“がん”の本質について パート2(2020年12月4日のtwitterより転載)

現代医学のがん治療が依拠する「SMT:体細胞突然変異仮説」について、その矛盾点を述べてきました。今回からは、「がんの代謝異常」についてみていきたいと思います。まず、がんの代謝を語る上で絶対に外せないのが、ドイツの生化学者であり、1931年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、オットー・ワールブルグ(Otto Warburg)博士の発見です(Science, 123, 309–314)。
普段酸素が存在している有酸素条件下では、我々の細胞内ではブドウ糖がミトコンドリアで完全燃焼されることによって、生命活動に必要なエネルギー(ATP)が産生されています。これを好気的リン酸化(Oxidative phosphorylation:OxPhos)と言います。

一方で、酸素がない無酸素条件下では、我々の細胞内ではミトコンドリアの好気的リン酸化(OxPhos)が阻害され、解糖系から乳酸発酵という代謝経路に切り替わっていきます。オットー・ワールブルグは、がん細胞ではミトコンドリアの好気的リン酸化(OxPhos)が障害されており、有酸素条件下でも解糖系が亢進されていることを見出し、それをがん細胞の特徴として発表しました(Science, 123, 309–314)。この、「がん細胞では有酸素条件下でもミトコンドリアの好気的リン酸化が阻害され、逆に糖系が亢進している」ことを、ワールブルグの名前を取って”Warburg Effect(ワールブルグ効果)”と呼んでいます。

このワールブルグ効果によって、実際にがん細胞では糖の取り込みが亢進しており、このがん細胞の特徴を生かした検査が、まさにFDG-PET検査です。これは、FDG(フルオロデオキシグルコース)というブドウ糖によく似た分子が、がん細胞に取り込まれることを利用した検査です。FDGはもともと臓器の糖代謝、主に脳の糖代謝機能をみるために用いられてきました。しかし、FDG-PET検査はがんの原発部位の特定や浸潤・転移・再発などの診断に非常に有用であることが判明し、今ではFDG-PET検査のほとんどががんの病期診断や検診のために用いられています。ちなみにあまり知られていないことだと思いますが、このFDG-PET検査が、がんの診断に有用であることを世界で初めて示したのは、日本の医学者であった米倉義晴先生です(Science.1985, 227; 1494-1496)。

さて、がん細胞がワールブルグ効果によって糖の取り込みを亢進させていることはかなり以前からわかっていたことですが、この事実を根拠に、「がん細胞は増殖するためのエネルギーを糖に依存している」として「がん細胞は糖中毒の細胞だ」と考える研究者や医学者が後を絶ちません。
そして、実際に、
1.高血糖・高インスリン血症・高IGF-1血症はがん患者のアウトカムを悪化させること
2.疫学的調査では、低炭水化物食でがんのリスクを低下させること
3.末期がん患者に対する低炭水化物食・ケトン食は安全かつ効果的であること
4.低炭水化物食・ケトン食は副作用なしに断食と同じ効果があること(断食はがんに有効)
5ケトン体は直接的な抗がん作用があること(in vitro, in vivoでの実験)
などを根拠に、がん患者に糖質制限食(CHO restriction diet)や、ケトン体ダイエット(Keton diet)を勧める人も増えてきているようです。しかし、これら(糖質制限やケトン体ダイエット)は本当に正しいダイエット・治療方法と言えるのでしょうか?

確かにがん細胞ではワールブルグ効果によって、糖の取り込みは亢進していますし、糖質制限食やケトン体食を実践することで、糖の取り込み自体は阻害することができます。しかし、それで本当にがん細胞を兵糧攻めにしてやっつけることができるのでしょうか?
実は、近年の研究でがん細胞は微小環境中の糖以外の栄養も用いることができることがわかってきました。例えば、がん細胞は
1.アミノ酸(グルタミン)を餌にして増殖できること(eLife.2016:10;7554)
2.細胞外マトリックスや間質の細胞から様々な栄養を受け取ること(Nature.2016:536;401–402)
3.Exosome(エキソソーム)からも栄養やシグナルを受け取って増殖できること(Cancer Metastasis Rev. 2013 , 32;623-42)
などがわかってきました。

すなわち、がん細胞は糖がなくなった時には、別の栄養素を用いて増殖できる経路を生み出す能力があるということなのです。糖質制限やケトン体ダイエットなどのがんに対する臨床研究は始まったばかりであり、まだ長期的な影響がどうかはわかっていません。また、私自身は健康な細胞の代謝は、あくまでもミトコンドリアの糖のエネルギー代謝が重要であって、これによって細胞の機能や構造が保たれていると考えています。ですから、糖質制限やケトン体ダイエットは正常細胞にもストレスを与えると考えられるため、当院ではがん患者にはオススメしておりません。また、がん患者以外でも厳しい糖質制限食を行なったことでむしろ体調を崩された患者を当院では何人も診てきましたので、糖質制限食自体決してオススメできません

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