位体が存在します。そのうち中性子数が78のものをセシウム133と呼び、これは化学的に安定しています。しかし、セシウムの中性子数が78より多い同位体であるセシウム134、135、137などでは、同じ化学的性質を示しますが、原子核が不安定なために、自然界にはいられません。すぐに変化してもっと安定なものになろうとします。これを「放射性同位体の崩壊」と言い、崩壊過程で放射性粒子を放出します。不安定な同位体はそれぞれ固有の速度で自然に崩壊していきます(同位体が放射性粒子を放出して崩壊し、半分の量になることを”半減期”と言う)。

この崩壊プロセスを我々人類は全く変えることはできません。そしてこのとき放出される放射性粒子が極めて大きなエネルギーを持っています。この放射性同位体元素が放出する高エネルギーの放射性粒子こそが、細胞・分子レベルで人体に影響を与える最も大きな存在であり、放射能の恐ろしさの根本問題です。生体内での化学反応に要するエネルギーは大きくても100電子ボルト(eV)程度ですが、放射性粒子1個が有するエネルギーは20keV〜5MeVほど(多くは1MeV)もあるのです。すなわち、放射性粒子は、1つだけでも普通の化学反応の200倍〜50000倍もの極めて大きなエネルギーを持っているということなのです。ここまででも何となく放射能の恐ろしさが少しはわかっていただけたと思いますが、放射性粒子の持つ大きなエネルギーは、その粒子の速度に反映しています(運動エネルギー)。多くの場合放出された放射性粒子は光の速度に近く、例えば典型的なα線は光の10分の1の速度、γ線は光速そのものです。これほどのエネルギーを持つ放射性粒子が外から侵入して体内の分子にぶつかったらどうなるか?当たった分子内の原子どうしを結びつける役割をしている電子が即座に蹴り出され、化学結合がぶった切られて分子構造が変化し破壊されます。しかし、これはあくまでも外部からの侵入(外部被曝)の場合です。

では、これらの放射性粒子を放出する放射性物質が体内に入ってきた(内部被曝の)場合、どうなるでしょうか。放射性粒子が放射性物質から出続ける限り、周囲(近く)にある分子が片端から攻撃され破壊されていくことがお分かりいただけるでしょうか。ここで注意するべきこととして、あくまでも放射性粒子は特定の分子を狙い撃ちして攻撃するわけではないということです。体内に多く存在している水分子も、炭水化物も脂肪もタンパク質もDNAも、あらゆる組織・細胞を構成している生体分子が放射性物質の攻撃対象になるということなのです。つまり、放射性粒子は誰彼構わず無差別に攻撃するコントロール不能のバケモノ=「ハルク」のような存在であり、この放射性粒子による無差別攻撃から身を守る手立てなど一切存在せず、身代わりを用意しない限り攻撃を受けたら終わりということです。

さらに厄介なこととして、放射線によって体内にある水が破壊されると、ヒドロキシラジカルなどの「フリーラジカル」が産生され、それが間接的にタンパク質や脂質(特に不飽和脂肪酸)、DNAなどを攻撃することがあります。DNAにはある程度の修復機構は働いていますが、それすらも限界があります。タンパク質や脂質が破壊されてしまった場合には、生命場を綺麗にする掃除役として働く貪食細胞や細胞の中にある消化酵素などの働きである程度は細胞レベルで修復される可能性はありますが、一度破壊されてしまった分子は元に戻りません。これこそ放射能が生命と相容れない最大の理由です。

次に、放射能や被曝線量を表す「ベクレル(Bq)」、被曝線量である「グレイ(Gy)」、等量被曝線量を表す「シーベルト(Sv)」といった単位の意味について見ていきましょう。

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h30kisoshiryo/attach/h30kiso-slide02-03.pdf

ベクレル(Bq)は、ある放射性物質の毎秒の崩壊数のことです。通常は毎秒出てくる放射性粒子の数であると考えて良いでしょう。ベクレル値は、主に放射能による汚染度を表現するために用いられます。例えば食材の汚染度は[Bq/kg]、土壌の汚染度は[Bq/kg]や[Bq/㎡]と表されます。

グレイ(Gy)は、放射線が当たった物質や人体へのインパクト(=被曝線量)の単位です。これは、1 kgの物質にどのくらいのエネルギーが放射線によってもたらされたかを表します。1 Gyは、1 [J/kg]と定義されています。すなわち、これは放射線が1[J]のエネルギーを1 [kg]の物質に与えたという意味です。

シーベルト(Sv)は、物体が主体である場合に、放射線の種類によって影響の受け方が異なるために、等価線量という概念から生まれた単位であり、「シーベルト=Q × グレイ」です。そして、Q値はβ線・γ線では“1”ですが、α線では“20”と定義されています。https://env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-02-03-04.html

例えばα線の場合、生体に1[J]のエネルギーを及ぼしたとして、1グレイは20シーベルトとなります。一方、β線やγ線では、1グレイのエネルギーを生体に及ぼした時にはそれぞれ1シーベルトとみなされます。ちなみに、10シーベルト以上の被曝量は、ほとんど即死を意味します。10シーベルトというと、被曝がγ線によるものだとした場合、10[J/kg]のエネルギーが与えられたに過ぎません。しかしたったそれだけのエネルギーでも、放射性粒子で考えた場合細胞1個あたり数百個もの放射性粒子が当たったことになります。このように、大したことのないエネルギー量に思えても、多くの放射性粒子にぶつかった場合、多くの細胞内の多くの分子が破壊されることになるのです。10シーベルト被曝しただけで細胞や組織や臓器はすぐに壊死してしまいますが、外見上はその影響はほとんどわかりません。

実際には放射線は皮膚を通過しており、その皮膚細胞すらも損傷しているはずですが、損傷の程度は皮膚の見かけの構造まで変える程度ではないからです。しかし、内臓期間は損傷の影響を受けやすく、瞬く間に多臓器臓器不全で死に至ってしまうのが放射線被曝の恐ろしいところです。

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