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【「“生命の本質”から根本治療を考える」シリーズ第二弾:生命を支えるミトコンドリア Part8 生命を支えるミトコンドリアのエネルギー代謝 ~遺伝子中心から代謝中心へ~】

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2026年8月31日
/ 最終更新日 : 2026年8月31日 / 松本医院ホームページ管理人

ここまで見てきたように、近年の生命科学の研究から明らかになってきたのは、生命現象の多くが遺伝子だけによって一方的に決められているのではなく、むしろ細胞のエネルギー代謝の状態によって大きく左右されているという事実です。

遺伝子は、生命を構成するタンパク質をつくるための情報を保持しています。しかし、その遺伝情報を読み取り、必要なタンパク質を合成し、傷ついたDNAを修復し、細胞を分裂させるためには、いずれもエネルギーが必要です[267]。どれほど正常な遺伝情報を持っていても、それを読み出して実行するためのエネルギーが不足すれば、細胞は本来の機能を十分に発揮することができません。また、代謝によって生み出されるATP、NAD⁺、アセチルCoAなどの物質は、単なる燃料や代謝産物ではありません。これらは遺伝子の発現やタンパク質の働き、細胞内の情報伝達にも影響を与えています[268-270]。つまり、遺伝子が代謝を規定するだけではなく、代謝の状態もまた遺伝子の働き方を変えているのです。このことからもわかる通り、生命は遺伝子から細胞へという一方向の仕組みではなく、遺伝子・代謝・環境が相互に影響し合う動的なネットワークとして成り立っているということです。

生命活動とは、外界から栄養素や酸素を取り込み、それらを利用してエネルギーを生み出しながら、細胞の秩序と構造を絶えず維持していく過程にほかなりません。細胞はこのエネルギーを使って、細胞膜を隔てたイオン濃度の差を保ち、タンパク質を合成し、損傷した成分を分解・修復し、新しい成分へと入れ替えています。私たちの身体は一見すると変わらないように見えますが、その内部では、古くなったものを壊し、新しいものをつくるという更新が絶え間なく続いています。

エネルギーの流れが十分に維持されているとき、細胞は安定した状態を保ち、環境の変化にも柔軟に対応できます。一方で、細胞レベルのエネルギー代謝が低下すると、修復、解毒、分泌、収縮、情報伝達といった働きが次第に滞ります。その影響が積み重なれば、組織の再生や臓器の機能、さらには全身の恒常性にも影響が及ぶことになります。

このエネルギー代謝の中心に位置しているのが、ミトコンドリアです。ミトコンドリアは糖質、脂質、アミノ酸などから得られたエネルギーを統合し、酸素を利用してATPを産生します。しかし、その役割はATPをつくることだけではありません。ミトコンドリアは、活性酸素の産生と制御、カルシウム濃度の調節、細胞死、自然免疫、炎症反応などにも深く関与しています。したがって、ミトコンドリアの状態は、細胞がどれだけエネルギーをつくれるかだけでなく、どのように外界の刺激に反応し、損傷から回復し、必要に応じて役割を変化させるかにも影響します。

そして、このミトコンドリアを含む全身のエネルギー代謝を調節する重要な上位制御系として働いているのが、甲状腺です。甲状腺ホルモンは、ミトコンドリアの数や呼吸鎖の働き、酸素消費、ATP産生、熱産生などを調節し、身体全体の代謝速度を方向づけています。甲状腺機能が変化すれば、単に「代謝が上がる・下がる」というだけでなく、細胞が栄養素をどのように利用し、エネルギーを成長、修復、活動、熱産生へどのように配分するかも変化するのです。

このような視点から生命を眺めると、生命とは単なる遺伝情報の集合ではなく、エネルギーの流れによって秩序を維持し続ける動的なシステムとして理解することができます。遺伝子はそのシステムを構成する重要な要素ですが、遺伝情報を実際の生命活動へと変換しているのは、細胞の中で絶えず続いているエネルギー代謝のネットワークです。

生命の本質――それは決して遺伝子ではなく、絶え間なく循環するエネルギーの流れなのです。そして、その中心にあるのがミトコンドリアであり、全身のエネルギー代謝を調節する重要な司令系こそが甲状腺なのです。

実は、免疫や皮膚の働きもまた、このミトコンドリアと甲状腺を中心としたエネルギー代謝に支えられています。免疫細胞が活性化し、役割を変化させ、炎症を収束させるためにもエネルギーが必要です。また皮膚においても、角化細胞の増殖と分化、脂質の合成、皮膚バリアの形成、傷ついた組織の修復など、あらゆる過程が代謝によって支えられています。

したがってアトピーを理解するためには、皮膚の表面や免疫反応だけを個別にみるのではなく、その働きを根底で支えている全身のエネルギー産生と、その利用・配分の状態にまで目を向ける必要があります。

次節からは、この「エネルギー代謝」を中心とした視点から、免疫や皮膚の働き、そしてそれらがアトピーの病態とどのように結びついているのかを、さらに詳しくみていきたいと思います。

参考文献▽
[267] F. Buttgereit, M.D. Brand, A hierarchy of ATP-consuming processes in mammalian cells, Biochemical Journal 312 (1995) 163–167. 10.1042/bj3120163.

[268] K.E. Wellen, G. Hatzivassiliou, U.M. Sachdeva, T.V. Bui, J.R. Cross, C.B. Thompson, ATP-Citrate Lyase Links Cellular Metabolism to Histone Acetylation, Science 324 (2009) 1076–1080. doi:10.1126/science.1164097.

[269] S.-i. Imai, C.M. Armstrong, M. Kaeberlein, L. Guarente, Transcriptional silencing and longevity protein Sir2 is an NAD-dependent histone deacetylase, Nature 403 (2000) 795–800. 10.1038/35001622.

[270] Y. Nakahata, S. Sahar, G. Astarita, M. Kaluzova, P. Sassone-Corsi, Circadian Control of the NAD<sup>+</sup> Salvage Pathway by CLOCK-SIRT1, Science 324 (2009) 654–657. doi:10.1126/science.1170803.

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