【ストレスホルモンは糖の「完全燃焼」を阻害するのか?】

前回のオンラインセミナーで質問があった内容について、詳細にお答えしておこうと思います。
 
ちなみに視聴者からの質問内容としては、
 
「ストレスホルモン(コルチゾール・アドレナリン)により糖代謝が駆動されやすいと思うが、セミナーで説明されていた『脂質・ストレスが(糖代謝を阻害して)病気の場になる』ということと矛盾するのではないか。また、ストレスホルモンによる血糖値上昇は糖代謝を阻害しているという理解で合っているか」
 
というものでした。
 
ストレスホルモンとして知られるコルチゾールやアドレナリンは、「糖の完全燃焼を阻害するホルモン」と説明されることがあります。しかし、生理学的にはもう少し丁寧に整理する必要があります。
 
もちろん、これらのホルモンは、単純に「糖利用を止める悪玉ホルモン」というわけではありません。むしろ、急性ストレス時には、生体を生き延びさせるために糖利用を促進する側面も持っています。
 
ただし、その状態・ストレス反応が慢性的に続いた場合に、糖代謝は“完全酸化”ではなく、“緊急モード”や“不完全酸化寄り(=発酵)”に傾きやすくなるのです。
 
本来、糖はミトコンドリアで酸素を用いて完全酸化されることで、大量のATP(エネルギー)を産生します。
 
 
この糖の完全酸化の流れでは、
・解糖系
・ピルビン酸脱水素酵素(PDH)
・TCA回路
・電子伝達系
 
がスムーズに働く必要があります。
 
しかし、強い急性期のストレス状態では、身体は「長期的な代謝効率」よりも、「今この瞬間を生き延びること」を優先します。
 
例えばアドレナリンは、
・肝臓のグリコーゲン分解
・血糖上昇
・心拍増加
・脂肪分解
などを引き起こし、瞬時にエネルギーを動員します。
 
この時、筋肉での糖利用自体は一時的に増えることもあります。しかし問題は、その糖が“完全酸化される”とは限らないことです。
 
急激に解糖系が回転すると、ミトコンドリアの処理能力や酸素供給を上回りやすくなります。その結果、ピルビン酸はTCA回路へ十分に流れず、乳酸産生へ傾きやすくなります(=解糖系、乳酸発酵↑)。さらにアドレナリンは脂肪分解も促進するため、遊離脂肪酸が増加します。過剰な脂肪酸はランドルサイクル=Randle cycle(糖と脂肪酸の競合)を介して糖酸化を抑制し、ミトコンドリアでの糖利用効率を低下させる方向に働きます▼
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S2213-8587(13)70154-2
https://academic.oup.com/bjaed/article-abstract/6/3/128/375522?redirectedFrom=fulltext
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/ajpendo.00093.2009?rfr_dat=cr_pub++0pubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org
 
つまりアドレナリンは、「糖を使わせる方向に働くホルモン」ではあるものの、それは“高効率な完全燃焼”というより、“緊急用エネルギー動員”に近い状態だと理解すべきです。
 
コルチゾールも同様です。
 
コルチゾールは本来、
・血糖維持
低血糖防御
・抗炎症(=免疫抑制)
・生存維持
に重要なホルモンです。
 
しかし慢性的に高い状態が続くと、
・筋肉分解や脂肪分解(異化反応亢進)
・インスリン抵抗性
・遊離脂肪酸増加
・甲状腺機能低下
・ミトコンドリア機能低下
などを引き起こしやすくなります。
 
その結果、血糖は高いのに細胞レベルでは十分にエネルギーが作れず、
・疲労感
・冷え
・慢性炎症(←免疫抑制)
・集中力低下
・乳酸蓄積(←乳酸発酵↑)
などにつながることがあります。
 
特に現代人は、急性ストレスよりも「慢性的ストレス」に晒されやすい環境にあります。
・睡眠不足
・過度な精神的緊張
・長時間労働
極端な糖質制限
・ハードな筋トレなど過剰な運動
・空腹状態の持続
などは、コルチゾールやアドレナリンを慢性的に上昇させやすく、結果として身体を“省エネ・緊急モード”へ追い込みやすくなります。
 
逆に、糖が比較的スムーズに完全酸化されやすいのは、
・インスリンが適切に分泌され
・甲状腺機能が保たれ
・自律神経のバランスが良く
ミネラルや栄養が充足し
・過剰な脂肪酸(特にPUFA)負荷が少ない
ような状態です。
 
つまり、糖代謝において重要なのは単に「糖を摂るかどうか」ではなく、“身体が安心して糖を完全燃焼できる状態にあるか”なのです。
 
したがって、コルチゾールやアドレナリンは、短期的には生存に不可欠なホルモンである一方、慢性的に高い状態では、糖代謝を「完全酸化」から「緊急モード・不完全酸化寄り」へ傾けやすいホルモンである、と理解するのが最も適切だと言えるでしょう。

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