【ケトン対は、胎児でメインのエネルギー源なのか?】
2026年5月16日土曜日に開催したオンラインセミナー『糖とエネルギー代謝①』で、視聴者からいただいた質問にお答えしておきます。
質問内容は
「胎児や臍帯血液中のケトン体が高値であるという事実(宗田2014)についてどう解釈するか」
というものです。
これに関して、詳細に回答していきましょう。
まず、糖質制限推奨しておられる宗田先生らの報告では、正常満期分娩60例で、βヒドロキシ酪酸が胎盤組織液で平均 2235 μmol/L、臍帯血で 779 μmol/L、新生児4日で 240 μmol/L、30日で 367 μmol/L と高値でした。一方、胎盤・臍帯血の血糖値は約75〜79 mg/dLで大きな差はありませんでした▼
https://www.toukastress.jp/webj/article/2016/GS16-10.pdf
この事実は、胎児が糖を使っていないという意味ではなく、むしろ胎児・胎盤系では、糖、乳酸、脂肪酸、ケトン体が発達段階に応じて使い分けられている、ということを示すものです。これは過去の論文データとも矛盾しません▽
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/rda.12797
https://journals.lww.com/indjem/fulltext/2013/17010/in_utero_fuel_homeostasis__lessons_for_a_clinician.9.aspx
https://diabetesjournals.org/care/article/44/1/280/33020/Ketones-in-Pregnancy-Why-Is-It-Considered
https://www.ajog.org/article/S0002-9378%2820%2931287-4/fulltext?utm_source=chatgpt.com
胎盤は糖を多く取り込み、その一部を酸化したり乳酸化したりして、胎児へ栄養を渡します。胎児側では糖代謝も重要ですが、子宮内は成人より酸素分圧が低くなっており、かつ細胞分裂が激しく、成長・脳発達・脂質合成も盛んなため、ケトン体が補助燃料・構造材料として重要になります▽
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0143400424000407?via%3Dihub
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2468867326000155
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0005276077901990?via%3Dihub
ミトコンドリア代謝から見ると、ケトン体はβヒドロキシ酪酸→アセト酢酸→アセチルCoAとなり、TCA回路に入ります。つまり、ケトン体も最終的にはミトコンドリアで酸化される燃料となるということです。ただし、上記論文でも示されている通り、ケトン体は糖と違い、解糖系を経ずにアセチルCoAを供給できるため、発達期の脳や胎児組織では、エネルギー源であると同時に、コレステロール・脂質合成の材料にもなります▽
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0005276077901990?via%3Dihub
実際、妊娠後期には母体の脂肪分解とケトン産生が高まり、ケトン体は胎盤を通過し、胎児の燃料や脂質・コレステロール合成基質になるとされています。
ですから、宗田先生らのデータの解釈は、あくまでも「胎児にとってケトン体は異常な毒ではなく、発達期に生理的に利用される重要な代謝基質である」ということを示しているだけであり、この論文だけで
「胎児の主燃料は糖ではなくケトン体である」
「糖質は不要である」
「妊娠中の高ケトン状態はすべて安全である」
とまで言い切るのは明らかに飛躍し過ぎです。
胎児や臍帯血中のケトン体が高値であること自体は事実であり、ケトン体が胎児発達における正常な代謝基質であることは間違いありません。
しかしだからといって、これを糖代謝を否定する根拠とは決してできません。
胎児・胎盤系でも、主要なエネルギー源として糖(グルコース)が用いられていることは、肝に銘じておくべきでしょう▽
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0146000500800269?via%3Dihub
https://dergipark.org.tr/en/pub/ejgm/article/71510
https://www.frontiersin.org/journals/endocrinology/articles/10.3389/fendo.2022.1047545/full
https://karger.com/anm/article/75/Suppl.%201/8/42658/Brain-Fuel-Utilization-in-the-Developing-Brain