病院・施設の面会制限について当院の見解

2025年5月24日に同志社大学今出川キャンパスで行われたシンポジウム「病院・施設の面会制限を考える」では、登壇者の方々が様々な角度から面会制限について議論されていました。

SNSでも面会制限については、行き過ぎたコロナ対策としても話題になって久しいですが、当院ではこれまであまりこの話題に関しては扱ってきませんでした。

今回は、この病院・施設の面会制限について、当院としての見解を以下でお示ししておこうと思います。

2020年1月末にWHOが世界に向けて発したパンデミック宣言以降、感染拡大を阻止すべく、医療機関における訪問者の数と訪問期間を厳格に制限することが推奨されることになり、日本を含めた多くの国で病院や介護施設での面会制限が導入され始めました。

今では日本以外の海外の医療機関では、面会制限をしているところはほとんどありません。

むしろ、面会は患者さんの回復にもつながるケアの一つであり、治癒プロセスにとって面会は重要であるという認識をしているところさえあり、それを病院のHPにも掲載しているほどです(コロナ後の医療・福祉・社会を考えるHP参照)。

https://www.postcovisit.com/188cd9581d2680b9a73ff77b433fe43b

では、今でも続いている日本の病院や施設における面会制限を正当化できる理由や根拠というものは何かあるのでしょうか??

過去の病院の面会制限について調べてみると、19世紀初頭に本格的に病院が設立されるようになった頃から存在しており、その目的は患者と家族の双方に対する感染拡散防止目的のみならず、お互いのストレスから保護する目的でも活用されてきました[1]。

面会制限に関する過去の研究では、実際に小児病院での冬季の訪問制限は、制限がない場合と比較して呼吸器ウイルス(SARS-CoV-2に特化しない)の院内伝播を減少させたことが論文報告されています[2]。また、他の研究では、年間を通じて訪問・面会制限を実施した際に、医療関連呼吸器ウイルス感染症の有意な減少を認めたことが報告されています[3]。

しかし、今日では患者さんとその家族との関係性や、患者さんにとっての家族の役割は、看護や介護からしても重要な要素の一つと考えられており[4]、家族や親しい友人による面会は、患者さんにとって様々な良い影響を与えることがわかっています[5,6]。

逆に、2021年に報告された面会制限に関するレビュー論文では、COVID-19パンデミック中に実施された訪問・面会制限が、患者や家族双方に複数の負の影響をもたらしたことが示されました[7]。

まず面会制限が患者さん自身に与える悪影響として、栄養状態悪化、ADL低下、疼痛などの症状増悪、孤独感や抑うつ症状、認知機能低下などにつながることが示されました。

患者家族に対する悪影響としては、面会制限が強い不安やストレスを与えることがわかりました。また、小児の場合は互いの愛着形成阻害につながることが示されました。さらに、患者さんの死亡・離別時の立ち会い制限が、患者家族の悲嘆を長期化させるリスクがあることもわかりました。

そしてこの論文では、面会制限が患者さんやその家族に対して悪影響があるのみならず、医療従事者にも負の影響を与えることがわかりました。具体的には、COVID-19パンデミックにより、その予防に失敗したり、道徳的信念や期待に反する行為を選択したり目の当たりにせざるを得ないことによる心理的・社会的・情動的ストレスです。このような「道徳的損傷(moral injury)」は、医療従事者に罪悪感や無力感や不満足感をもたらし、医療へのモチベーションを下げ、意思決定や医療サービスの質の低下につながる可能性があるということが指摘されています[8]。

このように、面会制限には確かにCOVID-19を含めた感染症の拡大を防止する目的があり、感染予防措置という観点からは有効である可能性があります。しかし、紹介したレビュー論文からも明らかな通り、感染するリスクを恐れて面会制限を続けた場合、患者さんだけではなく患者家族や医療従事者に対してさえも悪影響を及ぼしてしまいます。

その結果、医療全体あるいは社会全体としてみた時には、その負の側面ばかりが目立ち、肝心の感染予防というプラスの効果が打ち消されるどころか、マイナスになる可能性すらあるということを、我々は肝に銘じておかねばなりません。

このことがエビデンスとしても示されているはずなのに、日本の病院や施設ではそれが全く共有されていないということに、日本社会の大きな問題があるように思います。

そのようなことを含めて、当院では当然ながら病院・施設の面会制限には反対の立場であるということを、ここで改めて書き添えておきたいと思います。

しかし、ここでは面会制限についてもっと深く考察してみましょう。

そもそも患者家族が患者さんに面会しに行くということは、当たり前ですが患者さんが病院や施設に入院・入所している状況が必要です。

では、例えば患者さんが病院に入院する時というのはどういう時でしょうか??

・交通事故に遭って骨折などの外傷を負ったとき

・急性期の感染症が重症化し入院加療が必要になったとき

・急性期の病気(脳卒中や心臓発作など)で入院加療が必要になったとき

・持病(精神疾患も含む)が悪化し、入院精査加療が必要になったとき

・がんやその他の疾患で外科的な治療が必要になったとき

・原因不明の病気(長引く発熱や採血の数値異常など)で精査が必要になったとき

・高齢者で、自宅で看取りができない場合

これ以外にもあるかもしれませんが、大体このような時でしょうか??

私はこのうち、上の三つは仕方ないと思います。誰もが生命に関わる場合や身体の機能維持ができなくなる場合などには急性期医療が絶対に必要です。

しかし、残りはどうでしょうか??

持病が悪化した場合、入院精査加療は必要と思われる方が多くいらっしゃると思いますが、当院では本当に重症と思われる症例以外は自宅で経過観察しても良いと思っていますし、当院の患者さんは実際にそう望まれる方がほとんどです。

がんやその他の疾患で外科的な治療が必要という時も、当院では「その手術は今すぐ本当にしなくてはならないのか?」ということを患者さんにもう一度考えてもらいます。それで患者さん自身が「何か他にできることがあるなら、それを試してからでも遅くはない」と思われるなら、延期するか中断しても良いと思います。もちろん患者さん自身が「すぐに手術したい」と思うなら、それを尊重するべきです(患者さんがしたくないと思っていても、すぐに手術した方が良いと思う場合もありますが・・・)。

原因不明の長引く発熱や貧血や腹痛・下痢などなど・・・。そのような場合には大きな病院で精査をしても良いとは思いますが、その場合は長期的な入院にはならないことがほとんどです。患者さん自身が納得した時点で退院しても良いでしょう(そもそも当院の患者さんは大きな病院にかかりたくないと言って来院する方が多いのですが・・・)。

高齢者で看取りが自宅でできないから入院させたいという症例は地味に多いと思います。実際にコロナ禍で自宅の看取りが増えたと言われていますが、それでも2022年の統計データでは病院で亡くなる人は64.5%です。これを多いと捉えるか少ないと捉えるかは人それぞれかも知れませんが、私はもっと家で亡くなる人が増えるべきだと思っています。

これに関しては、「家で死のう」の著者である萬田緑平先生も述べておられることですが、「その人の生き方が死に方にも現れる」ということだと思います。つまり、病院で死ぬ選択をする(せざるを得ない)人は、自分で死に方(=生き方)を選べていない人が多く、そもそも「家で死ぬ」という選択肢を持ち合わせていない場合が多いということです。そもそも認知症などで意思疎通が図れない場合は、患者さん本人の意思とは裏腹に、患者家族が入院させることを決定してしまうこともあるわけです(そのようなパターンは増加している)。

これらのことから私が何を言いたいのかというと、結局急性期疾患で本当に集中治療が必要で入院せざるを得ない人以外では、そもそも入院する必要がない場合や入院しないと本人が決められる場合も多々あるのではないかということです。

もしそれまでは入院の必要ありとされていた人の多くが、入院する必要がない、あるいは本人が入院したくないと希望すれば、入院したことによって遭遇する「面会制限」などという馬鹿馬鹿しい茶番に付き合う必要などそもそもなくなるわけです。

また、介護施設などの面会制限に関しても、面会制限を設けていない施設を希望することだってできるわけです(そのような施設は人気があってそもそも入所できないかも知れませんが)。

当院の患者さんのような、そもそも病気を自分で根本治療したいと思っている多くの人たちにとっては、病院に入院するということ自体が、本来どうしようもなくなった時に助けてもらう「最終手段」として捉えるべきことですから、安易に入院しようとは思わない人がほとんどでしょう。

つまり、そのような人たちにとっては、「面会制限」を無くした方が良いのは当然のことながら、その是非を問う議論自体があまり意味のないものであるように思えるのではないかと私は愚考しています。

そのような議論をする前に、そもそも入院が本当に必要か?という議論をすべきだし、自分が病気になった時にどうするのか?どのように考えてどのような治療を受けるべきなのか?入院しなければならない時はどのような時なのか?あるいは死ぬ間際になった時にどうすべきなのか?そもそもどのような施設や病院を選ぶべきなのか?

というようなことを、普段から一人一人が考えておくことが重要であろうと思います。

私は「面会制限」という問題も、結局は“病気”や“死”について、あるいは“生きること”について、一人一人が真剣に深く考えることを放棄してきたからこそ起こっている問題なのかも知れないと思います。

この問題を通して、医師や病院というもの、あるいはもっと大きく“医療”というもの自体の存在意義について、もっと深く真剣に考えてみるべきだと思います。

〈参考文献〉

[1] L. Smith, J. Medves, M.B. Harrison, J. Tranmer, B. Waytuck, The Impact of Hospital Visiting Hour Policies on Pediatric and Adult Patients and their Visitors, JBI Libr Syst Rev 7 (2009) 38-79. 10.11124/01938924-200907020-00001.

[2] H. Forkpa, A.H. Rupp, S.T. Shulman, S.J. Patel, E.L. Gray, X. Zheng, M. Bovee, L.K. Kociolek, Association Between Children’s Hospital Visitor Restrictions and Healthcare-Associated Viral Respiratory Infections: A Quasi-Experimental Study, J Pediatric Infect Dis Soc 9 (2020) 240-243. 10.1093/jpids/piz023.

[3] M. Washam, J. Woltmann, A. Ankrum, B. Connelly, Association of visitation policy and health care-acquired respiratory viral infections in hospitalized children, Am J Infect Control 46 (2018) 353-355. 10.1016/j.ajic.2017.09.007.

[4] J.E. Gaugler, Family involvement in residential long-term care: a synthesis and critical review, Aging Ment Health 9 (2005) 105-118. 10.1080/13607860412331310245.

[5] M.R. Gillick, The critical role of caregivers in achieving patient-centered care, Jama 310 (2013) 575-576. 10.1001/jama.2013.7310.

[6] D.B. Weinberg, R.W. Lusenhop, J.H. Gittell, C.M. Kautz, Coordination between formal providers and informal caregivers, Health Care Manage Rev 32 (2007) 140-149. 10.1097/01.HMR.0000267790.24933.4c.

[7] K. Hugelius, N. Harada, M. Marutani, Consequences of visiting restrictions during the COVID‐19 pandemic: An integrative review, International Journal of Nursing Studies 121 (2021) 104000. https://doi.org/10.1016/j.ijnurstu.2021.104000.

[8] J.H. Ruotsalainen, J.H. Verbeek, A. Mariné, C. Serra, Preventing occupational stress in healthcare workers, Cochrane Database Syst Rev 2015 (2015) Cd002892. 10.1002/14651858.CD002892.pub5.

 

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