“がん”の本質について(2020年12月3日のtwitterより転載)
さて、今日は当院Twitterアカウントのフォロワーさんから要望のあった「がん」について述べていきたいと思います。主に、がんの代謝と”場”の理論についてみていきたいと思います。少し難しい話になると思いますが、時間のある方はぜひ読んでいってください。
現代医学の常識では、がんとはすなわち「遺伝子の病気」であると考えられており、もはやそれが一種のパラダイム(paradigm:支配的なものの見方・考え方)となっています。それに異を唱える人はトンデモ論者として扱われます。しかし、それ(がんは遺伝子の病気)は本当なのでしょうか。
1920年代に、ドイツの生物学者であったセオドア・ボベリという博士が、「がんは一つの細胞レベルの問題であり、その染色体異常により増殖する」といういわゆる”染色体異常仮説”を唱えました(BAtimore,MD.1929:pp62-63)。これが現在のがん治療が依拠する”パラダイム”の原型となりました。現在のがん治療が依拠する”パラダイム”とはすなわち、「SMT=Somatic Mutation Theory:体細胞突然変異仮説」です。つまり、「がん細胞とは、細胞内の核の遺伝子(DNA)変異によって異常増殖する細胞」のことであるとする理論ですね。
”Ras”というがん遺伝子や”Rb”というがん抑制遺伝子を発見に貢献した著名ながん生物学者であるロバート・ワインバーグ博士も、がんについて自身の有名な著書である「the biology of CANCER」の中で、この「SMT=Somatic Mutation Theory:体細胞突然変異仮説」に基づいた解説をしています。そして、自己複製能、成長阻害シグナルへの不応答性、アポトーシス回避能、無限増殖能、血管新生能、組織浸潤能・遠隔転移能・エネルギー代謝異常・免疫回避能、の8つが「がん」に共通した特徴であり、それらは全て遺伝子異常によって引き起こされる、と考えられてきました(Hanahan et al.2011)。
実は、「がんは遺伝子変異によって起こるものだ」という「SMT=Somatic Mutation Theory」に矛盾するようなデータが多数の論文により示されてきました。それらのいくつかをここで紹介します。
例えば、遺伝子変異は正常細胞でも起こっているが、それでも正常な機能・形態を保っていることが示されています(Bioessays.2006:28;515-28)。また、遺伝子変異がなくても“がん化”する細胞・組織に慢性炎症・異常興奮などがあれば、組織線維化、細胞機能・形態異常、異常増殖が起こることが示されています(Nature.2016:529;43-47)。さらに、核-細胞質移植実験でがん細胞の異常遺伝子を正常細胞に導入してもがん化しないことが示されています(http://Front.Cell.Dev.Biol.2015.Seyfried)。
これらのことは結局のところ、現代医学ではがんの原因とされている「遺伝子異常・変異」は、細胞ががん化するための必要条件でもなければ、十分条件でもない、ということを示唆しているのです!!
真に”科学的”であるかどうかを判断するために重要なこととして、1測定可能性、2定量性、3再現性・普遍性、4統計的有意性、5論理的整合性の5つが挙げられます。それでは再現性や論理的整合性に乏しい「SMT:体細胞突然変異仮説」が果たして”科学的”であると言えるでしょうか。
また、これは新型コロナウイルスでも議論のあったところですが、感染症において病原体であることを証明するためには、「コッホの4原則」を満たしていることが重要であるとされています(*コロナでは証明されていない)。実はこれは、がんにおいても当てはまると考えられます。
すなわち、がん細胞でみられる特定の遺伝子変異が、本当にがん化を引き起こすのかを確認する必要があるということです。そのためには、がん組織で遺伝子変異が認められる→その遺伝子変異を特定できる→その特定の遺伝子変異を正常細胞に導入すればがんになる→そのがんになった組織由来の遺伝子に同じ特定の変異が確認できる、という4つのステップ(すなわち”がん”のコッホの4原則)を経る必要があります。しかし、未だかつてこれらは一度も証明されていません。なぜならば、結論から先に言えば、実はがん細胞に認められる遺伝子変異は、がん化の結果(downstream epiphenomina)であり、原因(origin, cause)ではないからです(Carcinogenesis.2014:35;515-527)。
このように、”結果”に過ぎない現象を”原因”と捉えてしまう、ということは現代医学(だけではありませんが)では頻繁に起こっており、これを「前後即因果の誤謬」と言います(ヒュームの因果説)。これは人間の単純な線形思考(=大脳思考)のなせるわざであり、「SMT」もこれに当てはまります。これまでのツイートで、今まで現代医学のがん治療が依拠してきた理論である「SMT:体細胞突然変異仮説」が間違っていることを示してきました。すなわち、「がんは遺伝子変異が原因で起こるとは言えない」ということです。それでは一体「がん」の原因(origin, cause)とは一体何なのか。それを明らかにする前に、がんのエネルギー代謝(Metabolism, Energetics)について確認しておきたいと思います。
皆さんもご存知と思いますが、世界3大科学雑誌と言えば、“Nature”、“Science”、“Cell” ですね。実はこれらに掲載されるがんを題材にした論文は、「遺伝子変異」についてではなく、「がん代謝」についてがメインテーマとなりつつあります。すなわちがんの基礎研究レベルでは、すでに”遺伝子研究”から”代謝研究”の方に舵が切られつつある、ということであり、がんの研究者の関心は、「がんにはどのような遺伝子異常があるか?」ではなく、「がんはどのようにエネルギーを得ているのか?」というテーマに移ってきているのです。とはいえ、いまだに遺伝子研究に莫大な助成金が降り続けているため、大学や国の機関での研究は遺伝子研究がメインストリームであり続けていますし、がんの代謝異常も遺伝子異常ありきで語られています。これはもちろん「遺伝子決定論」が現代医学の根底にあるからに他なりません。私は、真の意味でがん治療がパラダイムシフトを起こすためには、”Genetics(=遺伝子決定論)”から”Energetics(=エネルギー代謝理論)”への転換が必要だと考えています。
がんの「SMT」の矛盾について書いてきましたが、私が提示した根拠に対して遺伝子研究をしている方から至極まっとうな反論をいただいています。今までのパラダイムを否定しているわけですから当然のことですし、遺伝子研究の専門家でもなんでもない私ごときがTwitter上で挙げた根拠は完璧ではありません。反論いただいた方には、米国の生化学者であるThomas Seyfried博士の著書「Cancer as a Metabolic Disease」をお読みになることをお勧めします。これを読めば、いかに現代医学のパラダイムであるSMTが矛盾だらけか、そしてがんに関する実験系がいかにおかしいものかもよくわかっていただけると思います。
「Cancer as a Metabolic Disease」は、2011年にボストン大学の生化学者であるThomas Seyfried博士によって書かれた大著で、彼はその著書の中で膨大な原著論文を元に、極めて論理的に現代医学の常識と言える「SMT:体細胞突然変異仮説」に反論しておられます。癌研究をしている人にとっては必読の書であると私は思っていますが、日本ではその存在すら知らない人が多いのではないでしょうか?私もできるだけ自分の言葉でこの大著を要約するつもりでこのTwitter上で自分なりに調べたことも含めて書いていくつもりですが、足りない部分はこの著書の中で説明されていることがほとんどです。興味ある方はぜひご一読ください!!
また、現在日本国内でも「がんは代謝異常」であるということを理論として掲げて、がん治療に臨んでおられる臨床医も少ないながら存在しています。そのうちの一人が京大名誉教授(元呼吸器外科教授)でいらっしゃる、和田洋巳(わだひろみ)先生です。
和田先生は、教授職を引退なさったあとご自身で開業され、現在は京都で「からすま和田クリニック」という個人のクリニックを経営する傍らで、「がんと炎症・代謝研究会」という学会を主催されて、他のがん研究者の方々とも積極的に交流されています。そして、実は私も和田先生のクリニックで実臨床をそばで勉強させてもらいつつ、「がんと炎症・代謝研究会」の勉強会に参加させていただき、先に紹介したThomas Seyfried博士の「Cancer as a Metabolic Disease」という大著を勉強会参加者の皆さんと拝読しました。その勉強会の参加者の中で、和田先生の実臨床における理論的支柱となっていたのが北大分子生物学教室教授でいらっしゃる佐邊壽孝(さべよしたか)先生でした。彼はがんの研究者の一人でもあり、がん研究の問題点を人一倍噛み締めておられました。また、がんの遺伝子変異が結果をみているに過ぎず、その本質が「代謝異常」にある、という認識がまだまだがんの研究者の間では主流ではなく、そのようなことを述べただけでもトンデモ扱いされてしまい、なかなか話を聞いてすらもらえない現状に対して、心から憂いておられました。
私がこの場でしたいことは、(がんの)遺伝子研究をしている人のことを否定したり、自分が正しいということを主張したいわけでもありません。そうではなく、今までのがんのパラダイムが間違っている可能性があるということを知ってほしい、ということです。しかし、残念ながら私自身の知識不足と経験のなさ(特に基礎研究)からその根拠を筋道立ててうまく伝えきれないところが私としてはなんとももどかしいところです。またこのTwitter上でまとめていくという作業も思った以上に大変です。ただ、先に挙げたThomas Seyfried博士のように、根拠を緻密なまでに筋道立てて提示し、現代医学のパラダイムが間違っていることを唱え続けている人たちが実際にいるのです。また、京都からすま和田クリニックの和田先生や、東京銀座クリニックの福田先生のように、実際にがんの代謝異常に着目した治療を行なっている病院も、少ないながら存在しており、私自身もそのような代謝異常などに着目した治療をしていきたいと思っています(まだまだ実践できていませんが)。
Thomas Seyfried博士は、核の遺伝子変異ががんの原因ではなく、「細胞質内の何か(cytoplasmic elements)」ががんの原因になっている、ということをはじめて指摘し、それを「Plasma genes:プラズマゲン」と名付けました。彼はその「Plasmagenes」の正体を突き止めることはできませんでしたが、彼が挙げていた特徴のいくつかから、それはミトコンドリアではないかということが考えられます。正常細胞から取ってきた細胞質成分とがん細胞の核をミックスしてやる(cybridする)と、がん化が抑制されました(Gann, 73, 574–580, In Vitro Cell. Dev. Biol., 23, 627–632, Cancer Res., 48, 830–833, PNAS. U. S. A., 75,
2358–2362, J. Cell Sci., 24, 255–263)。
また、腫瘍細胞からの核を正常細胞の細胞質とミックスさせると、ヒトや動物における幾つかの腫瘍の、in vivoでの腫瘍形成が抑制されたのです(Science, 165, 394–396, PNAS. U. S. A., 72, 3585–3589, Cancer Res.63, 2733–2736, Genes Dev., 18, 1875–1885)。
腫瘍関連の異数性および体細胞変異の存在にもかかわらず、腫瘍は腫瘍由来の核から発生しなかったのです(John Wiley & Sons, Hoboken, NJ, pp. 195–205)。
また、ミトコンドリアを直接トランスファーする実験は、これまでの核-細胞質のトランスファー実験で得られた結果を支持するものでした(PLoS One, 8, e61747, Breast Cancer Res. Treat., 136, 347–354)。すなわち、正常なミトコンドリアが腫瘍細胞の細胞質に移送されると、腫瘍形成抑制されたのです。
一方で、腫瘍細胞のミトコンドリアが正常細胞の細胞質に移されると、腫瘍形成が増強されました。これらの一連の実験からも、腫瘍形成(tumorigenesis)は、核の遺伝子変異よりむしろミトコンドリアの機能異常に依拠していることが強く示唆されます。さらに付け加えておくと、正常細胞の核が腫瘍細胞の細胞質と結合すると、正常細胞において腫瘍形成能(tumorigenesis)が増強されることもわかっています(Cell. Dev. Biol., 24, 487–490, P.N.A.S. U. S. A., 102, 719–724)。
これらの細胞のトランスファー実験の結果は、先述したC.D.Darlington博士が述べていた、「腫瘍細胞は、核の異常からではなく、細胞質の異常から発生する」ということと一致します。
また、ミトコンドリアDNAの変異を正常細胞に導入すると、正常なミトコンドリアの抗腫瘍形成効果が逆転し、癌はミトコンドリア病の一種として最もよく定義できるという結論に至る可能性があることも示しました。さらに、これらの核-細胞質トランスファー実験によって、体細胞変異が果たして本当に腫瘍形成に必須なのかという疑問も出てきます。 腫瘍が核ゲノムのみの異常から生じるのか、ミトコンドリアのみの異常から生じるのか。あるいはミトコンドリアと核ゲノムの両方の異常が必要なのかを判断するには、さらなる研究が必要ですが、 何れにせよ今の時点では核ゲノムの異常からがんが発生するとは言い難い。すなわち、核内の遺伝子異常によってがん細胞が発生するという、がんの「SMT=Somatic Mutation Theory:体細胞突然変異仮説」が確実なものとは決して言えない、間違っている可能性があるということなのです。