「漢方医学」の考え方について3(facebookより転載 2019-6-28)

さて、過去2回にわたって「気・血・水」という漢方医学において最も重要な病理(病因)思想について書いてきましたが、本日はいよいよその最後となる、「水」についてお話ししていきたいと思います。

みなさんもご存知のことと思いますが、私たちの身体はその大半が水分でできています。すべての生物の基本的な構成要素である細胞レベルでみてみると、重量比にしてなんとその70%もの部分を水が占めることがわかっています。
また、その細胞と細胞は互いに細胞間物質(細胞周囲の細胞外マトリックス)で結びついていますが、それらはすべて水の中に浮かんでいるような状態になっています。
子供たちの肌がみずみずしく、ふっくらしているのに対して、歳を取れば取るほどシワが増え、肌が乾燥して干からびてくるように思えるのは、この細胞外マトリックスの保水作用が徐々に失われていくからです。
実は細胞同士が形成するいわゆる「細胞社会」は、細胞そのものというよりも、この細胞外マトリックスの制御機構が重要な働きを担っており、細胞→組織→器官→個体という階層的な形成過程も、この細胞外マトリックスによって制御構造化されていることが様々な研究からわかってきています。

例えば「がん」も細胞(の核の遺伝子)自体が異常になって起こるのではなく、細胞外マトリックスが異常になって起こるのだという説まで提唱されています(Clin Exp Metastasis. 2019 Jun;36(3):171-198, Acta Biotheor. 2015 Sep;63(3):257-67, Prog Biophys Molec Biol. 2016 Aug;11)。

少し話が傍に逸れましたが、重要なことは何かというと、細胞間の相互作用や情報伝達はすべて細胞外マトリックスを介して行われており、それには「水」の存在が欠かせないということです。
そして漢方医学的には、このような細胞間の相互作用や情報伝達・新陳代謝の流れを「水(すい)」と表現し、これに異常が起きた状態を「水」の異常として「水滞(水毒)」と表現します。

「水滞」による症状は以下のようなものがあり、非常に多彩です。
動悸、呼吸困難、喘鳴・咳嗽、倦怠感、便秘、下痢、冷え、唾液や涙の分泌障害、めまい、耳鳴り、頭重感、神経痛、浮腫・・・etc

そして、これらの解消に使用される生薬は「駆水剤(利尿剤)」と呼ばれ、茯苓(サルノコシカケの菌核)、朮(キク科オケラの根茎)、沢瀉(サジオモダカの塊根)、猪苓(サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核)、半夏(カラスビシャクの球状根茎)、生姜(ショウガの根茎)、乾姜(ショウガの根茎を乾燥させたもの)、麻黄(マオウの地上茎)、杏仁(アンズの種子)、黄耆(キバナオウギの根)、細辛(ウスバサイシンの根茎)、防已(オオツヅラフジの茎)などがあります。

当院にはよくめまいや耳鳴りの症状を訴えて来られる患者がいらっしゃいます。このような患者は内耳に水が停滞・偏在しており、循環が悪くなっている、と考えられます。
この原因の一つとして、「ヘルペスウイルス」の再活性化(本来はこう呼ぶべきではない)が挙げられます(ヘルペスウイルス原因説、Laryngoscope. 2003 Sep;113:1431-8.)。
ですから、このような患者には水分循環を改善し、水毒を改善させる漢方方剤である半夏白朮天麻湯などを与え、かつ抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビルなど)をヘルペスウイルスの抑制療法として投与することが有効であることが考えられます(注:抗ヘルペスウイルス薬の抑制療法・予防投与は自費になります)。

この3回の投稿をまとめます。

すでに前回までの投稿で述べた通り、「気」は生命に必須のエネルギー代謝を司っており、「血」は、血管やリンパ管を通じて酸素や栄養など体内に吸収したものを各臓器・器官に送り、同時に不要物を排泄器官へと送る働きを担っています。
そして今回お話した「水」は、体内の水分調節・体内老廃物の排泄・体内に侵入した異物(病邪)の排除などの活動など、我々の身体の組織を支えるという働きをしています。
このように、「気・血・水」の3者が3様の働きをすることによって、私たちの身体の健康(な”場”)が保たれているのです。
また、漢方医学では「気」が滞れば、続いて「血」が滞り、ついで「水」が滞ると考えます。
つまり、「気・血・水」は、互いに一連のつながりをもって、バランスをとりながら生命を維持していると考えられているのです。

ですから、なんらかの影響でエネルギー代謝が抑制され、体内を循環する血流が悪くなれば、その結果として「水滞」による症状が引き起こされます。つまり、「気」や「血」の異常がひいては「水」の異常を招くことになるのです。

以上より、私は「気・血・水」の異常のある患者にはその証にあった漢方を処方することはもちろんのこと、糖のエネルギー代謝を高める方策をお伝えすることが必須であると考えています。

さて、3回にわたり「気・血・水」という漢方医学特有の病因概念について説明して参りました。
今後も主に当院に来られる患者向けに漢方医学について、あるいは当院の治療コンセプトや疾患に対する考え方などをお伝えしていければと思います。

 

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