PCR検査のプライマーの問題について(2021年1月10日のtwitterより転載)

そもそもPCR(Polymerase Chain Reaction)とは、「目的とする遺伝子断片を増幅させる技術」のことです。キャリー・マリス(1993年ノーベル化学賞)という今は亡き生化学者によって開発され、特に分子生物学分野における大躍進を支え続けてきた技術です。

PCRの原理としては、真核生物の生体内で起こっているDNAの複製過程を真似たものです。PCRを実施するためには、増幅対象となるDNAサンプル、プライマー、DNA合成に必要な遊離ヌクレオチド(デオキシヌクレオチド三リン酸:dNTP)、そしてDNA合成酵素であるDNAポリメラーゼ、の4つが必要となります。

ところで、COVID-19の診断に際して現在日本で広く用いられているPCR検査は、国立感染症研究所(感染研)が出しているマニュアルに則ったもので、「リアルタイム one-step RT-PCR(Taqmanプローブ法)」という手法によってウイルス遺伝子断片を検出しています。「リアルタイム one-step RT-PCR(Taqmanプローブ法)」とは、RNAウイルスである新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)の遺伝子RNAを逆転写酵素(reverse transcriptase:RT)で相補的DNA(cDNA)に転写して、そのDNA配列の一部を増幅させるものです。このとき、検体(鼻咽頭拭い液や唾液)中に目的とする遺伝子配列が存在していた場合、“TaqManプローブ”という蛍光物質のついたオリゴヌクレオチドが鋳型DNAに特異的に結合していきます。そして、1サイクル毎に目的となる遺伝子断片が倍に増幅していき、蛍光強度が増していくので、ウイルスの存在を定量的に確かめられる、という原理になっています。しかし、実はこの検査手法には大きな問題があります。

その問題とは、このPCR検査で設計された「プライマー」の問題です。もちろんプライマーを設計するときに、なるべく変異しにくく、他のウイルスの遺伝子配列とマッチしない配列部分を選んでいるはずです(私が直接日本感染研に問い合わせた時もそう回答されました)。それでも、コロナウイルスのようなRNAウイルスは予想以上に変異が速く、プライマーに選んだ遺伝子配列部分に変異を起こす可能性は決して否定できません。プライマーの塩基配列は大体15〜25塩基対ほどですが、この部分のウイルス遺伝子に何個かでも変異が入るとプライマーが結合しなくなってしまい、本当は新型コロナウイルスが存在しても、変異ウイルスに対してはPCR検査が陰性になってしまう可能性があります(広義の“偽陰性”)。そして、時間が経つにつれてプライマー部分にも変異が起こる確率は高まりますから、より一層プライマーの配列と合わない遺伝子配列を持ったウイルスが出現し、PCR検査が陰性化してしまう可能性があります。これに加えてもう一つの問題として、設計したプライマーと似た塩基配列をもつ他の遺伝子と交差反応を起こしてしまい、非特異的な遺伝子増幅が起こる可能性もあります。この場合、検体中にSARS-CoV-2が存在していなくても、PCR検査の結果としては陽性となってしまうということです(広義の“偽陽性”)。PCRのサイクル数を増やせば増やすほど、この非特異的反応(交差反応)は起こりやすくなり、陽性となってしまう確率は増加すると考えられます。

つまり、そのような意味においてPCR検査は決して精度の高い検査とは言えず、検査数を増やせば増やすほど広義の偽陽性者が増し、逆にどんどん変異していく新型コロナウイルスを捉えられず、その部分では陰性になってしまうため、時間が経てば経つほど変異を繰り返したウイルスの検出のためには意味のない検査に成り下がってしまっている可能性すらあるということです。このような原理的に考えれば極めて不正確で不完全な検査がCOVID-19の確定診断に使用されているということをぜひ知っておいてもらいたいと思います。

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