“がん”の本質について パート3(2020年12月6日のtwitterより転載)

がんの代謝の話をもう少し続けましょう。実際にワールブルグが半世紀以上も前に指摘した通り、がん細胞は解糖系優位で糖(グルコース)の取り込みが亢進しているのですが、実はがん細胞は糖だけをエネルギー(=ATP)源として使用しているわけではありません。むしろ、エネルギー源として糖を発酵(Fermentation)するのではあまりに効率が悪い。ではがん細胞の中に取り込まれた糖はどうなっているかというと、実は色々な物質に変換されてがん細胞が効率よく増殖するために使用されており、エネルギー源は別の物質から得ていることもわかってきました。

例えば条件によっては、がん細胞は糖よりむしろグルタミンをエネルギー源として使用している(glutaminolysis)ことが示されています(Cancer Cell. 2010; 14: 199–200)。また、脂肪酸のβ酸化(FAO)によるATP合成も盛んに行われていることが示されています(Cancer Letters. 2018; 435: 92-100)。そして、がん細胞では糖を別の物質に変換する経路が亢進しています。例えば、ペントースリン酸経路(PPP)が活性化されており、NADPH産生や核酸合成が亢進しています。これにより薬剤や放射線治療に抵抗性を持ち、かつ効率的に増殖することができます(Trends Biochem Sci. 2014; 39(8): 347–354)。

また、多くのがん細胞では、糖(他にもアミノ酸や酢酸)からアセチルCoA→脂肪酸合成という経路で脂肪酸がde novo合成されており、これが増殖のために使用されたり、がん細胞自身のエネルギー源として使用(β酸化)されたりしています(British Journal of Cancer. 2019; 120: 1090–1098)。さらに、がん細胞では正常細胞より脂肪酸の取り込みや脂肪酸合成が亢進しており、脂肪酸をよりエネルギー源として使用していることが多くの論文より示唆されています(Nat Rev Cancer. 2013; 13: 227–232)。そして実際に、例えばがん細胞でその発現が亢進している脂肪酸合成酵素(FASN)などをターゲットにした抗がん治療が有効であることも様々な論文により示唆されています(J Cancer Prev. 2016; 21: 209–215)。

以上のことから、当院ではがん細胞は”糖中毒”というよりもむしろ、”脂肪中毒”というべきではないかと考えており、特にがん細胞における脂肪酸のde novo合成を抑えることによってがん細胞の進展を抑えることができるのではないかと考えています。

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