放射線の影響力の計測と評価について(2021年3月15日のtwitterより転載)

まだ、今後しばらくは「放射線」についての話を続けたいと思います。今回はもう少し「放射線」について理解を深めるために、その種類について補足して説明しておきたいと思います。先日説明した通り、放射線には大きく分けて2種類あり、α線やβ線のように粒子状のものと、γ線や紫外線のような電磁波があります。後者は光と同様に、“波”の一種であり、波長や周波数などによって規定され、分類されています。

http://www.hp.phys.titech.ac.jp/yatsu/1FGL2339/img/elemag_waves.pdf

波長の長い(=周波数が低い)方から、ラジオや無線に使用される「ラジオ波」、TVや携帯電話や宇宙通信などに使用される「マイクロ波」、熱線である「赤外線」、目に見える「可視光線」・「紫外線」・「X線」・「γ線」に主に分類されています。電磁波は波長の短いものほど周波数が高くなり、γ線が最も周波数が高い電磁波です。そして、これが非常に重要なことなのですが、周波数が高い電磁波ほどエネルギーが高く、例えば紫外線は可視光線よりも周波数が高いのでエネルギーが高く、したがって生体への影響も可視光線よりも強いものとなります。紫外線を浴びすぎると日焼けをするため、日焼け止めクリームを塗りますよね?さらに慢性的に紫外線に暴露されていると皮膚ガンになりやすいのも、紫外線のエネルギーが高いためです。言わずもがな、X線やγ線はそれよりもさらに強力なエネルギーを持っており、生体により大きなダメージを与えます。

可視光線は、波長でいうと800nm(赤外線)から380nm(紫外線)であり、その真ん中くらいの光(500nm)をエネルギーに換算すると、約2.5eV(エレクトロンボルト)となります。これは、生体内の化学反応に伴うエネルギーの範囲内(100eVまで)で収まります。つまり、可視光線は生体内で起こる化学反応レベルのエネルギーしかないため、人体に影響することはほとんどないと言えます。だから、可視光線だけが人間の感覚(視覚)で捉えることができるのです。それ以外の電磁波は人間の感覚では捉えることはできません(赤外線は例外的に熱線として感じられる)。つまり、当たり前かもしれませんが、通常の生活では可視光線よりも周波数の高い(=波長の短い)紫外線やX線、あるいは逆に可視光線よりも周波数の低い(=波長の長い)電波(マイクロ波やラジオ波)を感じることはできず、それらは測定器によってしか計測できません。

近年では、“wi-fi”や“Bluetooth”といった電波通信技術が頻繁に用いられるようになりました。これらは2.4GHzや5GHzといった比較的低周波数の電磁波でエネルギーレベルとしては低いものですが、これらの慢性的な暴露により人体に健康被害のリスクを高めることが示されています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0013935118300355

これらの周波数の低い(=波長の長い)電磁波が与える健康影響のことについても、また機会があれば取り上げたいと思いますが、いずれにせよX線やγ線のような周波数の高い(=波長の短い)電磁波も我々は感知できないために、知らないままに被曝してしまう可能性があります。さて、放射線には粒子状のもの(α線やβ線)と電磁波(X線やγ線)があり、このうちX線やγ線は周波数が高く、大きなエネルギーを持った電磁波であるがゆえに生体に悪影響を及ぼすことを説明してきました。しかし、電磁波であるX線やγ線だけではなく、粒子状のα線やβ線といった放射線も、(光に近い)高速で移動している時には電磁波とみなせる行動をとります。すなわちα線やβ線も、γ線と同様に高いエネルギーを持った電磁波として生体に影響を及ぼすということです。

ちなみにこのことはまた詳細に解説しますが、体組織中でも1メートル拡散するγ線に比べると、α線やβ線は生体内では遠くまでは飛ばない(数μm〜数百μm程度)粒子であるために、「外部被曝」においてはほとんど影響しません。しかし、「内部被曝」においてはこのα線やβ線による影響が決定的に重要になります。ですが、その影響がどれほどのものなのかを正確に計測することができないために、放射線計測器などからその影響を予測するしかないのです。このように、放射線影響は「可視化できない(=見えない)」というところに本当の恐ろしさがあるということを是非知っておいて欲しいと思います。

先ほど「可視化できない」ところに放射線被曝の本当の怖さがある、と述べました。すなわち、放射線被曝をした時に、その影響が「いつ」・「誰に」・「どのように」出てくるのか誰も予測できないところに本当の怖さがあるということです。このことについてもう少し深掘りしてみていきたいと思います。放射線被曝した時にまず問題となるのは、どれだけ被曝したかですが、その前にグレイ(Gy)、あるいはシーベルト(Sv)なるものがなんであるか、について再度確認しておきましょう。

これは先日お伝えした通り、被曝した際にどれだけのエネルギーが物体(あるいは人体)に与えられたかを示しています。1グレイ=1[J/kg]でしたが、被曝線量は放射性粒子が持つ固有エネルギー(E)に、放射性粒子の数(N)をかけたものであるとも考えられます。そう考えると、Gy(またはSv)= E×N ということになります。Eが放射性粒子の破壊力を示しており、Nは粒子がどのくらいの数あるかを示していると考えてください。GyやSvが大きくなるということは、同じ核種であった場合はE値は不変ですから、N値が大きくなることを意味します。放射性粒子による破壊がどのような分子にもたらされ、どのように健康に影響するかは確率の問題ですが、N値が大きくなれば放射能の影響の及ぶ確率も増えるということになります。

もちろん核種によってある程度体内での分布度は限定されてはいますが、現実的には人体にどのような影響が与えられるかは不確定です。しかし、いずれにせよN値が増える(=GyまたはSv値が増える)と、分子が破壊される確率が増え、健康に悪影響の出る確率が増えるということになります。なので、ヨウ素のように非放射性ヨウ素127であろうが、放射性ヨウ素131や135であろうが、甲状腺に集まることがわかっている核種であれば、ヨウ素を摂取するなど対策のしようもありますが、現実にどの臓器が対象になるかが曖昧な核種であれば、被曝した際の健康影響はほとんど予測不可能です。

また、それ以上に恐ろしいこととして、例えば放射性物質の微粒子が空中に浮遊している場合、それを誰がどれくらいの量を吸い込んだりするかがほとんど予測できないことです。同じ空間線量の場所にいても、健康被害を受ける人も受けない人もいる。放射性物質によって食物が汚染された場合はどうでしょうか?この場合も大気が汚染された場合と同様に、常に食物の放射線量を直接計測していたとしても、誰がどのくらいの放射性物質を摂取し、それによってどのような影響を受けるか、ということはほとんど予測できないということです。もちろん、放射能汚染地域において健康を害する人の数は、その地域の放射線量に依存しますが、実際に各個人にどのような健康影響が出てくるかは予測不能なのです。つまり、放射能が実際に各個人にどのように影響するかは不確定であり、そのことがより人々の不安を増幅させていると言えるでしょう。

このような放射能の不安や健康被害のリスクからできるだけ逃れるための最も有効な方法は、放射能汚染された地域から汚染されていない地域に避難することや、日常的に放射能汚染されていない食物や飲料を摂取することでしょう。決して風評被害だとして汚染されている可能性のある地域やその周辺で取れた食物が「安全である」とアピールすることが有効な対策ではないということは、もはや誰の目から見ても明らかでしょう。できるだけ放射能汚染されていない地域で汚染されていない食物を食べることを本来は求めるべきなのです。それは我々が希求すべき真っ当な権利であり、それを求めている人のことを批判したり、「放射能」だなどと言って揶揄すること(3.11後にそういう人が大量発生しました)は、おおよそまともな人間のすることではなく、差別にも発展しかねない、ということを我々は肝に銘じておくべきだと思います。

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