【「“生命の本質”から根本治療を考える」シリーズ第一弾:生命とは何か?Part2 ~生命の“秩序”はどのように生まれるのか?非平衡系が生み出す生命現象~】
こんにちは、院長の松本です。
前回から書き始めた「“生命の本質”から根本治療を考える」シリーズ第一弾:生命とは何か?
二回目のテーマは、「生命の“秩序”はどのように産まれるのか?」です。
前回述べた“生命とは何か?”について記した著作の中で、シュレーディンガーは「生命は負の“エントロピー(ネゲントロピー)”を使って秩序を保っている」と考えました。それではいったいその“秩序”は、どのようにして生まれているのでしょうか?この問いに対して、「散逸構造」という新たな答えを提示したのが、ノーベル化学賞受賞者イリヤ・プリゴジンでした。
プリゴジンは、エネルギーや物質が絶えず出入りする非平衡状態(非平衡熱力学系)において、系が自発的に秩序ある構造を形成する現象を見出し、これを「散逸構造(dissipative structure)」と名付けました。従来の熱力学では、「時間の経過とともにエントロピーは増大する」とされ、秩序は崩壊へ向かうものと考えられてきました。しかしプリゴジンは、外界とエネルギーを交換し続ける開放系においては、むしろエネルギーの流れそのものが新たな秩序を生み出しうることを理論的に示したのです[8,9]。例えば、加熱された流体に現れる対流パターン(ベナール対流)や、一定の条件下で周期的な色変化を示す化学反応(Belousov–Zhabotinsky反応)では、外部からエネルギーが供給されることで、空間的・時間的に規則的な構造が自然に形成されます。これらはすべて、非平衡状態における「自己組織化(self-organization)」の例です。
ここで重要なのは、これらの秩序が「外から設計されたもの」ではなく、エネルギーの流れの中で自発的に生じているという点です。この視点に立つと、生命の見え方は大きく変わります。つまり生命とは、あらかじめ完成された構造ではなく、エネルギーを生成・散逸し続けることで、自ら秩序を生み出し、その秩序をエネルギーの存在下で維持している存在なのです。シュレーディンガーが述べたように、生命は「秩序を維持する存在」であると同時に、プリゴジンの理論に基づけば、「秩序そのものを“生成し続けている”存在」でもあると言えるのです。このように考えると、生命とは単なる物質の集合ではなく、エネルギーの流れによって自己組織化された“過程そのもの”であることが見えてきます。では、この「エネルギーの流れによって秩序が生まれる」という視点から見たとき、生命の仕組みを解く鍵はどこにあるのでしょうか。
シュレーディンガーは、生命の謎を解くカギは「非周期性結晶(=遺伝子)」にあると考えました[2,10]。20世紀後半の遺伝子学や分子生物学を中心とした生命科学も、この問いに対して「生命の本質は遺伝子である」という答えを提示しました。しかし、本当に遺伝子は生命の本質と言えるのでしょうか。次節からは、「遺伝子=生命の本質」という考え方がどのように生まれ、どのような限界を持っているのかを批判的に見ていきましょう。
参考文献▽
[2] S. Kauffman, Answering Schrödinger’s “What Is Life?”, Entropy (Basel) 22 (2020). 10.3390/e22080815.
[8] I. Prigogine, G. Nicolis, Self-Organisation in Nonequilibrium Systems: Towards A Dynamics of Complexity, in: M. Hazewinkel, R. Jurkovich, J.H.P. Paelinck (Eds.) Bifurcation Analysis: Principles, Applications and Synthesis, Springer Netherlands, Dordrecht, 1985, pp. 3–12.
[9] M. Tlidi, M.G. Clerc, K. Panajotov, Dissipative structures in matter out of equilibrium: from chemistry, photonics and biology, the legacy of Ilya Prigogine (part 1), Philos Trans A Math Phys Eng Sci 376 (2018). 10.1098/rsta.2018.0114.
[10] B.H. Weber, What is life? Defining life in the context of emergent complexity, Orig Life Evol Biosph 40 (2010) 221–229. 10.1007/s11084-010-9203-4.

