「必須脂肪酸を切る」シリーズ パート5(facebookより転載 2019-12-23)

さて、前回は「酸化ストレス」についての解説をしました。
この「酸化ストレス」については、医学界でもその言葉だけが一人歩きしているような状態で、残念ながら医師を含めてほとんどの方(某国公立大医学部教授も含めて)がその本質について全く理解できていません。

近年では、「アンチエイジング(抗老化)」の名の下に、抗酸化サプリメントや健康食品などを販売する業者やクリニックも増えてきましたが、これも表面的な知識しかない一般大衆を対象としたビジネスでしかありません。

もちろん「酸化ストレス」の結果として老化も進行していくことは間違いありません。そして、前回の記事でも詳細を述べたように、その「酸化ストレス」は、ラジカル連鎖反応が起こった結果としてもたらされるわけですが、ではそのラジカル連鎖反応が「どこで」、「どのように」起こるのか?という疑問に対して、クリアーに答えられる医師がいったいどれくらいいるでしょうか?

その本当の答えをこれからこのページで徐々に示していきたいと考えています。
もちろん「必須脂肪酸」とも密接に関わりのある話です。興味のある方はぜひこのシリーズを何度も読んでください。

それでは本日は予備知識の2つ目として、「アルデヒド」についての話をしておきましょう。

人体にとって有害なアルデヒド

● アルデヒドとは?

 アルデヒドとは、分子内にカルボニル炭素(C=O)に水素原子が一つ置換した構造を有する有機化合物の総称のことで、特有の臭気のある物質です。説明をわかりやすくするために、化学的な特性についての詳細はここでは省きますが、アルデヒドはR-CHOという一般式(化学式)で表される反応生の高い化合物で、多くの生物にとって極めて有害であることがわかっています。主なアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド・アセトアルデヒド・プロパナール・ブタナール・ペンタナール・ヘキサナール・ノネナール・アクロレイン・マロンジアルデヒドなどがあります。この中でホルムアルデヒドは最も単純なアルデヒド(化学式:HCHO)であり、病理解剖や生物の固定実験などで使用されています。ホルムアルデヒドは「シックハウス症候群」の原因物質であり、国債がん研究機関(IARC)の評価では、Group1(人体での発がん性が確認されているカテゴリー)にランクインされている物質です。また、アセトアルデヒド(CH3CHO)は、アルコール(エタノール)摂取後に肝臓で代謝(酸化)されてできる物質です。発がん性があり、二日酔いの原因物質として知られています。詳細は後述しますが、ヘキサナールやアクロレイン、マロンジアルデヒドなどのアルデヒドは、脂質過酸化反応の二次生成物として産生され、発がん性が高く、人体にとって極めて有害な物質だと考えられています。
 このようなアルデヒドの有毒性・有害性・発がん性は、アルデヒドの持つホルミル基(CHO)が、タンパク質の側鎖のアミノ基(NH2)と反応を起こし架橋反応に進むため、タンパク質が変性し凝固していくためであると考えられています。そして、このような架橋反応により構造が変化し、機能が失われたタンパク質が異常タンパク質(misfolded protein)として細胞内や組織内で蓄積していくと、細胞自体の構造や機能も変化し、細胞劣化(老化)や組織障害が引き起こされます。実際に、アルツハイマー病やその他の神経変性疾患でも、この異常タンパク質が神経組織内に蓄積していることが報告されています(Front Cell Neurosci.2019;13:350)。このように、アルデヒドのタンパク質変性作用によって生命の場(ホメオスタシス)が乱され、あらゆる慢性疾患が引き起こされると考えられます。それではこの生体にとって極めて有害なアルデヒドは、どのようにして形成されるのでしょうか?

● 多価不飽和脂肪酸(プーファ)から生み出されるアルデヒド

 実はこの極めて有害な物質であるアルデヒドの暴露量は、現代社会のライフスタイル(特に食事方法や食生活)が急激に変化したことに伴い、以前とは比べものにならないほど増えていると考えられます。その主要な発生源・暴露源として考えられるのが、多価不飽和脂肪酸(プーファ=Polyunsaturated Fatty Acid:PUFA)が豊富に含まれている植物油や魚油です。特に、菜種油・ごま油・コーン油・大豆油などの植物油脂は、今やどの家庭でも一般的に日常的に「クッキングオイル」として揚げ物や炒め物などの調理に使用されていますし、コンビニやスーパーのほとんどの加工食品にも多かれ少なかれ使用されています。実際に、例えばポテトフライなどに含まれる発がん物質である「アクリルアミド」は、ポテトを揚げる時に使用される植物油脂中のプーファが過酸化してできたアルデヒド(アクロレイン)とタンパク質の反応から形成されます(J Food Sci.2014;79:T115-21, Adv Exp Med Biol.2005;561:171-89)。クッキングオイルを摂氏180度で使用した調理では、大量の「アクロレイン」というアルデヒドが形成され、これが空気中にも揮発し、拡散することが明らかになっています(J Agric Food Chem.1987;35:909-912, J Agric Food Chem.2004;52:5207-5214)。
 外食するレストランによっては、気分が悪くなる経験をしたことのある方もいらっしゃるかと思います。これは、揚げ物や炒め物に使用される植物油脂中の多価不飽和脂肪酸(プーファ)が酸化され、形成されたアクロレインなどのアルデヒドの揮発したものを吸入することが原因で起こる「油酔い」です(もちろん食事中のアルデヒド摂取の影響もある)。また、食事だけでなく、車の排気ガスやタバコの煙中にも有害なアルデヒド(アクロレインなど)が含有されていることがわかっています(Mol Nutr Food Res.2008;52:7-25, Toxicol Ind Health.2008;24:447-90)。中国では肺がん死亡率が過去30年の間に465%も増加し、都市部では子供にも肺がんが発生しているという痛ましい出来事が、数年前日本の大手メディアにも取り上げられていましたが、これは大気汚染が進む中国都市部で、大気中にばらまかれた有害なアルデヒド暴露も大きな一因になっていると考えられます(もちろんPM2.5やその他粒子状化学物質も影響している)。そして、これらのアルデヒドは、クッキングオイル(植物油脂)中のオメガ6系脂肪酸(リノール酸)よりも、魚油や亜麻仁油・エゴマ油中のオメガ3系脂肪酸から発生しやすいこともわかっています(Mol Nutr Food Res.2008;52:7-25)。
 以上のことからも、人体にとっても極めて有害と考えられるアルデヒド類は、オメガ3やオメガ6といった多価不飽和脂肪酸(プーファ)から生成されるということです。そして、後述するように、多価不飽和脂肪酸(プーファ)を多く含む脂質が過酸化されること(=脂質過酸化反応)により、アルデヒドが体内でも生成されてしまい、これこそが体内のホメオスタシスを狂わせてしまう元凶になっていると考えられます。

それでは、次項からはいよいよ多価不飽和脂肪酸(プーファ)の過酸化について具体的にみていくことにしましょう。

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