「必須脂肪酸を切る」シリーズ パート6(facebookより転載 2019-12-25)
必須脂肪酸を切る」シリーズの続き(第6弾)です。今回からは脂質過酸化反応について書いていきたいと思います。
多くの脂肪(油)は、「脂質過酸化反応(Lipid peroxidation)」により、人体にとっても有害な酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルの生成を促進し、さらに最終産物として猛毒であるアルデヒド類を産生することがわかっています。ここではその「脂質過酸化反応(Lipid Peroxidation)」について、できるだけ詳細に解説していきたいと思います。
● 脂質過酸化反応=不飽和脂肪酸の過酸化反応
以前に脂肪酸の説明をしたところでも触れましたが、脂肪酸には「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」があります。このうち飽和脂肪酸は、二重結合がない直鎖状の構造をしているために、酸化しない(しにくい)脂肪酸でした。
その一方で、自然界にある不飽和脂肪酸は、二重結合を持っており、活性メチレン部位の水素原子の結合が他の結合に比べて化学的に脆弱になっています。その水素原子が酸化反応によって容易に引き抜かれるため、過酸化反応を受けやすいことがわかっています(J Am Chem Soc.2003:125;5801-5810)。
そのような酸化されやすい性質を持つ不飽和脂肪酸の中でも、二重結合が複数ある多価不飽和脂肪酸(プーファ)は、より不安定な構造で酸化しやすいという性質を持っています。例えば、トリグリセライド(いわゆる中性脂肪)は、グリセリンという物質に3つの脂肪酸がエステル結合した形をしていますが、この3つの脂肪酸のいずれかが不飽和脂肪酸であった場合、容易に酸化され脂質過酸化反応が進行してしまいます。逆に、トリグリセリドの3つの脂肪酸が全て飽和脂肪酸であった場合には、このような脂質過酸化反応はほとんど起こらないと考えてよいでしょう。
さらに悪いのは、別の記事でも詳述しますが、低血糖などのストレスがかかった時に体内(特に生体膜)でリポリシス(脂肪分解)が起こった時です。その過程で放出された遊離脂肪酸(Free Fatty Acid:FFA)が不飽和脂肪酸であった場合、容易にアルデヒドやALEs(Advanced Lipoxidation End Products:終末脂質過酸化物)などの酸化生成物が産生され、様々な生体機能を阻害することがわかってきました。しかし、この場合も遊離脂肪酸が飽和脂肪酸であったなら、脂質過酸化反応は進行しないと考えられます。
実際に、脂肪酸の構造中に炭素間の二重結合の数が多ければ多いほど、人体にとっても極めて有害な過酸化脂質の生成量が多くなることは昔からよく知られていたことです(Prostaglandins.Leukot.Essent.Fatty.Acids.1994;50:-363-4, Acc.Chem.Res.2011;-44:458-67, Oxidative Medicine and Cellular Longe-vity.2014;Article ID 360438:-31, Free Radical Biology and Medicine.1990;8:541-543, PNAS.2000;97:611-616)。
すなわち、自然界(生体内も含めて)における脂質過酸化反応は、基本的には飽和脂肪酸ではほとんど起こらず、主に不飽和脂肪酸が含まれている脂質特異的に起こるものであると考えられます。このことからも、脂質過酸化反応の影響をできるだけ受けないためにも、食事中の脂肪酸はできるだけ飽和脂肪酸リッチなものにし、体内の脂肪酸組成を少しでも飽和脂肪酸リッチにしておくことが重要であることがわかっていただけると思います。これこそが、当院では飽和脂肪酸リッチな油脂を摂ることを勧めている最も大きな理由です。
今回は以上です。
次回は、空気中での脂質過酸化反応(=自動酸化)について取り上げたいと思います。