「必須脂肪酸を切る」シリーズ パート9(facebookより転載 2020-1-15)

今回は「必須脂肪酸を切る」シリーズ第9弾、「カルボニルストレス」について、と「酸化しやすい脂肪酸の利用」について述べていきたいと思います。

● カルボニルストレス 〜アルデヒドとALEs〜

 空気酸化された過酸化脂質や、食事中の多価不飽和脂肪酸(プーファ)が体内に取り込まれた場合、その一部は生体内でさらなる過酸化反応や開裂反応を受け、構造や性質が変性していきます。この時に生成されるアルデヒド類を内因性アルデヒドといいます。過酸化脂質から生成される内因性アルデヒドの代表的なものには、アクロレイン・ヒドロキシアルケナール・ヒドロキシノネナール(HNE)・ヒドロキシヘキサナール(HHE)・マロンジアルデヒド(MDA)などがあり、これらは全て極めて反応性が高く、それ自身が強い生体毒性や変異原性を持っています。例えば、マロンジアルデヒド(Malondialdehyde:MDA)に変異原性があることは、以前からよく知られていたことです(Science.1976;191:868)。

 これらのアルデヒドは活性酸素種(ROS)よりも生体内半減期が長く、容易に細胞内外へ拡散していきます。近年では、これら反応性の高い過酸化脂質やアルデヒドなどのカルボニル化合物について、活性カルボニル(reactive carbonyl species)という呼称が提唱され、その生理機能が注目されています(Plant Physiol Biochem.2012;59:90-97)。

 脂質ヒドロペルオキシドやアルデヒドなどの活性カルボニルが存在すると、容易にタンパク質が修飾され、そのタンパク質が本来持っていた機能が失われ、変性・失活することは古くから知られていました。そして、修飾されたタンパク質は蛍光を発するため、修飾されたタンパク質の検出は組織や細胞の老化の指標として考えられてきました。近年の研究で、過酸化脂質などの活性カルボニルとタンパク質(酵素など)との複合体であるALEs(Advanced Lipoxidation End products=終末過酸化脂質産物)が、生体内で形成されることで細胞レベル・組織レベルで機能障害がもたらされ、様々な疾患と密接に関連していることもわかってきました(Diabetes.2008;57:879-88, Br J Pharmacol.2008;153:6-20, Oxid Med Cell Longev.2019;3085756)。

 例えば、種々のアルデヒドで修飾された血清アルブミンは、スカベンジャーレセプターを介してマクロファージに貪食されます(J Biol Chem.1986;261:4962, Chem Pharm Bull.1988;36:in press)。また、マロンジアルデヒド(MDA)によって修飾されたLDL(低密度リポプロテイン)もマクロファージによって貪食されることがわかっています(Proc Nat Acad Sci.USA.1980;77:2214, Proc Nat Acad Sci.USA.1982;79:1712)。このような現象は、臨床的に重要な意義を持っていると考えられています。すなわち、例えば過酸化脂質によって修飾されたLDLがマクロファージに取り込まれると、その中に含まれているコレステロールとともに血管壁に固定沈着し、動脈硬化巣が形成されます(Proc Nat Acad Sci.USA.1980;77:2214, Free Radic Biol Med.1992;13:341-390, British Medical Bulletin.1993;49:566-576, Free Radic Res.2015;26:896-904)。他にも、赤血球の膜脂質に過酸化が起こると、膜タンパク質が修飾を受け、マクロファージの直接的な貪食、あるいはその膜表面に自己抗体が結合しやすくなることなどが過去の研究からもわかっています(Biochim Biophys.1987;930:244, Clin Hemortheo Microcirc.2014;58:489-495)。これが関節リウマチやSLEなどの自己免疫疾患患者で貧血が起こる機序としても重要であると考えられています。

 もちろん先述した通り、生体内には過酸化脂質の発生源となるフリーラジカルや活性酸素を除去する機構(抗酸化酵素系)が働いています。また、過酸化脂質などの活性カルボニルにより修飾されたタンパク質が蓄積すれば、細胞の機能を低下させてしまうことになりかねないため、細胞内ではプロテアソーム系など変性タンパク質を速やかに除去するシステム(二次的防御系)が常に働いています(J Free Radicals Biol Med.1986;2:155, J Am Soc Nephrol.2006;17:1807-1819, Nature Rev Neurosci.2008;9:826-838)。しかしながら、このような生体防御系が間に合わないほどの酸化ストレスが加わり、過酸化脂質が生体内に過剰に蓄積した際に、細胞障害・組織障害が引き起こされ、様々な疾患が引き起こされると考えられます。これを総称して、「カルボニルストレス(Carbonyl stress)」と呼んでいます。アルデヒドの項でも述べた通り、脂質過酸化反応の二次生成物であるアルデヒド類は、タンパク質と結合・修飾して構造を変化させ、タンパク質のもつ機能を失活させる作用が強いため、より強力に生体内でカルボニルストレスを引き起こすと考えられます。

 実際に、アルデヒドの生体毒性としては、例えば自動酸化されたリノール酸から生成される炭素数5〜9の4-ヒドロペルオキシアルケナールが強い毒性を持つことや、他の低分子アルデヒドも脂質ヒドロペルオキシドよりもはるかに毒性が強いことが、日本人の研究で過去に報告されています(Yukagaku.1972;21:316, Yukagaku.1977;26:169)。また、これは生体内での実験ではありませんが、過酸化脂質によるタンパク質修飾によって、生体内で分泌される消化酵素(トリプシンやリパーゼなど)やミトコンドリアの酵素の働きが阻害されることが知られており、その阻害効果は脂質ヒドロペルオキシドよりもアルデヒドなどの二次酸化生成物の方が強いということがわかっています(Agr Biol Chem.1970;34:817, Archs Biochem Biophys.1955;56:157, Biochem J.1968;106:419)。

 これらのことからも、食事中の過酸化脂質やその代謝産物(アルデヒドなど)が、生体内でカルボニルストレスを引き起こし、主に食物の摂取を通じて細胞老化や組織障害、あるいは発がんなどに関与していると考えられます。当院では、自然酸化しやすい多価不飽和脂肪酸(プーファ)が多く含まれている油脂の摂取は、人体にとって極めて有害で危険だと考えています。ですから、当院では植物油を筆頭に、プーファリッチな油脂をできる限り摂取しないよう患者に指導しています。

● 油脂の酸化の利用:塗料として用いられてきたプーファ

 油脂の酸化を利用した典型的な例は、「塗料」です。塗料における油脂の利用割合はそれほど多いわけではありませんが、ワニス・アルキド系の塗料(インク)・油絵具にはかなり多用されてきました。これには、一般的に乾性油(ヨウ素価の高い油)のような不飽和結合を多く含む油が使用されてきました。

 先述したように、空気中で自動酸化(フリーラジカル化)した不飽和脂肪酸は、ペルオキシラジカル(ヒドロペルオキシド)を産生しますが、この一連の酸化反応の間に、ヒドロペルオキシドは不飽和脂肪酸が持つ二重結合に次々に付加されていき、重合化による分子量の増大と、分子間の架橋により流動性が失われ、ゲル化し弾性化していきます。このような不飽和脂肪酸の酸化反応による酸化重合の結果、塗膜が乾燥して固化してくるわけです。当然この反応は、二重結合の数が多ければ多いほど効率よく起こるため、多価不飽和脂肪酸(プーファ)がリッチな植物油や魚油、亜麻仁油などが塗料として使用されてきました。すなわち、皆さんが普段食用油として使用している植物油や、食事で摂取する魚の脂は、本来は塗料やプラスチックの可塑剤として、専ら工業的に使用されてきたものである、ということもぜひこの機会に知っておいていただきたいと思います(塗料を好き好んで食べたいと思う人などいるでしょうか??)。

 さて、ここまで空気酸化(自動酸化)された油脂が我々人類を含めた生体に与える影響をみてきました。いかに多価不飽和脂肪酸(プーファ)の酸化が恐ろしいものかが、少しずつ理解できてきたのではないでしょうか?

それでは、次回からはいよいよ体内でプーファの脂質過酸化反応が起こった場合にどうなるかについて見ていくことにしましょう。

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