「必須脂肪酸を切る」シリーズ パート11(facebookより転載 2020-1-29)

昨年末から書き連ねてきた「必須脂肪酸を切る」シリーズも、気がつけば投稿回数10回を超えてしまいました。

「コレステロール仮説・飽和脂肪酸悪玉説を切る」シリーズでもお伝えしてきたように、当院がここで公開している情報は、はっきり申し上げて現在の医学常識や健康常識に反することであり、普通の病院やクリニックでされている食事指導・栄養指導を真っ向から否定する内容になっております。

しかしながら、ここで公開している記事の内容は、過去の多数の原著論文から示唆されていることや、基礎医学・臨床医学(疫学)でわかってきたことを徹底的に調べて述べていることであって、決して個人の意見・見解を述べていたり、当院独自の考えをただ述べたてているわけではありません。

さて、今回は「膜リン脂質の過酸化反応」と、「鉄の危険性」についてです。

● 膜リン脂質中のプーファの過酸化反応

 先述の通り、生体内の多くの高度不飽和脂肪酸(プーファ)は、膜リン脂質に存在するため、生体内のリン脂質は脂質の過酸化反応を受けやすいと言えます。すなわち、リン脂質が豊富なミトコンドリアや小胞体などの膜レベルでの脂質過酸化反応は極めて起こりやすいと言えるでしょう(Fedn Proc.1973;32:1870, Ishiyaku-shuppan, Tokyo.1985;pp.116-122,)。それでは、実際の生体細胞膜上のリン脂質がどのように過酸化されていくか、についてみていきましょう。

 細胞膜上のリン脂質の過酸化経路は複雑であり、完全にはいまだに解明されていませんが、主に過酸化経路は2種類あると考えられています。まず一つ目の過酸化経路として、細胞膜リン脂質の構成成分である脂肪酸が多価不飽和脂肪酸(プーファ)であった場合、二重結合で挟まれたメチレン基(・・・−CH2=CH−CH−CH= CH2−・・・)の水素が引き抜かれ易く、ラジカル反応によりリン脂質ヒドロペルオキシド(PL-OOH)が形成されます。その後、ホスホリパーゼA2というリン脂質を分解する酵素の作用により、脂肪酸ヒドロペルオキシド(L-OOH)、すなわち過酸化プーファが生成・遊離されてくることになるわけです(J Pharmacol.1977;27:429-435, Lipids.1981;16:781-789, J Free Radic Biol Med.1985;1:263-271)。もう一つのリン脂質の過酸化経路として考えられているのが、過酸化反応の最初の段階でホスホリパーゼA2が活性化され、細胞膜のリン脂質を分解し、多価不飽和脂肪酸(プーファ)が遊離されるというプロセスです。この遊離脂肪酸(プーファ)に開始剤が働き、過酸化プーファ(LOOH)が生成されるというわけです。いずれの経路でもリン脂質に含まれているプーファが過酸化反応を受けて過酸化プーファ(LOOH)が生成されるという点においては共通しています。

 このうち、膜リン脂質の過酸化反応が起こったのちに、ホスホリパーゼA2が働いて過酸化プーファが生成される反応の方が起こりやすいと考えられています。膜リン脂質の多価不飽和脂肪酸(プーファ)が過酸化を受けると、-OOH基が生成されるため、脂肪酸鎖の疎水的結合は弱くなり膜のコンフォメーション(立体構造)が変化し、膜の流動性が増します。その結果、ホスホリパーゼA2が基質である膜リン脂質に接近し易くなり、過酸化されたプーファ(LOOH)が容易に膜リン脂質から切り離されることになります。遊離された過酸化プーファ(LOOH)は、グルタチオンやグルタチオンペルオキシダーゼなどにより脂質アルコール(LOH)まで分解されます(LOOH+2GSH → LOH+H2O+2GS +)。また、鉄や銅など遷移金属イオンが存在すると、容易に脂質ラジカルが生成され、新たな脂質過酸化反応の開始剤になり、ラジカル連鎖反応が進行し、危険なアルデヒド類も多量に生成されていくことになります。この点だけでも、いかにリン脂質に多く含まれるプーファが危険なことかがわかっていただけるでしょう。

 ところで、先述したように生体内では脂質ラジカルが比較的速やかに消去される機構が働いています。この反応には主に3種類の還元酵素が知られています。すなわち、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、そしてペルオキシレドキシンです(J Biol Chem.2000;275:28421-28427)。また膜レベルでの消去機構として、ビタミンEやユビキノンがあります。抗酸化酵素(SODやグルタチオンペルオキシダーゼ)の場合は、ラジカルの発生自体を抑制しますが、ビタミンEのような脂溶性化合物は、膜脂質で生じた脂質ラジカルを捕捉し、ラジカル連鎖反応を止める作用があると考えられています(Biochem Biophys Acta.1986;876:639-645)。実際に、小胞体やミトコンドリア、赤血球膜のようなプーファが豊富に含まれている膜が存在している分画において、脂質過酸化反応がスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase=SOD)によって抑制されることが示されています(Biochimie.1973;55:329, Biochem Biophys Res Commun.1972;48:789, FEBS Letters.1973;29:117, Biochem Biophys Res Commun.1972;49:150)。これらは、脂質ラジカル生成の初期段階に作用しているスーパーオキシドラジカルがSODなどの抗酸化酵素によって消去されるからであると考えられています。このように、膜リン脂質に含まれているプーファによって引き起こされるラジカル連鎖反応は、生体内の抗酸化物質などの防御機構によって抑制されています。

 しかしながら、この脂質過酸化反応とラジカル連鎖反応を抑制できないほどプーファが過剰に蓄積していると考えられる現代人の場合、プーファによって引き起こされたラジカル連鎖反応、あるいはプーファの過酸化から生成されたアルデヒド類が生体にとって極めて危険な存在になり、有害作用を及ぼすことは想像に難くないでしょう。これこそが、当院ではプーファがリッチな油脂をできるだけ摂取しないように指導している最も大きな理由です。

● 脂質過酸化反応の開始反応を引き起こす鉄イオン 〜鉄の摂取は危険!?〜

 生体内での脂質過酸化反応についてみてきましたが、実際に生体内の脂質過酸化反応の開始反応(initiation)はどのようにして引き起こされるのでしょうか?生体内脂質過酸化反応の開始にはいくつかの反応機構がこれまで示されてきましたが、鉄や銅などの微量の遷移金属イオンの役割が重要であると考えられてきました(Academic Press, New York.1982;p1)。特に、生体内に広く分布する遷移金属イオンは鉄イオンであるため、生体膜脂質過酸化反応においても鉄イオンの関与が大きいと考えられます(活性酸素.1988;蛋白質拡散酵素臨時増刊:3060)。実際の生体膜構造においても、正に荷電した鉄イオン(Fe2+or Fe3+)が負に荷電した膜リン脂質に結合し、その結合部位で脂質過酸化反応を引き起こすことがいくつかの実験からも示唆されています(Eur J Biochem.1983;137:119, Arch Biochem Biophys.1988;260:146)。

 実際の反応経路についてみていきましょう。鉄などの遷移金属が介在する開始反応として重要なのは、やはり活性酸素の存在です。特に、生理的条件下でも産生されるスーパーオキシド(O2-)が脂質過酸化反応の開始反応に関与します(医歯薬出版.1987;p33)。スーパーオキシドの不均化反応で生じる過酸化水素が鉄などの金属イオンと接触すると、反応性の高いヒドロキシラジカル(・OH)が発生します。このラジカル種が細胞膜近傍で発生した場合、容易に膜リン脂質中の水素を引き抜くこと(水素引き抜き反応)により、脂質過酸化反応を開始します。また、炎症が起こっている組織において、リポキシゲナーゼによる膜リン脂質過酸化反応から生じた過酸化脂質(脂質ヒドロペルオキシド:LOOH)が、鉄などの金属イオンにより酸化還元反応を受けると、アルコキシラジカル(LO・)やペルオキシラジカル(LOO・)が生じ、これらが開始剤として働き、さらに膜リン脂質中のプーファを酸化していきます。このように、鉄は生体内でイオン化した形で遊離していると、脂質過酸化反応を引き起こし、膜リン脂質中のプーファを酸化してしまうと考えられてきました。そのような酸化したプーファが遊離脂肪酸やアルデヒドとなって体内に拡散された場合、極めて有害であることは想像に難くないでしょう。

 ところで鉄イオンは極めて危険な物質であるため、生体内では鉄は遊離した形ではなく、他分子やタンパク質(ヘム、トランスフェリン、フェリチンなど)と結合した形態を取っています。すなわち、鉄イオンは原則的には鉄結合性タンパクに結合した状態で輸送されかつ貯蔵されています。しかしながら、脳脊髄液や滑液中には鉄イオンが単離した状態で存在することが報告されています(Biochem J.1984;219:1)。ですから、実際には鉄イオンは生理的条件下でも、結合タンパクから遊離・漏出し、膜タンパク質やリン脂質、あるいはコレステロールと結合する可能性はあると考えられます。また、遊離鉄イオンでなくても、ヘム鉄や非ヘム鉄など様々な鉄イオン複合体が脂質過酸化反応の開始反応を惹起できることが示唆されています(Arch Biochem Biophys.1986;246:501)。さらに、スーパーオキシドラジカル(O2―)の存在下では、細胞内貯蔵鉄であるフェリチン中の鉄イオン(Fe3+)が還元され、Fe2+が遊離されることが示されており、このFe2+がより反応性の高いヒドロキシラジカル(・OH)を生成し、脂質過酸化反応が開始されることが示されています(J Clin Invest.1984;73:1576-1579, Free Radic Biol Med.1988;4:185-198, J Biol Chem.1978:253:1838-1845)。この鉄イオン(Fe2+)による反応は、「フェントン反応(Fenton Reaction)」として一般的に知られています。

 以上のことから、当院ではフリーの鉄を脂質過酸化反応の開始剤となりうる危険な物質であると認識しており、採血上鉄欠乏性貧血(実際はほとんど存在しない。Hb値が7〜8以上あれば十分)があるからといって、安易に鉄剤や鉄サプリメントなどの内服・点滴投与することは極めて危険なことであると考えています(鉄欠乏性貧血については別章で詳述)。

今回は以上です。

「必須脂肪酸を切る」シリーズ パート11(facebookより転載 2020-1-29)” に対して1件のコメントがあります。

  1. 田中雅子 より:

    はじめまして
    一部拝読させて頂きました、目からウロコでした。
    Twitterもフォローさせて頂きました(笑)
    私は、シニア看護師でございます。
    ワクチンは職場で強く勧められましたが打っておりません。近々退職の予定でございます。
    先生の様なコロナを推奨しない医師や病院の元で働きたいのですが、もしご存知でしたらご教示下さいませ。
    よろしくお願い致します。

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