「必須脂肪酸を切る」シリーズ パート10(facebookより転載 2020-1-28)

さて、少し間が空いてしまいましたが、「必須脂肪酸を切る」シリーズはまだまだ続きます。

今回からはいよいよ「生体内での脂質過酸化反応」についてみていきたいと思います。

前回までは生体外環境で空気酸化(自然酸化)した多価不飽和脂肪酸(プーファ)が脂質過酸化産物を形成し、アルデヒドなどの危険な物質を産生することをみてきました。そしてそれらが日々の食事などを通じて体内に入ってくることで生体に有害な影響を与えることを詳しく論じてきました。

それでは、生体内では多価不飽和脂肪酸(プーファ)はどのような動態を示すのでしょうか?

● 生体内でのプーファの過酸化

 食事中の多価不飽和脂肪酸(プーファ)の過酸化により生成された過酸化脂質やその二次生成物の摂取が人体にとって有害であり、危険であることは前回までの投稿である程度わかっていただけたことかと思います。一方で、生体組織中にはビタミンEやグルタチオンなどいわゆる「抗酸化物質」が存在し、それらはフリーラジカル(活性酸素)や過酸化脂質(脂質ペルオキシド)の形成を阻害する働きがあるため、生体外環境でみられるような脂質過酸化反応は、生体内では容易には起こらないと考えられてきました。むしろ、オメガ3やオメガ6などの必須脂肪酸は、生体内で重要な働きをしているため、食事中から積極的に摂取する必要があることが今でもまことしやかに吹聴されています。
 
 ただし、もはやオメガ6系のプーファの害反応が隠しきれなくなってきたため、今度はDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などのオメガ3が身体に良いものだとし、オメガ6の有害性を打ち消すためにもオメガ3を摂取する必要があることが、栄養学や油の専門家を中心に語られてきました。特に近年では、オメガ3/オメガ6バランスが重要で、比率としては1:1〜1:4程度が望ましく、「オメガ6を減らし、オメガ3を増やしましょう」という話が至るところで語られるようになってきました。つまり、コレステロールの時と同様のいわゆる「オメガ6悪玉・オメガ3善玉」説が栄養学の世界でも常識となりつつあるようです(Nutr Hosp.2011;26:323-329, Nutrients.2016;8:128)。

 しかしながら、生体内での多価不飽和脂肪酸(プーファ)の過酸化が、各組織における代謝機能の低下をきたすことは、脂質の研究者によって昔から示唆されてきました(Biochem.1966;99:667)。また、老化と過酸化脂質との(細胞)関係(Advances in Gerontological Research.1967;2:355, Lipid.1967;2:77)、汚染された大気中のオキシダントによる肺障害と過酸化脂質との関係(Proc Soc exp Biol Med.1967;126:356, Science.1967;159:532)、動脈硬化と過酸化脂質との関係(Metabolism of Lipids as Related to Atherosclerosis.1965:p.48)、エタノールによる肝障害(Fedn Proc.1967;26:1436)、高濃度酸素療法による酸素中毒(Physiol.Rev.1968;48:331)など、生体における過酸化脂質の形成の結果として考えられる現象がかなり昔からいくつも報告されてきました。そして、体内(in vivo環境)での脂質過酸化プロセスは、生体外環境(in vitro環境)と同様に進行することが様々な実験からも示唆されてきました(Pharmacol Rev.1967;19:145, Fedn Proc.1973;32:1875, Biochem Pharmacol.1972;21:239, Experientia.1971;27:1274, Yakushi.1973;93:756)。さらに、脂肪酸の構造中に炭素間の二重結合の数が多ければ多いほど、人体にとっても極めて有害な過酸化脂質の生成量が多くなることや、脂質過酸化産物によるタンパク質修飾により生体内で異常タンパク質が増え、小胞体ストレスやミトコンドリアストレスなどの細胞レベルのストレスが増加することなどは昔からよく知られていたことです(Prostaglandins.Leukot.Essent.Fatty.Acids.1994;50:-363-4, Acc.Chem.Res.2011;-44:458-67, Oxidative Medicine and Cellular Longevity.2014;Article ID 360438:-31, Free Radical Biology and Medicine.1990;8:541-543, PNAS.2000;97:611-616)。

 ですから、オメガ3やオメガ6はいずれにせよ酸化しやすい多価不飽和脂肪酸(プーファ)であることには変わりなく、元来生体毒性のある有害物質であるということが示されてきたわけです。ですから、当院ではオメガ3も本質的には生体にとって有害な作用を及ぼすと考えており、食事やサプリメントでの積極的な摂取はしないよう患者に指導しています(オメガ3については別項で解説)。

 さて、生体内の主要な構成成分として、主にタンパク質・脂質・糖質・核酸が挙げられますが、このうち最も酸化されやすいのは脂質です。なぜなら、あらゆる生体の脂質中には、リノール酸(18:2, n-6)など極めて過酸化反応を受けやすい多価不飽和脂肪酸(プーファ)が少なからず含まれているからです。細胞膜上の脂質(リン脂質やコレステロール)中のプーファは、紫外線・炎症・虚血(再灌流)などの要因で生成したフリーラジカルにより非酵素的に容易に酸化され、脂質ラジカル(L・)になります。そしてこれが開始反応となり、脂質ペルオキシラジカル(LOO・)を担体として連鎖反応が進行し、最終的に過酸化脂質(LOOH)が蓄積していきます。このことは、リポソーム膜や赤血球膜などを用いた過去の実験でも観察されていることから、生体膜上のプーファが活性酸素(スーパーオキシド)などのフリーラジカルからの攻撃を受けると、ラジカル連鎖反応が惹起されると推測されています。脂質過酸化反応によってできた脂質ラジカル連鎖反応により、赤血球膜上では膜が障害を受けることも示唆されています(Biochem.Biophys.Acta.1985;819:29)。

 ちなみに、過酸化脂質の生体内(特に細胞膜)での形成機構は、(1)酵素的過酸化と、(2)非酵素的過酸化の二つに大別されると考えられています。この形成機構についての説明は、かなり専門的な話になってしまうので詳細は省きますが、いずれにせよその基質(過酸化脂質の発生源)は主に膜リン脂質であり、酸素が必要な反応です。

それでは次項でこの膜リン脂質(のプーファ)がどのように過酸化反応をされていくのかをみていくことにしましょう。

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